2020年に発生した新型コロナウィルス感染症によるパンデミックは,人類に対する痛烈なカウンターパンチと言えよう.その一方では,抗生物質が効かない薬剤耐性菌の問題も次第に深刻化しつつある.われわれはこれら有害な感染体や微生物と共存しつつも,常に彼らと闘わなければならない.食品産業ではHACCP(危害分析重要管理点)が制度化され,食品を危害微生物から守るための安全体制が強化される.一方で,消費者ニーズに応えるべく,殺菌条件を緩和した高品質食品がトレンド化しつつある.これらの潮流の中,食品微生物制御の分野で注目される損傷菌について,微生物学的な視点からその実態を論じるとともに,応用的視点からその集団動態の評価法を紹介する.
ダイエットをしたければ,朝食を抜くよりも夕食からその分のカロリーを減らした方が効果的である.血糖コントロールを良くしたければ,夕方早めの時間帯までに3食を終えるのが良い.がんを減らすには,十分な絶食時間を設けることである.これらは,時間栄養学研究が明らかにしつつある機能的食事法である(1).では,なぜそれほどまでに「食べる時間」が身体に影響するのであろうか.われわれの身体システムは体内時計に従った時間的分業から成り立っており,エネルギー代謝や免疫系を代表に,各種インプットやアウトプットに適した時刻が存在するからである.したがって,食品・栄養学研究においても,時計リズムの視点が欠かせない.
医薬品のみならず,われわれが機能性食品として活用しているポリフェノールなどの非栄養性化学物質が体内で有効性を示すためには,吸収,分布,代謝,排泄過程からなる体内動態が良好であることが求められる.しかしこれらの外来性化学物質は生体にとって異物であり,生体内の異物代謝酵素による化学構造の変化に伴い活性や動態特性も変化する.そのため医薬品や機能性食品開発においては代謝解析や代謝物の機能性・安全性評価が要求されるが,代謝物標準品の市販品入手はしばしば困難であり代謝研究の障壁となっている.本稿では,各研究分野における異物代謝研究の動向と異物代謝酵素発現酵母の活用事例を紹介する.
各地にある醤油醸造業は,地域ごとに独特の味や風合いなどを生み出す地域の特色ある食文化を担っている.しかし塩分濃度が高いことに加え廃液の処理の問題により年々醤油醸造業は減少してきている.そこで,われわれは長年研究を行ってきた淡水性ユーグレナによる廃しょうゆ処理を試みた.ユーグレナの培養実験ならびに培養したユーグレナの二枚貝の育種実験等を行った.その結果,ユーグレナが高塩分濃度で培養可能であることを明らかにした.また,廃しょうゆ処理で必要となる希釈水量の削減にもつながることを見いだした.さらに,希釈した廃しょうゆで培養したユーグレナを餌として与える二段階処理実験では,醤油の色調が茶褐色からほとんど透明に脱色できるとともに,アサリの旨味成分が増加するなど想定外の成果も得られた.このような研究結果を活かすことで,廃しょうゆ処理の経費削減およびアサリなどの餌を目的としたユーグレナの新たな利用方法を見込める可能性がある.