冬季うつ病は日照時間の短い冬に,気分の落ち込みや社会性の低下などの抑うつ症状が現れる季節性の精神疾患である.欧米の高緯度地域では罹患率が人口の約10%とされ,社会問題になっているが,発症機序は不明である.うつ病は統合失調症や双極性障害に比べて遺伝率が低く,環境因子とともに多数の遺伝子が関与しているため,従来の順遺伝学や逆遺伝学を用いたアプローチには限界があった.近年,精神疾患のモデル動物としてゼブラフィッシュやメダカなどの小型魚類が注目を集めているが,メダカにケミカルゲノミクスのアプローチを適用することで,冬季のうつ様行動を制御する分子機構が明らかになってきたので紹介する.
骨格筋は可塑性に富んだ組織であり,物理・化学(代謝)的環境の変化に応じて機能・形態的に順応する.たとえば,筋力トレーニングのような過負荷によって筋肥大や筋力の増加が生じる.反対に,寝たきりなどの不活動によって筋萎縮や筋力の低下が生じる.骨格筋は運動器としてのみならず代謝臓器としても重要な役割を果たすことから,その機能・量調節メカニズムの理解はわれわれの健康維持増進を図るうえで重要な基盤となる.本稿では,運動による骨格筋肥大の分子機構について,タンパク質代謝調節機構を中心に最新の知見を紹介する.
肝臓へ脂質が多く溜まる現象が脂肪肝である.以前は,アルコール常習者に多く見られるアルコール性脂肪肝が多かったが,現在ではアルコール飲酒とは無関係な脂肪肝が増えている.進行すると肝炎や肝硬変にまで進むことから脂肪肝にならないように管理することが重要である.生活習慣病の要因となる肥満は脂肪肝を伴うことが多く,生活習慣病の予防の観点からも脂肪肝予防が重要である.脂肪肝にはいろいろな要因があるが,ここでは筆者らが調べてきたメチオニン代謝と関連した脂肪肝とその栄養学的改善およびその機構を中心に概説する.
細菌,アーキア,酵母といった主要な微生物は単細胞生物であるため,細胞と外環境とを隔てる界面とは微生物細胞の表層である.そこで,微生物細胞表層の構造と機能,細胞とそれが接している外環境,特に細胞が接触しえる生物/非生物表面との相互作用について明らかにすることを目的とする学問分野を“界面微生物学”とするのなら,それを工学的に利用するための学理と方法論を扱う学問分野は“界面微生物工学”と言えよう.たとえば,バイオフィルムの工学利用,微生物固定化技術とその応用,細胞表層工学,膜タンパク質の利用などが界面微生物工学のテーマであろう.本稿では,界面微生物工学分野の最新動向を,筆者の研究を通して概観する.
「殺菌」,「抗菌」,「除菌」,「静菌」あるいは「防腐」等の言葉で代表されるような「微生物制御(microbial control)」を,「人や環境に危害を与える,あるいは有害現象を生み出す微生物をコントロールすること」と捉えると,日用品や食品等の製品を開発する際には,次の2つの視点から制御のための技術が求められる.一つは,i)製品の機能,価値の一部として,もう一つは,ii)製品の微生物学的安全性の確保のための技術としての視点からである.そして,適切な制御技術の開発には,対象とされる有害な現象に潜む微生物のありのままの姿を正確に理解することが重要なカギとなる.