世界が直面する大きな問題に薬剤耐性菌の出現がある.その中で,新奇な細菌の生存戦略としてL-formが注目されている.L-formとは,大腸菌などの通常は細胞壁に覆われた細菌が,細胞壁を使わない原始的な増殖機構によって細胞壁を持たずに増殖し始める特殊な細胞増殖形態のことである.L-formでは細胞壁が生育に必須ではないため,細胞壁を標的とする抗生物質は効かず,細胞壁合成に必要な炭素源は他の物質の生産に使える.そのため,L-formは原始的な細胞増殖機構の側面からの細菌進化研究だけでなく,薬剤耐性や物質生産の面でも重要な意味を持つ.本稿では,様々な側面を持つ細菌の“L-form”という生存戦略について概説する.
食品脂質(トリアシルグリセロール;TG)の酸化により過酸化脂質(TGヒドロペルオキシド;TGOOH)が生じ,たとえ未開封の食品にもTGOOHは微量に含まれる.他方,私たちの体の中にもTGOOHが存在し,体内の過酸化脂質は疾病の発症や進行に関わると言われている.故に,実生活で摂取されるレベルのTGOOHが体内へどのように吸収され代謝されるのか(ひいては疾病に関わるのか)について,古くから興味が持たれてきた.こうした中で,筆者らは高選択的かつ高感度にTGOOHを分子種レベル,さらには異性体や同位体レベルで解析できるHPLC-MS/MS法を開発し,この活用により,少し意外なTGOOHの吸収・代謝の新たな側面が見えてきたため,概説する.
全ての生物は栄養環境の変化や様々な刺激によって細胞分裂を停止し,代謝活性が低く様々な環境ストレスに耐性な「静止期」という状態に移行する.そして増殖に適した環境の回復や細胞刺激により,再び細胞分裂を開始する.特に単細胞生物がグルコース枯渇によって移行する静止期は,「定常期」とよばれる.近年の酵母の研究によって,定常期の細胞状態は増殖期と大きく異なり,さらに分裂酵母では細胞周期を制御するサイクリン依存性キナーゼ(CDK)が定常期の確立制御にも関与することがわかってきた.本稿では酵母の研究から明らかになった定常期の細胞状態とCDKによる定常期の制御について紹介する.
もち小麦はデンプンがアミロペクチン100%であることから,パンの原料として混合し加工すると,もちもち感,のどごしのよさなど他の小麦粉にない特徴的な食感が出る(1).本研究では,もち小麦の製粉時に発生する末粉(すえこ;小麦粉として製品にならない外皮を除く胚芽,外胚乳などの粉末)のパンへの有効利用について検討した.そのまま添加するとえぐみや苦味が感じられ膨らみが悪いという課題があるが,微粉末に処理することで,膨らみともちもち感が増加し,のどごしの良さで有意な差が認められた.