乳酸菌の菌体外多糖は,ヒトへのさまざまな機能性が報告されており,機能性食品や医薬・創薬への応用が期待されている.しかしながらこれら菌体外多糖の構造や物性,そして機能性は菌株レベルで異なっており,機能性の発現に重要となる構造的因子に関する知見は,現状,限られている.本稿では,菌体外多糖の構造や機能性に大きな影響を与えている,多糖を生合成する酵素について,近年明らかになったその作用機序および機能性に与える影響などを解説する.
船底防汚塗料への有機スズ化合物の使用が世界的に禁止されてから13年が経過した.その間新規の防汚剤は2種だけである.表面の微細構造や物性による防汚技術開発も進む一方で,防汚剤の有効性・必要性は確かである.しかしながら,結局化学物質を海洋に放出することと化学物質の環境規制の強化のため,新規の防汚剤の開発は困難を極めている.そのなかで,最近,フジツボのオクトパミンレセプターに作用する化合物が新規防汚剤として上市された.一方,天然物からの探索研究も活発であり,非常に活性の高い化合物も発見されているし,生分解性や低毒性に着目しながら開発フェーズが進んでいる化合物もある.
「性」は動植物を問わず,遺伝的多様性を維持するための根幹機構である.しかし,動物に代表されるような画一的な性決定システムとは対照的に,植物は,祖先型である両全性から系統独立的に何度も性の成立・逸脱を繰り返してきた.植物の遺伝的な性に関する研究は100年以上に及ぶが,性別決定因子はまだ数えるほどしか発見されておらず,その制御機構や進化過程も多くが謎に包まれている.いまだ黎明期にある植物の性決定研究であるが,そのシステムの多様性のなかにあって,植物特異的な性質や歴史から垣間見える「一般性」も確かに存在するようであり,本稿では,植物性決定因子の発見に関する最新の知見の中から,その多様性を駆動する仕組みについて考える.
同じ環境に生育するバクテリアは,競合,協力,中立,共生などの相互作用をしている.われわれは,貧栄養土壌からのスクリーニングにより,数多くのコロニーが得られたChromobacterium haemolyticumとBacillus thuringiensisおよび青紫色を呈するバクテリア(アメジスト菌と命名)の3種類に注目し,それらの相互作用を一つの寒天培地に2種類のバクテリアを接種し培養することにより観察した.C. haemolyticumとB. thuringiensisの相互作用は,培地の組成や寒天濃度,および植菌時のコロニー間距離により異なり,前者が後者のコロニーの接近を阻む場合と,前者が後者のコロニーを囲み,内部に侵食する場合の2種類の対応が認められた.また,アメジスト菌とB. thuringiensisを同じ寒天培地上に植菌すると,互いに接する様子が観察され,アメジスト菌とC. haemolyticumを同じ寒天培地上に植菌すると,両者のコロニーが接触する前に,C. haemolyticumのコロニーの縁が青紫色に変化した.このように,バクテリアの組み合せによって異なる相互作用をすることが明らかとなった.