ヒトは外部情報の実に80%を“目”から受容するといわれており,高齢化や生活スタイルの変化も鑑みると,Quality of life(QOL)維持のためには,生涯にわたって目の健康維持が重要である.にもかかわらず,目の中でも網膜などの体表面の奥にある組織に対しては目薬のような外側からのアプローチが難しく,実際にはほとんど直接ケア・疾病予防をする方法がない.また,近年の知見から,その他のあらゆる組織同様に目の疾患や不調にも免疫応答である“炎症”が関与していることが明らかになってきた.本稿では,目の未病・予防を目的とした,食素材である乳酸菌を用いた炎症を防ぐ新しいアイケアアプローチの発明を紹介する.
人類は人口増加を支える食料供給を実現した一方,農地への過剰な施肥により環境汚染や土壌の劣化を招いた.大量生産・大量消費型社会の弊害が指摘されている今,植物–微生物–土壌の農業環境のバランスを整え,持続的な作物生産を実現する環境共存型の新しい農業が求められている.植物と微生物の相互作用や土壌の豊かさなど農業生態系の実態を理解するためには,ビックデータと統合インフォマティクス解析の活用が有用である.本稿では,学術分野の垣根を超えて近年国内で進められている農業現場でのマルチオミクス解析について技術的背景と研究例を紹介し,マルチオミクス解析を活用した農業デジタルツインが拓く次世代農業の姿について論じる.
フジツボをはじめとする付着生物は,船底や漁網などへの付着を通じて,人類の海洋活動に重大な影響を及ぼしている.この影響は,付着生物の除去にかかる直接的な損失だけでなく,付着による燃費悪化と二酸化炭素の排出増加,そして有害な付着阻害化合物による海洋環境汚染など多岐にわたる.海洋環境に特に悪影響を与えた付着阻害化合物は禁止されたものの,バイオサイドと呼ばれる生物殺傷型の付着阻害化合物が現在でも用いられている.このような状況を打破するため,ウミウシやアメフラシなどが有する付着生物に対する防御機能,すなわち,環境にやさしい有機化合物が注目を集めている.それら有機化合物には付着阻害に重要な役割を果たす「付着阻害ユニット」が見出されており,そのユニットを搭載した有機化合物の創製研究が進められている.