酵母はビール製造における発酵工程で主要な役割を果たし,ビールの香味に最も大きな影響を与えている.安定した品質のビールを造るために,醸造技術者は長い経験に基づき発酵工程における管理を慎重に行っている.中でも,酵母の選択は最も重要であり,望ましい性質を持つ酵母を選抜し,それを常に最良の状態で安定に維持していくことは,醸造技術者にとって最大の関心事である.本稿では,従来からある解析技術に加えて,飛躍的に発展してきた遺伝子解析や成分分析技術を駆使して,下面ビール酵母の醸造特性を解析し,品質や工程の改善に繋げた.また,酵母による種々の香り成分の物質変換機構を解明し,香味改善や新商品開発にも展開した.

硫黄(S)は,全生物に必須かつ反応性の高い元素である.植物は無機Sを有機Sへと変換する主要な生物であり,自然界の硫黄サイクルに中心的な役割を果たす.生物の利用する様々な含硫有機物の源は植物による無機Sの同化にあると言っても過言ではない.植物の生育や発達, 作物の生産性や品質もS栄養の影響を受ける.アブラナ科植物が蓄積する含硫特化代謝物グルコシノレート(GSL)は病害虫抵抗性やヒトの健康増進に寄与する一方で、硫黄の貯蔵物質としても機能する.S栄養がGSLの生合成や代謝を変化させる仕組みについて概説する.

バイオ医薬品としても注目されている糖タンパク質は,単純タンパク質とは異なり翻訳後に糖鎖による修飾を受けている.細胞小器官内で行われる糖鎖の合成は前段階のペプチド合成のように鋳型依存ではなく,多段階の酵素反応によって達成される.このため,糖タンパク質はグリコフォームと呼ばれる多様な糖鎖で修飾を受けたタンパク質の混合物である.医薬品として糖タンパク質を用いる際にはこの翻訳後修飾による糖鎖の多型が問題となる場合がある.本稿では,糖タンパク質の例として抗体を取り上げ,糖鎖の多様性に注目して抗体医薬の現状と未来の糖タンパク質医薬の方向性について考察する.本稿が将来の糖タンパク質医薬品開発の一助となるとともに,タンパク質の糖鎖による修飾の重要性の再認識に繋がれば幸いである.

アミノカルボキシムコン酸セミアルデヒド脱炭酸酵素(ACMSD)はトリプトファンからNADへの転換率に大きな影響を与える鍵酵素である.ACMSDは脳やミクログリアにも発現し,神経毒キノリン酸の産生にも関わるという新しい機能が明らかになってきた.脳内炎症時におけるACMSDをはじめとするトリプトファン代謝の重要な酵素の食品成分による調節機構について解説する.

緑茶の茶葉には抗菌効果を示す成分が多く含まれているが,日常生活でこれを十分に活かしきれていない.我々は,溶媒ごとに抽出される成分やその含有量の違いと抗菌効果の関連性を明らかにすることを目的に,抽出溶媒や溶解溶媒による抽出液の効果と各抽出液に含まれるガレート型カテキンの相対的含有量を調べた.純水,エタノール,ヘキサンの抽出溶媒で比較した結果,純水の抽出液による抗菌効果が最も高く,エタノール,ヘキサンの順にその効果が低くなっていることがわかった.また,最も抗菌効果が高いとされるガレート型カテキンの含有量も同様に純水抽出が最も高く,次いで,エタノール,ヘキサンの順となっていることもわかった.さらに,最も抗菌作用が強い純水抽出液の溶媒を除去し,得られた成分を純水およびジメチルスルホキシド(DMSO)で再溶解させた溶液および元の純水抽出液の抗菌効果を比較すると,純水抽出液が最も高く,次に純水再溶解液,DMSO再溶解液の順となった.カテキン類の含有量が多い溶液ほど抗菌効果が高いという報告(1)があるが,今回の研究でも同様の結果が得られた.