マイクロRNA(miRNA)は,mRNAの特定の3′非翻訳領域に結合し,mRNAの分解または翻訳抑制を介して標的遺伝子の発現を抑制する.このような遺伝子サイレンシングにより,miRNAは多彩な生理プロセスに関与している.腸内細菌叢が腸管免疫系を調節することはよく知られているが,ここでもmiRNAによる遺伝子サイレンシングが一定の役割を果たすことを示唆する証拠が蓄積されつつある.一方,腸上皮細胞から腸管腔に放出されるmiRNAが腸内細菌叢の構成に影響する可能性が示唆されている.本稿では,このようなmiRNAを介した腸内細菌叢と宿主とのクロストークに関するこれまでの研究を紹介する.
我が国におけるスギ花粉症の有病率は40%に迫っており,その急増に歯止めをかけることができていない.また,ハウスダスト中のダニを原因とした気管支喘息やアレルギー性鼻炎の増加も我が国のみならず世界中で大きな社会問題となっている.そもそも我々の体はなぜ花粉やダニといった特定の環境生物種にさらされたときにだけアレルギーになりやすいのであろうか? この素朴な疑問に対しては未だに不明な点も多い.本稿では,この古くて新しい謎の解明にまつわる最近の話題を提供するとともに,当該知見をアレルギーの制圧にどう応用しうるのかについても議論してみたい.
真核細胞の内部には,核や小胞体,ゴルジ体,ミトコンドリアといった,膜で囲まれたオルガネラが存在し,それぞれが独特な機能を発揮する場となっている.近年,細胞内にはこうした膜で囲まれたオルガネラに加えて,タンパク質や核酸等で構成される「膜のないオルガネラ」が多数存在することが見出されてきた.特に,複数の代謝酵素が集合することで形成される「膜のないオルガネラ」は,細胞内で代謝反応を調節することが知られつつある.酵素の集合体形成による調節は,転写調節に加えた新たな細胞の代謝調節機構として注目を集めている.ここでは細胞内でみられる酵素集合体の種類と機能,その制御についての視点を中心に,過去・現在を踏まえ,最新の状況を交えた今後の展望を含めて全体的に概観する.
我々の身の回りには様々な花が存在しており日々の生活を豊かにしている.花の色は非常に多彩であり,そのもととなる色素分子が植物内でどのように生合成されるかについて現在までに多くの部分が解明されている.このため近年では,植物色素の生合成に関わる遺伝子情報を利用した新しい園芸品種の作出が試みられている.そこで本稿では,植物色素生合成経路の遺伝子情報を利用することで,交配親を選定し品種開発を行う従来の育種技術によって新しい花色を作出した例や,遺伝子組換え技術を駆使することで植物種を越えた花色を作出した例について紹介する.
筆者の取り組んでいる「植物性機能性成分による病態発症改善機能に関する研究」の最終的な到達目標は大きくふたつある.ひとつは,異物である植物性成分に対する生体の応答やそれによってもたらされる代謝変動の解析から,生命現象のより詳細な理解を目指すことである.もうひとつは,食機能に関する基礎的研究の成果を人々が日々の暮らしに活用できるように社会還元を目指すことである.本稿では,後者にフォーカスして,保健機能食品(特定保健用食品および機能性表示食品)における機能性関与成分として市場で活用されている植物性機能性成分について,その現状を紹介し,今後の展望についても考察したい.