澱粉は,植物科学の根幹であり,食糧として最も重要な炭水化物源である.筆者は,これまでイネを材料に澱粉生合成メカニズムの解明に取り組んできた.澱粉生合成に関与する酵素の変異体を多数単離・収集し,それらの澱粉構造や物性等を野生型と綿密に比較することで,各酵素の機能解明が飛躍的に進み,澱粉の主成分であるアミロペクチンの生合成モデルにつながった.一方で,変異体の中には,通常の米とはその澱粉の性質が全く異なるものがあった.筆者はこれらを品種改良することで,機能性や異なる食感を付与した新しい米品種の開発につなげ,自ら立ち上げた大学発ベンチャー企業による実用化と普及を目指している.本稿では,まず,我が国の医療と農業の問題点について触れ,澱粉生合成メカニズムの解明がどのようにしてこれらを問題解決する可能性がある品種の開発につながったか,に加え,品種育成法についても解説する.
微生物を用いて工業的に発酵生産されているイタコン酸は,電子不足な末端炭素–炭素二重結合を持ち付加反応性を示すことから,高分子原料などとして利用されている.近年,哺乳類のマクロファージもイタコン酸を生産しており,抗炎症活性などの生理活性を示すことが明らかとなっている.また,イタコン酸類縁体も微生物により生産されるが,構造多様性に富み抗腫瘍活性などの生理活性を示すことが知られている.これら生理活性の一部にはイタコン酸とその類縁体の付加反応性が関与している.本稿では,イタコン酸とその類縁体について,生理活性を中心に解説するとともに,筆者が行ってきた関連研究と医薬品・工業原料としての利用展望を述べる.
ホタルといえば,初夏に川辺で光を放って群飛するイメージを日本人は持っているのではないかと拝察する.日本のホタルが清流付近に棲息する理由は,日本のホタル(ゲンジとヘイケ)の幼生期が水棲であり,清流に棲息するカワニナ・タニシなどの淡水系の巻き貝を餌としているからである.またホタル成虫は摂食しなくなり,次の世代へ命を託し一生を終える.ホタルは濁水を好まず清流を飲み,美しく光を放ち無残に散る.この儚く世を全力で生き抜く様が,武士道の精神に通ずるのか,古来より日本人の琴線に触れてきたのであろう.本稿では,ホタルの発光機構が化学反応であること,これを人為制御して,先端生命科学技術へ応用する技術に触れる.
チョコレート(以下,チョコ)は,若い世代で最も人気のある菓子であるが,一般的に高カロリーで糖質が多い.一方,乳酸桿菌(以下,乳酸菌)の摂取は腸内フローラの改善作用により体重減少効果が報告されている.
そこで本研究では,20週齢(ヒトであれば10代の若い世代に相当)の肥満マウスに乳酸菌チョコを30日間投与する実験を行なった.その結果,高脂肪飼料のみを摂取した肥満マウスと比較し,高脂肪飼料と乳酸菌チョコを摂取した肥満マウスにおいて腸内フローラが改善されると共に,体重の有意な減少が認められた(−13%).このことから,肥満マウスにおいて乳酸菌チョコの投与は体重の減少効果がある可能性が示された.