ホップはビールに特有の苦味と香りを付与する原料であるが,香味以外にも抗菌性の付与,清澄性や泡もちといった外観安定性にも関与しており,ビールにとってなくてはならない原材料の一つである.近年,クラフトビールの世界的な流行に伴い,ホップの香りを強調したビールの需要が増えてきている.キリングループでは,発酵中にホップを添加することにより,ビールに豊かなホップ香を付与する技術(ディップホップ製法)を開発した.ディップホップ製法を深耕するにあたり,この技術はホップ香を付与するだけでなく,発酵中にホップと酵母との相互作用による新たな効果があることが示唆された.そこで,発酵中でこれらの相互作用がビールの品質へ及ぼす影響を明らかにすることを試みた.発酵経過や各成分への影響を詳細に検証したところ,これらの相互作用の効用とその機構の一端を明らかにすることができた.本稿では,これらの最新の研究成果と応用について解説する.
細菌のつくるセルロースはバクテリアセルロースとも称され,植物由来のセルロースと異なる物性があり,工業材料や医療用材料として注目されている.セルロース合成能は大腸菌や根粒菌をはじめとしてさまざまな中温性細菌にみつかっており,なかでも食酢醸造に使われる酢酸菌について研究がよく進んでいる(1).2003年に,温泉流水中の微生物集塊にセルロースが含まれることが報告され(2),好熱菌のつくるセルロースとして興味がもたれた.本稿では,高温硫黄泉にみられる微生物集塊を形成する化学合成微生物群集とそのセルロース合成に関する最近の知見を紹介する.
抗菌・ウイルス不活能をはじめとする「薬理機能」とプラスチックのような「易加工性」を備えた「メディシナルプラスチック」(略「メディプラ」)は,ウィズコロナ時代の新基軸材料として期待される.パンデミック終息後の新世界(ポストコロナ社会)では,二酸化炭素(CO2)の排出削減・海洋プラスチック汚染等への対策強化が求められる.現代は「公衆衛生と環境問題」の板ばさみの渦中にあり,産業回復の見通しは不透明,世界経済は既に重大かつ不可逆的な退縮局面に入ったとの予測もある.本著は,抗菌性と生分解性の両立を可能にする稀有のバイオ超分子新素材「ポリγグルタミン酸イオンコンプレックス(PGAIC)」に焦点をあてる.
マラリアはハマダラカが媒介するマラリア原虫が引き起こす寄生虫病で,年間死者数は40万人に上る.私はマラリアの撲滅に貢献したいと考え,原虫を媒介するハマダラカの制御(ベクターコントロール)に利用可能な「殺虫活性を示す微生物」に着目した.本研究では,身の回りから細菌を採取して,蚊の幼虫を用いた殺虫活性評価試験の結果をもとにスクリーニングし,活性が認められた菌株の種を同定した.その結果,殺ボウフラ活性を示す細菌としてBacillus cereus, B. megaterium, Pseudomonas fluorescensおよびP. chlororaphisの4菌株を単離することができた.