生物はジアシル型グリセロリン脂質以外にも多様なリン脂質を利用している.その一つに,グリセリンの水酸基にエーテル結合を介して炭化水素鎖が結合したエーテル型リン脂質がある.近年,エーテル型リン脂質と未病,疾病との関係が注目されている.一方で,エーテル型リン脂質代謝酵素の研究はまだ途上にあり,その機能はほとんど未解明のまま残されている.筆者らはエーテル型リン脂質を加水分解する酵素ホスホリパーゼの機能解明を通じて,その基質分子識別メカニズム解明とともに,エーテル型リン脂質の酵素定量法への応用を目指した研究を進めている.
生体内に存在する低分子有機化合物全体を表すメタボローム情報の代謝成分研究への活用は,ゲノム情報の遺伝子研究への活用に比べて遅れている.さまざまな生物種におけるメタボローム情報の蓄積および整理が不十分なことが理由の一つではあるが,新規有用成分や未知代謝制御の解明のためには,メタボローム情報の活用が重要である.そのためには,関連するさまざまなデータベースや解析ツールを使いこなす必要がある.これらのデータベースを使うと何ができるのか,具体的な利用方法と利用時の注意点を紹介する.今後の課題や,将来の学術および産業界への応用の展望も述べる.
緑茶(Camellia sinensis L.)には免疫に関与する成分が含まれているが,免疫を賦活する作用があるものや,またその逆の作用を示す成分もある.しかし,緑茶の淹れ方や品種を選ぶことで,そのバランスを大きく変えることができる.ここでは,免疫に関与する緑茶成分と報告されている生理活性,温度による緑茶成分の溶出性の違いについて解説する.
果実の発達過程において,成熟の開始は果実生理の大きな転換期であり,多岐にわたる遺伝子群の同調的な,そして劇的な発現パターン変化により引き起こされる.トマトでは,ある転写因子の変異により成熟過程全般が全く進まなくなるため,その転写因子が成熟のマスターレギュレーターの役割をもつと信じられてきた.ところがこの転写因子遺伝子に,ゲノム編集により従来の自然変異とは異なる新規変異を与えると,この転写因子の役割が約半世紀にわたって誤解されていたことが明らかになり,さらに思いもよらぬ成熟パターンを示す果実が得られた.数々の不思議な表現型を示す新規の変異は,成熟制御の本質に迫る新たな知見を与えてくれるだろうか?
私たちは海洋性細菌に生分解性プラスチックを作らせることで,海洋マイクロプラスチック問題を解決しようと考えた.その結果,天日塩から海洋性細菌を単離でき,菌株の最適培養条件下で生分解性プラスチックの合成を確認した.その物質は細菌の貯蔵栄養分であるPHB(ポリヒドロキシ酪酸)であると推定された.また,バイオマスプラスチック配合レジ袋の土壌中での分解性についても調べたところ,ほとんど分解されないことがわかった.