植物培養細胞を利用して,目的とする有用な植物二次代謝産物を自由自在に生産できるようにならないだろうか? そんな疑問(希望)を筆者らは以前から抱いていた.それは,植物細胞培養技術が確立されてからおよそ半世紀の間,実用生産にまで至った例があまりにも少ないためである.植物培養細胞での物質生産における最大の問題は,目的とする二次代謝産物が作られなくなる「休眠」が頻繁に起こり,それを覚醒させることが容易ではないことであると思われる.筆者らが最近発見した「エピゲノムの改変による休眠二次代謝覚醒法」は,この問題を解決に導くだけでなく,新規物質や新規酵素の探索においても強力なツールとなる可能性を秘めている.
地球上には地球外有機化合物が常に降り注いでおり,生命活動においても見過ごせない影響を与えていると想定される.地球上の生命の中で,微生物は特に多様性が高く,広範囲にわたる化合物に対する物質代謝能を示す.実際,非生物由来である地球外有機化合物を代謝できるように進化してきた微生物も多く存在しており,その寛容性の高さは目を見張るものがある.本稿では,地球外アミノ酸の一種である2-アミノイソ酪酸(Aib)を代謝する微生物について取り上げ,そのユニークな代謝経路を紹介し,代謝酵素の分子進化の過程を推察したい.
プラスチックの分解やリサイクルに,酵素の利用が期待されている.本稿では,クチナーゼを高機能化し,PETを効率的に分解した結果や,弱いCa2+結合により機能発現する酵素の構造機能相関をご紹介する.
バレイショでは野生種や近縁種に由来する形質を導入した育種が100年以上前から行われてきた.その理由は種の多さと交雑し易さにある.これらの遺伝資源によって現在のバレイショ品種の多様性が広がり,病気に強く農業形質に優れた品種が育成されてきた.近年バレイショを種イモではなく種子で増殖生産するアイディアが国内外で広がっている.このバレイショF1育種が成功すれば,まったく新しいバレイショ生産増殖体系が確立するであろう.本稿ではこれまでのバレイショ遺伝資源の利用と今後期待されるバレイショF1育種の研究について解説したい.
化粧品のアウターケアにより肌荒れを経験した筆者は,本研究において,ポリフェノールを用いたインナーケアによるスキンケア(日焼け止め)効果を検討した.方法は,カカオポリフェノールの含有量が異なるチョコレートをヘアレスマウスに摂取させ,紫外線照射後に背部皮膚の紅斑を色差計にて測定し,日焼け予防効果を検証するというものである.その結果,カカオポリフェノール含有量の多いビターチョコレートに日焼け予防効果が認められた.