土木学会論文集B2(海岸工学)
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72 巻, 2 号
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論文
  • 中山 恵介, 柿沼 太郎
    2016 年 72 巻 2 号 p. I_1-I_6
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/11/15
    ジャーナル フリー
     波動場における解析を行う際,鉛直断面内における渦の効果は無視されることが多い.しかし,波が浅水域を遡上する場合に底面からのせん断の効果により渦が発生することで,通常の波よりも丸みを帯びたbulbous waveへと変形することがある.波動場における渦を考慮しなくてはならない典型的な例であると考えられる.一方で,渦を考慮した波動場における理論解としては,トロコイド波の理論が存在する.渦度を考慮した強非線形強分散波動方程式が提案されているが,渦度の効果を正確に考慮できているかの検証がなされていない.そこで本研究では,Stokesによるトロコイド波の理論を利用して渦度を考慮した強非線形強分散波動方程式の精度検証およびbulbous waveに関する解析を実施し,その再現可能性を示すことが出来た.
  • 中山 恵介, 清水 健司, 柿沼 太郎, 辻 英一
    2016 年 72 巻 2 号 p. I_7-I_12
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/11/15
    ジャーナル フリー
     過去の水表面波の研究において,強非線形なソリトン波が共鳴する場合,最大で3.7倍程度の増幅率が発生することが示されており,Milesによる理論解である4.0倍に非常に近い値であることが知られている.しかし,これらの解析結果は単独で進行する2波によるソリトン波の共鳴現象であり,実際には津波が進行する場合,ソリトン波群として河川を遡上することとなる.そこで本研究では,試みとして4波の干渉を対象とした共鳴現象の解析を実施した.その結果,最大で約3.8倍の増幅率が得られた.さらに,反射波と進行波の干渉において,(3142)-typeは存在せずO-typeの干渉が卓越することが分かった.つまり,本理論を利用してソリトン波群の解析が容易に行えることが示唆された.
  • 山下 啓, 柿沼 太郎, 中山 恵介
    2016 年 72 巻 2 号 p. I_13-I_18
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/11/15
    ジャーナル フリー
     自由水面を有する2層流体を対象として,表面波・内部波共存場の孤立波解を算出した.そして,表面波モード及び内部波モードの表面孤立波及び内部孤立波に関して調べた.表面波・内部波共存場の表面波モードの孤立波の波速は,1層流体の表面孤立波より僅かに遅く,その差は,波高・静水深比が増加するにつれて減少した.表面波・内部波共存場の内部波モードの孤立波の波速も,表面波が共存しない場合より僅かに遅く,その差は,波高・静水時上層厚比が増加するにつれて減少した.また,表面波・内部波共存場の内部波モードの内部孤立波の最大波高は,表面波が共存しない場合よりも大きくなった.そして,内部波モードの表面孤立波と内部孤立波の波高比は,線形理論解より小さく,その差は,内部孤立波の波高・静水時上層厚比が大きいほど大きくなった.
  • 長谷部 雅伸, 多部田 茂, 早稲田 卓爾
    2016 年 72 巻 2 号 p. I_19-I_24
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/11/15
    ジャーナル フリー
     浅水場の数値解析における静水圧近似の適用性について,数値解析と波動理論による検討を行った.ソリトン分裂を伴う津波の遡上実験について静水圧モデル,非静水圧モデルおよび両者を動的に接続したモデルによって再現解析を行い,数値モデルの妥当性を検証するとともに,格子間隔や静水圧近似の適用による波形の再現性への影響を検討した.その結果,波形の分裂現象の再現には水平方向の格子サイズを十分小さくするとともに波峰を含む前後の非静水圧成分を考慮することが重要であることが分かった.この数値解析結果を踏まえ,格子間隔と流速値で定義される二つの静水圧パラメータδ=Δz/Δx,ε=|w/u|について非線形長波理論と有限振幅波理論に基づく理論検討を行った.その結果,浅水場の数値解析における具体的な静水圧近似の適用範囲としてδε<0.0087かつε2<0.03を導出した.
  • 上野 卓也, 由比 政年, 天方 匡純, 楳田 真也, 斎藤 武久
    2016 年 72 巻 2 号 p. I_25-I_30
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/11/15
    ジャーナル フリー
     津波数値解析では,遡上波先端部や常流・射流混在域において不連続波面を含む複雑な非定常流場が形成される.本研究では,小スケール構造物を考慮する場合に効果的である四分木格子と不連続波面の解析に有効である高解像度スキームをベースにした有限体積法による高速・高精度な数値モデルを構築した.構築した数値モデルは,四分木格子の活用により,計算精度を保ちつつ計算時間を大幅に短縮可能であり,計算時間と精度のバランス面から非常に有効である.また,既往実験との比較により,遡上や越流による流れ,構造物を回折する平面的な流れが生じるケースにおいて,流況特性(水位,流速,流体力)を定性的・定量的に再現する計算が可能であること,および,透過性防波柵周辺の流況特性,浸水深低減効果を的確に再現評価可能であることが検証された.
  • 臼井 彰宏, 平塚 優作, 青木 伸一, 川崎 浩司
    2016 年 72 巻 2 号 p. I_31-I_36
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/11/15
    ジャーナル フリー
     東北地方太平洋沖地震以降,粘り強い海岸・港湾構造物の必要性が指摘され実験的な検討も行われているが,実験で実際の津波に近い波を造波することは難しい.本研究では,著者らが提案した自走式造波装置の特徴や可能性について,体積力型IB法を導入したCADMAS-SURF/3Dを用いて検討した.その結果,次の知見を得た.1)造波板の長距離運動によって水路内に生じる定常波の大きさは造波板移動時間と指数関数的な関係にあり,造波水槽内の固有振動周期での振動が卓越する.2)越流実験については,ゲート式に比べて越流時間や越流水深を容易に制御できる.3)高潮のような水位上昇と同時に短周期の波を造波する際には,ドップラー効果を考慮することで目的の波の周波数に近づけられる.以上より,本装置を用いることでより実際に近い津波・高潮実験が可能となることが示された.
  • 高村 まや, 高橋 一徳, Christian N. KOYAMA, 有働 恵子, 佐藤 源之
    2016 年 72 巻 2 号 p. I_37-I_42
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/11/15
    ジャーナル フリー
     津波後の砂浜の回復過程を数ヶ月~数年スケールで3次元的に把握する手法として,地中レーダ(GPR)探査および衛星画像・空中写真,潮位データを用いた手法が提案されている.GPR探査結果の深度は,地中の体積含水率を推定し,それをもとに算出されることが多い.本研究ではCMP法を用いて地中の電磁波伝搬速度を推定し,TDR法を用いた結果と比較したところ,砂層および礫を含む砂層で構成される土壌において,走時100 nsのとき最大で0.7 m程度過大評価であることが明らかとなった.また,GPR探査結果と堆積物の物理的性質の関係を明らかにするため,山元海岸において,GPR探査測線上におけるボーリングコアの土質分析を行ったところ,GPR探査結果は比誘電率の変化を捉えており,比誘電率と対応する体積含水率は,土粒子密度と線形関係にあることが明らかとなった.
  • 喜岡 渉, 黒野 宏介, 山内 真太朗, 藤澤 真一郎
    2016 年 72 巻 2 号 p. I_43-I_48
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/11/15
    ジャーナル フリー
     振動水柱型波力発電ディバイス(OWC)空気室内の気流や圧力変動の解析のように,圧縮性の影響が無視できない流体運動解析に有効な二相流格子ボルツマンモデルを開発した.界面の位置を決める指標関数の計算には二相の平均密度を用い,各相の圧力(密度変化)と流速については,Zhengら(2006)の平均密度に対する粒子分布関数を弱圧縮性の仮定下で密度変化を考慮した格子ボルツマン方程式に修正したものを用いる.中程度の密度比(1:10~50)を仮定して円筒型OWC内の気流運動の再現性を検討した結果,圧力変動については再現可能であるが,空気室上面に設けたオリフィスからの排気・吸気時の気流速度や,高速気流が液相に衝突して生じる放射散乱波の再現には,より高密度比に適用可能なモデルへの拡張が必要であることがわかった.
  • 鶴田 修己, 後藤 仁志, 鈴木 高二朗, Abbas KHAYYER, 下迫 健一郎, 五十里 洋行
    2016 年 72 巻 2 号 p. I_49-I_54
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/11/15
    ジャーナル フリー
     堤体に作用する高波などの非定常性の高い波・流れは境界条件によって容易かつ複雑にその様相が変化するため,設計波力の算定において,境界条件の設定が簡便な数値波動水槽による水理実験計測の代替・補助的活用が期待される.完全ラグランジュ型手法である粒子法は,流動粒子の挙動を移流項の数値拡散無く追跡が可能であり,高精度スキームの発展に伴って非定常波浪場への適用事例が増えつつある.一方で,粒子法における精度確保の根幹たるkernel関数の高精度スキームへの適用性については議論が不十分である.本研究では,kernel関数による高精度微分演算モデルの収束性を検討するとともに,高精度自由表面境界モデルへ高次kernel関数を新たに導入し,スロッシング現象のベンチマークテストから圧力擾乱の改善を確認した.
  • 後藤 仁志, Abbas KHAYYER, 清水 裕真
    2016 年 72 巻 2 号 p. I_55-I_60
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/11/15
    ジャーナル フリー
     ISPH法は分裂・合体を含む複雑な水面変動を伴う問題の解析に優れる流体解析手法の一つである.近年では様々な高精度化スキームが提案され,これまで問題とされてきた非物理的な圧力擾乱の問題は払拭されつつある.しかしながら,砕波に伴う複雑乱流場の数値流体力学には力学的エネルギーの保存性が必須の条件であるにもかかわらず,既存のISPH法では力学的エネルギーの保存性についての検証はほとんどされていない.そこで本稿では,波の伝播に関するベンチマークテストを実施し,高精度ISPH法のエネルギー保存性について検証を実施する.
  • 五十里 洋行, 後藤 仁志, 松島 良太郎
    2016 年 72 巻 2 号 p. I_61-I_66
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/11/15
    ジャーナル フリー
     津波越流発生時の防波堤の安定性をより正確に評価するためには,越流水による洗掘に伴う地盤変形も考慮に入れた検討が必須である.粒子法は,複雑な水面変形および地盤の大変形の解析に適した手法であるので,このような場への適用が期待されるが,実際の砂粒径よりも粗いサイズの計算粒径を用いて洗掘の進行速度の妥当性を維持するためには,計算粒径以下の砂粒(濁質)の挙動を考慮するサブモデルの導入が有効である.本モデルでは,このような濁質の輸送を移流拡散方程式によって解くが,粒子法をベースとした濁質輸送モデルの妥当性については詳細な検討がなされていない.そこで,本研究では,本モデルの妥当性を検証するために,濁水の水面突入・拡散から濁質の堆積に至るまでの数値解析を実施し,既往の水理実験結果との比較を行う.
  • 渡部 靖憲, 佐々木 理沙, 小柳津 遥陽, 牧田 拓也, 森岡 晃一, 猿渡 亜由未
    2016 年 72 巻 2 号 p. I_67-I_72
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/11/15
    ジャーナル フリー
     本研究では,遡上波先端の水面境界条件となるムービングコンタクトライン接触角経験モデルをLevel-set法ベースの自由水面流れ計算に導入する数値モデルを提案し,遡上波流れの接触依存性をダムブレークテストで検証する.また,2011年東北津波の釜石市街への浸水過程を模擬する都市浸水モデル地形における津波の防潮堤からの越流,街路への貯留に起因する段波の生成と伝播,不透過街区への衝突,さらに交差点での遡上波の合流,衝突過程の特徴を抽出し,典型的な津波の都市型浸水シナリオを提示する.
  • 長山 昭夫, 犬飼 直之, 松島 康太, 浅野 敏之
    2016 年 72 巻 2 号 p. I_73-I_78
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/11/15
    ジャーナル フリー
     本研究は,平成26年に新潟県上越市上下浜で発生した水難事故の発生要因について,現地観測と数値計算により検討を行ったものである.特に事故の発生した砂浜はカスプ地形であることから,水難者はカスプ地形に起因する流れに影響を受けたと仮説を立て検討を行った.その結果,事故当日は波高が高く入射波が広範囲に遡上していたこと,また遡上した波が地盤高さの低い位置に集中し,引き波として沖に移動するといった現象を確認した.また数値計算により波の遡上域における水位変動と3次元の流速成分を検討した結果,カスプ地形により水塊が集中する箇所では遡上波と引き波による大きな流速が発生していることを明らかにした.以上のような特徴的な流れが水難事故に影響を与えた可能性があることがわかった.
  • 白水 元, 佐々 真志, 宮武 誠
    2016 年 72 巻 2 号 p. I_79-I_84
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/11/15
    ジャーナル フリー
     波の遡上に伴う底質内部のサクション動態が間隙変化を誘発させることを現地において確認しているが,それらが前浜域の地形変化に及ぼす影響についての定量的な考察は未達である.そこで本研究では2次元造波水路内に実際の砂浜を対象とした砂浜模型を製作しこれに現地波浪を想定した波を作用させ,前浜の地形変化過程におけるサクション挙動と底質の強度変化を定量的に捉えた.また,そこで観測されたサクション動態の効果を考慮した数値モデルを用いて模型実験の再現計算を試み,地形変化中のサクション動態の影響を考察した.その結果,サクション動態効果の遡上域での地形変化への寄与の再現に成功すると共に,遡上斜面では当該効果による漂砂量抑制効果が有効に働くことを明らかにした.
  • 犬飼 直之, 小宮 和樹, 福元 正武, 石野 芳夫, 坂井 良輔
    2016 年 72 巻 2 号 p. I_85-I_90
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/11/15
    ジャーナル フリー
     金沢港北東側に位置する内灘海岸は広大な砂浜地形を有しており,離岸流による事故が多発している.本研究では,内灘海岸を含む石川県内で発生した海浜事故の情報を入手し,事故発生時の波浪状況の把握をおこなった.次に,内灘海岸で波浪観測をおこない,金沢港波浪データと比較を行うことで内灘海岸での波浪特性を把握した.また,ADCPを水上バイクに設置し平面的に観測したデータから,内灘海岸の地形的特徴を把握するとともに,流速データから離岸流成分の抽出を行い,離岸流観測結果と比較した.更に複数の離岸流の発生間隔を把握し,離岸流発生間隔の推算結果との比較を行った.
  • 田村 仁, William M. DRENNAN
    2016 年 72 巻 2 号 p. I_91-I_96
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/11/15
    ジャーナル フリー
     海上風乱流は風波の生成発達において第一義的に重要である.しかし海上では波浪が大気乱流に影響を及ぼすため波浪境界層が顕著となり,接地境界層理論は適用できない.本研究では海洋観測プロジェクトSHOWEXで得られた海上風乱流および水位変動データから様々な海象条件下における乱流特性の解明を試みた.風波が卓越する場合,波浪境界層内の乱流フラックスは相似なスペクトル構造を示す.波浪スペクトルは発達に対してピーク周波数帯でエネルギーが増加するが,高周波数側ではPhillips型スペクトルが現れ,そのエネルギーレベルも波形勾配も発達に関係なく一定の値となる.一方,うねりが卓越する場合,乱流スペクトルは波浪のピーク周期帯で上向きの運動量輸送が顕著となる.下向き・上向き運動量フラックスの比および波形勾配は海上風と波速の比に対して増加する.
  • 大塚 淳一, 渡部 靖憲
    2016 年 72 巻 2 号 p. I_97-I_102
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/11/15
    ジャーナル フリー
     一様勾配斜面を設置した造波水槽内の砕波帯で溶存炭酸ガス濃度と流速,混入気泡の画像計測を行い,砕波帯におけるガス輸送特性を明らかにした.気泡混入量が多く,強い乱れエネルギーが生じる遷移領域では,気相から液相へのガス輸送が活発であると同時に乱れによる拡散が瞬時に行われるためガス濃度は容易に上昇しない.水深が浅く乱れエネルギーが比較的小さいボア領域では,遷移領域よりもガス濃度が速く上昇する.ボア領域で高濃度化した溶存ガスは底面付近で発達する比較的強い戻り流れによって沖側深部へ輸送される.砕波帯全体のガス輸送を評価・予測する際には,気泡や流体の乱れによる気相から液相への直接的なガス輸送に加えて,底面付近で発達する戻り流れのガス輸送への寄与を評価する必要がある.
  • 小柳津 遥陽, 渡部 靖憲
    2016 年 72 巻 2 号 p. I_103-I_108
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/11/15
    ジャーナル フリー
     本研究は,砕波帯内に定常的に形成される気泡モデルとして,高数密度微細気泡群を電気分解によって発生させ,そのサイズ分布,運動学的,力学的特徴を画像分析によって明らかにするものである.発生気泡サイズ分布は対数正規分布によって記述され,その分布パラメータは電流によって一意に決定させる.また気泡サイズスペクトルは,砕波帯内の微細気泡が示す-3/2乗の勾配と同等な特徴を示す.高数密度微細気泡群の運動に有意な集積効果が現れることを発見し,この効果を含む気泡終末上昇速度モデル並びに抗力係数モデルを開発した.
  • 平山 克也, 相田 康洋, 川口 浩二, 藤木 峻, 峯村 浩治, 森谷 拓実
    2016 年 72 巻 2 号 p. I_109-I_114
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/11/15
    ジャーナル フリー
     深海域に囲まれた特有な地形条件を有する海洋上の離島港湾では,波はほぼ全方位から来襲する.本研究では,沖縄本島の東約360kmの海洋上に位置する南北大東港に対して波浪推算及び波浪変形計算を行い,各岸壁に対する確率沖波及び作用波を効率的に算定する手法を示すとともに,その妥当性を海岸近傍で取得された擾乱時の波浪観測記録を用いて検証した.
     波浪推算においては海洋上の孤島を敢えて海域とみなすことにより,逆に全方位の沖波の算定が可能となる.また,スペクトル法とのone-wayカップリングが可能なブシネスクモデルは,島による波の回折やトラップ効果を考慮した各岸壁への作用波だけでなく,岸壁上の越波浸水過程なども効率的に算定可能であるが,推算波を入力した沿岸波の再現計算では観測波高を過小評価する傾向がみられた.
  • 藤木 峻, 橋本 典明, 川口 浩二, 櫻庭 敏
    2016 年 72 巻 2 号 p. I_115-I_120
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/11/15
    ジャーナル フリー
     うねり性波浪の実態解明のためには,現地波浪の観測データから方向スペクトルを精度よく推定する必要がある.本研究では,海象計による方向スペクトルの推定手法として開発された拡張最尤法とベイズ法に加えて,より厳密な計算で方向スペクトルを推定するよう高精度化を行ったベイズ法について,方向スペクトルの推定精度の評価を行った.うねり性波浪を想定した模擬観測データを数値シミュレーションにより作成し,各手法による方向スペクトルの推定精度を比較する数値実験を実施した.数値実験の結果,高精度化したベイズ法を用いることで,今回想定したうねり性波浪の方向スペクトルを最も高精度に推定できることが分かった.
  • 泉宮 尊司, 菊地 優太, 石橋 邦彦
    2016 年 72 巻 2 号 p. I_121-I_126
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/11/15
    ジャーナル フリー
     本研究では,常時微動の特性と起源を明らかにするために,新潟西海岸において広帯域速度計を用いて,常時微動を計測している.観測された常時微動には,周期が3s~4sの変動成分が卓越しており,これは丁度新潟西海岸に襲来している波浪の有義波周期の約半分であった.また,常時微動の卓越振動方向についても調べたところ,ほぼ北向きが卓越しており,波浪の大きい日本海の北東部に向いていることが明らかとなった.常時微動と波浪との関係を調べるために,Longuet-Higgins1)およびHasselmann2)の理論を用いて,常時微動と海底面圧力のスペクトルの比較も行った.その結果,両者の形状およびピーク周波数はよく一致し,彼らの理論がほぼ正しく,波浪の非線形干渉による圧力変動が常時微動の主要因であることが明らかとなった.
  • 木村 晃, 太田 隆夫
    2016 年 72 巻 2 号 p. I_127-I_132
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/11/15
    ジャーナル フリー
     波候統計は多くの波浪の統計学的な特性を含む概念で,年間のすべての波の情報を取り扱うことが可能である.本研究は太平洋沿岸域の波候の統計学的な特性を目的として行ったもので,苫小牧から宮崎までの間で8観測地点を選び,各地における波候特性の検討とモデル化を試みたものである.太平洋沿岸域では台風の影響が特徴的で,通常時波浪とかなり異なる特性を持つ.ここでは通常時と台風時のそれぞれの特性を独立に検討してモデル化を行い,両者を加え合わせることで結果を得た.最後に10,000年分のモンテカルロシミュレーションを行って極値統計との比較を行い,再現年に対応する波高H1/3以上の波が当該再現年(50~100年程度)中に0.5~0.8時間程度出現することを示した.
  • 野中 浩一, 山口 正隆, 畑田 佳男, 井内 国光, 宇都宮 好博, 日野 幹雄
    2016 年 72 巻 2 号 p. I_133-I_138
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/11/15
    ジャーナル フリー
     近年,気象庁より公表されている高時空間解像度条件でのMSM(Meso Scale Model)風資料を入力条件として1点浅海モデルによる長期波浪推算システムを再構築し,日本海の15沿岸地点と北部3沖合地点の最長12年間に及ぶ波高,周期の推算資料と観測資料の比較からその精度を調べ,つぎの結果を得た.1)風波が卓越する準閉鎖海域の日本海では,波浪推算モデルを同一のままで,単にECMWFなどの表面風再解析値資料に代えてMSM風資料を入力条件とすることにより,波浪推算の高精度化が可能である.因みに,波高および周期について相関係数の平均値は0.95および0.85であり,従来の結果と比べて0.04~0.08の増加が得られる.2)推算精度の向上に地域的な偏りはみられず,またMSM風の経年的な高精度化の影響は顕在化しない.
  • 岸本 理紗子, 森 信人, 志村 智也, 安田 誠宏, 間瀬 肇
    2016 年 72 巻 2 号 p. I_139-I_144
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/11/15
    ジャーナル フリー
     JRA-55長期再解析と,これをもとに計算された波浪解析値を基本データとし,大気情報から波高を計算する統計的波高予測モデルを開発した.各計算格子点において,ある時点の場の風と気圧の情報のみから波高計算を行う従来モデルに,気圧の主成分の時係数を説明変数として加えて,うねりを考慮可能とした.気圧の主成分を考えることにより,その場の風や気圧の情報のみから計算を行う従来モデルと比較して,大幅な精度の向上を得た.特に従来モデルで相関の良くなかった海域において,誤差を大きく減少させることができ,中でも夏季の波高減少や冬季の波高増加の季節変動特性の過小評価が改善された.
  • 畑田 佳男, 白神 恭平
    2016 年 72 巻 2 号 p. I_145-I_150
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/11/15
    ジャーナル フリー
     台風モデル法で海上風を推定した1934~2013年の波浪推算結果から北西太平洋における50年確率波高H50の経年変化を調査した.このため80年間の推算結果の中に開始時点を10年ずつずらした30年(あるいは40年)の波高資料を6組(5組)作成し,各組のH50の比較からつぎの結果を得た.1)統計期間を30年としたH50は多くの地点で明瞭な増減傾向を示さない.2)期間を40年としたH50も同様な経年変化を示すが,その変動は30年の場合より小さい.3)H50の算出に用いた年最大波高のトレンド示数ITは九州西岸,北海道南方沖で増加傾向を示すものの,有意な増減を表わす2を越える地点は数地点に限られる.4)対象領域のH50は過去80年間においては顕著な増加減少傾向を示さない.
  • 野中 浩一, 山口 正隆, 井内 国光, 宇都宮 好博, 日野 幹雄, 畑田 佳男
    2016 年 72 巻 2 号 p. I_151-I_156
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/11/15
    ジャーナル フリー
     気象庁MSM風資料と第3世代モデルSWANよりなる波浪推算システムを地形解像度0.1°の格子網のもとで2009年~2012年の4低気圧と6台風およびそれ以前の3台風に適用し,東北から四国の太平洋岸10~20km沖合に設置されたGPS波浪計による観測波高・周期時系列との比較検討から次の結果を得た.1)波高の推算値は観測値におおむね追従するが,周期の対応はやや低くなる.2)台風通過時に推算値は観測値の急増減に十分には応答しないことから,観測値より大きい値を与える.3)上記の特性が誤差統計量に反映されるため,台風の影響が大きい西側地点で推算値の過大評価がやや目につく.4)ストーム時最大波高に対して推算値は観測値と±20%の相対誤差内で符合する.5)第2世代モデルYH3も最大波高に対してSWANと同程度の対応を与える.
  • 山口 正隆, 野中 浩一, 井内 国光, 日野 幹雄, 畑田 佳男
    2016 年 72 巻 2 号 p. I_157-I_162
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/11/15
    ジャーナル フリー
     近年,気象庁により公開されているMSM(Meso Scale Model)に基づく高地形解像度風資料(MSM風資料)の精度を海上部で検証した事例はほぼみかけない.本研究では,1時間間隔のMSM風資料とわが国太平洋岸沖合の広い範囲に展開された4基のブイで取得された10年間前後の観測風資料を期間全体および36ストームについて比較検討し,つぎの結果を得た.1)長期のMSM風速・風向はそれぞれの観測結果と全体平均としてよく符合するが,低風速時にばらつきが大きく,高風速時に対応が向上する.2)MSM風資料の精度はモデル条件の高度化がはかられた最近のものほどやや高くなる.3)個々のストーム時にMSM風は観測風の経時変化によく追従し,良好な対応を与える.暴風ケースでは,両者の対応は一層向上する.4)要するに,MSM風資料の精度はストーム時最大風速を含めてかなり高い.
  • 横田 雅紀, 小田 圭祐, 齋藤 隆介, 橋本 典明, 三井 正雄, 児玉 充由
    2016 年 72 巻 2 号 p. I_163-I_168
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/11/15
    ジャーナル フリー
     本研究では,日本沿岸に来襲する波浪の方向集中度の出現特性に関して,全国港湾海洋波浪情報網(NOWPHAS)により観測されているデータから推定される方向集中度および,WAMによる波浪推算で得られる方向集中度の出現特性を明らかにするとともに,合田・鈴木(1975)の提案する値との比較を行った.波浪推算モデルで得られたSmaxを波形勾配別に比較すると大きくばらつくものの,平均Smaxは合田らの設定値と同様に波形勾配の増大とともに減少する傾向がみられた.NOWPHASの観測結果から推定される平均Smaxは波形勾配によらず,概ね10~20程度の値であり,風波については合田らの推定値よりやや大きい可能性が示唆された.
  • 西村 悠希, 松浦 知徳
    2016 年 72 巻 2 号 p. I_169-I_174
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/11/15
    ジャーナル フリー
     NOWPHAS等の定常観測では,波浪が深海域から浅海域に至る過程で海底地形や海岸線地形によって,どのように2次元的に変化していくかを捉えることは出来ない.近年,合成開口レーダ(SAR)の衛星画像から広域の波浪の空間的挙動を解析することが可能となり,最新の衛星画像としてALOS-2/PALSAR-2衛星画像の利用が可能となった.本研究では日本海側海域の海岸線地形と海底地形の急勾配がもたらす波浪の2次元変化に着目し,2014年12月2日12:35(JST)に撮影された2枚のALOS-2/PALSAR-2衛星画像を用いて,波浪パラメータ(有義波長,波向,有義波高)の推算を行い,海洋波浪の2次元空間分布の推定を行った.その結果,海岸線地形と水深変化に伴う波浪の2次元変化を捉えることが可能となったと共に,波浪の波高に対して海岸線地形による遮蔽効果の影響が明らかにされた.
  • 斎藤 武久, 小久保 元貴, 間瀬 肇
    2016 年 72 巻 2 号 p. I_175-I_180
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/11/15
    ジャーナル フリー
     本研究では,日本海沿岸域,特に富山湾を含む周辺で発生し,これまでも甚大な被害を引き起こしているうねり性の高波「寄り回り波」について,ニューラルネットワークを用いてその発生を予測可能とするモデルの構築を試みる.ニューラルネットモデルの構築に際しては,寄り回り波の発生メカニズムを参考にうねり性の高波の発生源となる東北以北の日本海域での気象および海象データを入力因子とし,対象とする波浪観測地点の観測波高を出力因子とする.
     解析の結果,うねり性の高波の発生源における大気圧,風速成分および波高を入力因子とした場合,13時間程度経過後における対象地点での波高を良好に再現できることが明らかになった.
  • 中條 壮大, 山口 龍太, 外村 隆臣, 金 洙列
    2016 年 72 巻 2 号 p. I_181-I_186
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/11/15
    ジャーナル フリー
     九州地方で観測される異常潮位であるあびきは,気象擾乱により生じた微小気圧波が引き金となって生じるとされている.しかしながら,実際にその微小気圧波が発生する地点をリアルタイムで予測することは難しく,あびきの事前予報を困難にしている.本研究では潮位や気象データの定点観測値を入力値とするニューラルネットワークモデルを提案し,その再現性を検証するとともに,リアルタイムのあびき予測への適用可能性について検討した.その結果,微小気圧変動や風向といった変数が予測精度の向上に関わる事や,多地点の観測情報により精度向上が見込まれること等を明らかにした.また,リアルタイム予測におけるリードタイムがモデルの再現精度に及ぼす影響について調べ,学習回数,中間層の数等のモデルパラメータの感度解析を実施した.
  • 田中 健路, 伊藤 大樹, 昌子 舜
    2016 年 72 巻 2 号 p. I_187-I_192
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/11/15
    ジャーナル フリー
     東シナ海上で発生する気象津波の伝播・増幅過程について,Princeton Ocean Model (POM)を基本モデルとした多重ネスト型数値モデルを構築して解析を行った.気圧波が東シナ海上を東進する際に,沖縄トラフ通過時の海洋長波の位相速度の急増に伴い,正の気圧偏差前面に形成された第1波の押し波が気圧波よりも30~60分早く九州西岸に到達することが示された.気圧波が長崎湾に到達する際に,25分から30分 の周期帯の成分が増幅し,第3波で全振幅2m以上の副振動が発生することが示された.連続した小規模な気圧波群が九州西岸を通過する場合,個々の気圧波のスケールが小規模であっても,数10波連続すると九州西岸の広範囲において気象津波の到達による副振動が生じ,湾の固有振動周期の振動が長時間残存することが示された.
  • 槙野 公平, 信岡 尚道
    2016 年 72 巻 2 号 p. I_193-I_198
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/11/15
    ジャーナル フリー
     本研究では高潮災害を対象に,数百km程度の範囲の沿岸域において地域頻度解析手法で地域の統計的変動性を抑えることを検討し,さらに同手法の活用による確率的な高潮浸水域予測への効果を確認することを目的とした.地域頻度解析の手順に従って小名浜港から千葉港までの5地点の地域分類について検討したところ,地域共通分布を用いることで隣接する地点間のばらつきをまとめるような関数を選択することができた.また様々な高潮の極値統計解析を行った結果,地域頻度解析手法を用いることにより大洗港,銚子漁港における極値データの統計的変動を小さくすることができた.さらに高潮数値計算で確率的な浸水域を求めた結果も,同手法を活用することで浸水域の変動を抑え,平均的で安定した浸水想定を行うことができることを示した.
  • 川崎 浩司, 二村 昌樹, 下川 信也, 飯塚 聡, 栢原 孝浩, 佐々木 淳
    2016 年 72 巻 2 号 p. I_199-I_204
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/11/15
    ジャーナル フリー
     地球温暖化による海水温の上昇により,巨大台風の襲来およびそれに伴う甚大な高潮災害の発生が危惧されている.高潮災害を未然に防ぐために,高潮推算の高精度化およびリアルタイム予測の重要性が増しつつある.本研究では,リアルタイム高精度高潮予測を目的に,非構造格子海洋流動モデルの1つであるFVCOM,メソ数値予報モデルMSMによる気象庁数値予報データ,海洋潮汐予測プログラムNAO.99Jbを用いた高潮推算システムを構築した.そして,本システムを適用した既往台風の高潮推算を実施することにより,結果の妥当性・適用性を検証した.推算の結果,台風の通過経路で最大高潮偏差の値および時間を良好に再現できることが認められた.また,大規模シミュレーションシステム上での並列計算により,本システムはリアルタイム高潮予測に適用可能であることが確認された.
  • 山城 賢, 百合野 晃大, 横田 雅紀, 児玉 充由, 橋本 典明
    2016 年 72 巻 2 号 p. I_205-I_210
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/11/15
    ジャーナル フリー
     近年の海洋流動モデルは,C. Chen et al.(2003)により開発されたFVCOM (Finite Volume Coastal Ocean Model)などのように非構造格子を採用しており,従来の構造格子に比べ複雑な海岸線をより詳細に表現できる.本研究では,有明海湾奥部を対象に,高潮氾濫シミュレーションに対する非構造格子モデルの適用性について検討した.シミュレーションにおいては,台風による気圧低下と風のみでなく天文潮位や河川流量を考慮した.その結果,潮位の与え方(朔望平均満潮位で一定とするか潮位変動を与えるか),高潮と天文潮位のタイミング,さらに河川流が高潮氾濫過程に及ぼす影響などについて検討が可能であり,非構造格子モデルが高潮氾濫過程の詳細についての検討に有用であることが確認された.
  • 川崎 浩司, 下川 信也, 村上 智一
    2016 年 72 巻 2 号 p. I_211-I_216
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/11/15
    ジャーナル フリー
     近年,地球温暖化による台風の強大化と海面上昇が危惧されており,過去最大級の伊勢湾台風を上回る巨大台風の襲来が及ぼす影響について検討することは重要である.つまり,襲来する可能性がある台風の規模と台風襲来によって起こりうる高潮災害の規模を予測することが必須となる.そこで,本研究では,伊勢湾湾奥部を対象に,室戸台風級の超巨大台風時,および現在/将来気候から予想される最大高潮条件における高潮浸水計算を行い,超巨大台風による浸水特性について検討した.その結果,海抜ゼロメートル地帯である伊勢湾湾奥部では,一旦,高潮によって溢水すると,人的・物的被害が一気に拡大することがわかり,甚大な高潮災害を軽減させるためには早期避難が重要であるとことがわかった.
  • 澁谷 容子, 中條 壮大, 金 洙列, 森 信人, 間瀬 肇
    2016 年 72 巻 2 号 p. I_217-I_222
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/11/15
    ジャーナル フリー
     地球温暖化による様々な沿岸外力の変化(海面上昇や波浪特性の変化,台風特性の変化など)に伴う様々な影響評価が行われている.本研究では,第二室戸台風を基準として台風の将来変化に伴う大阪湾を対象とした高潮災害の感度評価を行い,その再現期間を推定した.台風経路を変化させ,最悪経路の算出を行った後,最悪経路および台風強度の増加による高潮偏差と浸水範囲の算定を行った.さらに,確率台風モデルを用いて,最大クラス群の台風の再現期間を推定した.その結果,第二室戸台風が大阪港にとって最も危険な経路を通過した場合,第二室戸台風より高潮偏差が1.3 m高く,その経路の再現期間は21年であることが示された.また,最悪経路を通り,将来台風の強度が増大した場合,淀川流域以外で浸水し,さらに海面上昇が加わると,大阪市一帯も浸水する結果が得られた.
  • 吉野 純, 高島 利紗, 小林 智尚
    2016 年 72 巻 2 号 p. I_223-I_228
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/11/15
    ジャーナル フリー
     本研究では,可能最大強度(MPI)に達した台風がもたらす可能最大高潮(MPSS)を高効率かつ高精度に評価すること目的として,MPIの変化のみならず最大風速半径(RMW)の変化をも考慮できる新しいMPI台風-高潮結合モデルを構築した.CMIP3が提供する全球気候モデルHadCM3の結果を用いて,伊勢湾におけるMPSSの長期変動を,MPIのみを考慮する場合(CASE1)とMPIとRMWの両方を考慮する場合(CASE2)に別けて評価した.その結果,名古屋港におけるMPSSの100年間上昇量は,CASE1の場合,B1シナリオで+2.5m,A2シナリオで+3.2mとなるのに対して,CASE2の場合,B1シナリオで+3.2m,A2シナリオで+3.9mとなり,MPSSの評価に際してRMWを適切に考慮することの重要性が明らかとなった.
  • 竹下 哲也, 姫野 一樹, 伍井 稔, 冨永 侑歩, 加藤 憲一, 諏訪 義雄
    2016 年 72 巻 2 号 p. I_229-I_234
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/11/15
    ジャーナル フリー
     高潮浸水想定において必要となる台風や低気圧の経路の設定のための感度分析や,計算に必要な気圧場のデータ作成を行った.
     その結果,台風の経路については,海岸の向きや形状,風向により潮位偏差が大きくなる方向がある程度予想できるとともに,感度分析を通じて潮位偏差が最大となる経路の絞り込みが可能であることを確認した.また,台風以外の低気圧データについては,自然近傍(シブソン)補間を用いた作成方法を提案し,気圧が観測値に近い値となることを確認した.低気圧の経路設定については,最低中心気圧の位置に加え,海岸地形や風向を考慮した感度分析が必要であることが分かった.
  • 竹下 哲也, 姫野 一樹, 丹羽 竜也, Mai Thuy Thi Thu , 市山 誠, 諏訪 義雄
    2016 年 72 巻 2 号 p. I_235-I_240
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/11/15
    ジャーナル フリー
     ゼロメートル地帯における高潮浸水計算において,天文潮の時間変化を考慮する必要性を確認するため, 中部地方の濃尾平野を対象に浸水計算を行った.また,海に直接雨水を排水する地域の内水浸水計算において,潮位の時間変化を考慮する必要性を確認するため,北海道根室市を対象に浸水計算を行った.
     その結果,高潮浸水計算に関しては,最大浸水面積や最大浸水量の計算では天文潮一定満潮位一定)条件で問題ないが,浸水継続時間の計算では天文潮波形を考慮する必要性を確認した.また,内水浸水計算に関しては,2015年10月の浸水被害の再現計算から潮位の時間変化の考慮する必要性を確認した.
  • 鈴山 勝之, 樋口 直人, 柴木 秀之
    2016 年 72 巻 2 号 p. I_241-I_246
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/11/15
    ジャーナル フリー
     高潮浸水被害に関する検討を行うにあたっては,高潮浸水シミュレーションを用いた浸水状況の見積りが必要になるため,海域から陸域に流入する越波・越流量を精度良く算出することが重要になる.しかし,その際にCADMAS-SURFを用いると膨大な計算時間が必要になる.本研究では,CADMAS-SURFに代わる簡便な推定方法を検討し,越波と越流が共存する状況に対しても護岸や堤防等からの越波・越流量を推定可能な手法を構築した.この手法は高潮浸水シミュレーションモデルに容易に組み込むことが可能であり,越波から越流へ遷移する各段階の越波・越流量を簡易的・連続的に算出できることから,高潮浸水想定区域の推定精度を向上させる上で有用な方法となる.
  • 猿渡 亜由未, 武江 寿大, 渡部 靖憲
    2016 年 72 巻 2 号 p. I_247-I_252
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/11/15
    ジャーナル フリー
     発生頻度の増加が指摘されている冬季の爆弾低気圧は,2014,2015年に相次いで根室で高潮被害をもたらすなど,台風とは異なる新たな高潮外力として対策が求められている.本研究では根室湾付近を通過する冬季の温帯低気圧による高潮リスクを,アンサンブル気象場による高潮発達過程の三次元数値計算結果を基に,統計的に評価する.高潮発達過程における湾内の流れ場は,海上風と湾奥方向への水位勾配により駆動され,外洋における典型的なエクマン螺旋構造とは異なる流れ場が形成される.また,湾内水位と高潮継続時間は低気圧経路に対する感度が高く,今後 2014年と同程度の規模の低気圧であっても経路によっては湾奥水位が非常に高くなる危険性があることを示す.
  • 佐藤 兼太, 越村 俊一
    2016 年 72 巻 2 号 p. I_253-I_258
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/11/15
    ジャーナル フリー
     格子ボルツマン法の衝突演算子として広く用いられている格子BGKモデルは,プラントル数が一定値に固定されるという欠点から,自由表面流れの高精度解析が困難であることが明らかとなってきている.この問題に対して本研究では,格子ボルツマン法による自由表面流れ解析の高精度化に向け,多緩和時間モデルによる自由表面流れ解析手法を開発した.本研究の手法を用いて静水状態を保つシミュレーション行ったところ,本研究の手法は,格子BGKモデルに対して壁面境界条件の計算精度が向上し,水面を水平に保つことに成功した.また,ダムブレーク問題の再現計算を通じて,本研究の手法は流体の密度分布が滑らかとなり,自然な流体の挙動を,高精度に再現することが可能であることを明らかにした.
  • 三戸部 佑太, Neetu TIWARI, 渡辺 一也, 田中 仁, 渡部 靖憲
    2016 年 72 巻 2 号 p. I_259-I_264
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/11/15
    ジャーナル フリー
     2011年東日本大震災津波により河口部において生じた大規模地形変化は津波の河川遡上特性に影響を与えた可能性が高く,津波遡上を精度よく予測するには,地形変化過程を同時かつ高精度に解く必要がある.津波遡上過程および地形変化過程再現精度の向上を目的として,k-ωモデルを浅水流方程式モデルと連立して解くことで底面境界層の非定常性を考慮した数値計算手法を津波遡上計算へ適用した.
     津波下における境界層の発達過程が計算され,非定常性の強い津波先端部の通過時に局所的に大きな底面せん断力が生じた.移動床条件での計算に適用した結果,定常抵抗則による計算結果と比較して最大1m程度地盤高の変化量に差が生じたが,実際に津波時に生じた河口砂州のフラッシュは本手法においても再現されなかった.
  • 梶川 勇樹, 黒岩 正光, 中山 仁成
    2016 年 72 巻 2 号 p. I_265-I_270
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/11/15
    ジャーナル フリー
     本研究では,津波襲来時の地形変化を高精度に予測できる数値計算モデルの開発を目的とし,非線形長波方程式,流砂の連続式,および浮遊砂輸送方程式に5次精度WENO(Weighted Essentially Non-Oscillatory)法を用いたモデルを開発した.基礎方程式には,デカルト座標系上で港湾等の複雑境界形状を表現するためFAVOR(Fractional Area/Volume Obstacle Representation)法を導入した.構築した数値モデルを津波に伴う港湾内外の地形変化に関する水理模型実験および現地スケールの現象に適用し,その妥当性を検証した.その結果,水理模型実験について,本モデルは固定床における流況および移動床における地形変化を良好に再現できることが示された.一方,現地スケールの現象については,3次元的流況の発達する領域への適用は困難であるものの,狭窄部での縮流に伴う地形変化については再現可能であることが示された.
  • 三戸部 佑太, 渡辺 一也, 田中 仁, Neetu TIWARI, 渡部 靖憲
    2016 年 72 巻 2 号 p. I_271-I_276
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/11/15
    ジャーナル フリー
     2011年東日本大震災津波時に河川を遡上した津波は津波周期を超える長時間にわたって河道内の高水位を維持した.本研究では今次津波による高水位維持のメカニズムについて北上川を対象とした数値実験および歴史津波の再現計算によって検討を行った.2011年津波の入射波高を5~100%まで変化させた仮想津波波形に対する河道内水位変動過程を比較することで,入射津波規模が大きくなると河道内への津波の流入量が流出量に対して相対的に大きくなり,水位が低下しにくい条件へと遷移することがわかった.歴史津波の再現計算結果から今次津波以外の過去の津波においても同様な高水位維持現象が見られた.津波周期は流入量と流出量に対して相関が見られない一方で,入射波高に対して流入量と流出量は明瞭な増加傾向があり,その増加率には有意な差が見られた.
  • 永島 弘士, 米山 望
    2016 年 72 巻 2 号 p. I_277-I_282
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/11/15
    ジャーナル フリー
     南海トラフ巨大地震津波への対策の一つとして,浄水場への塩水の流入を防ぐため,河川遡上津波に伴う塩水の滞留時間や分布を予測することが挙げられる.塩水挙動解析には鉛直方向の流体の密度差を考慮できる三次元解析を行う必要がある.本研究では淀川大堰周辺域を対象に,波源からの平面二次元解析,その結果を境界条件とした淀川大堰周辺域のみの三次元解析,平面二次元・三次元ハイブリッドモデルによる波源からの切れ目のない解析を実施し,平面二次元解析結果を基準として解析結果を比較した.その結果,ハイブリッド解析による水位および流速は平面二次元解析結果と概ね一致し,塩分の鉛直方向の分布も解析できたことから,淀川大堰周辺域における津波来襲時の塩水挙動解析に平面二次元・三次元ハイブリッドモデルを適用できることが確認できた.
  • 渡部 靖憲, 田中 仁, 三戸部 佑太, 渡辺 一也
    2016 年 72 巻 2 号 p. I_283-I_288
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/11/15
    ジャーナル フリー
     本研究は,高解像地形データ上で一連の津波の遡上過程を一貫して解くためのAMR-CIP系遡上計算法を提案,解説すると共に,その優位性並びに計算結果の解像度依存性を模型実験並びに今次津波の再現計算を通して検証するものである.本提案モデル及び従来のモデルの両者とも河道内水位並びに最終的な浸水域に対して良好な再現性を示し両者に顕著な差異はない一方,本モデルは,高解像地形データ及び計算解像度に依存した局所的な越流のタイミング,規模,局所地形形状抵抗に応じた浸水速度,そして特にせん断力の局所変化率の評価レベルを高度に見積り破堤を含む浸水域の局所浸食堆積過程の評価に有利となることが明らかになった.
  • 赤穗 良輔, 前野 詩朗, 高橋 巧武, 工代 健太, 吉田 圭介
    2016 年 72 巻 2 号 p. I_289-I_294
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/11/15
    ジャーナル フリー
     岡山市南部の沿岸域は海抜0m地帯が広がっており,また液状化危険度が非常に高いため,地震発生直後から堤防沈下による浸水が発生する可能性がある.また,避難計画の高度化には,最大浸水深だけでなく津波の到達時刻や氾濫経路を再現できる氾濫解析モデルの利用が有効である.そこで本研究では三角形格子を用いた津波解析モデルを用いて,市街地レイアウトおよび堤防沈下を考慮した南海トラフ地震津波の氾濫解析を行い,岡山市における津波到達前後の浸水特性を予測した.さらに,氾濫解析結果を用いて津波到達前の浸水状況下での避難経路および避難時間について検討した.浸水深と流速による歩行速度の低下を考慮することで,歩行速度が遅い高齢者の場合は,避難時間が平均1.6倍,最大で28分増加する結果となり,浸水を考慮した避難計画の重要性が示唆された.
  • 太田 睦基, 泉宮 尊司
    2016 年 72 巻 2 号 p. I_295-I_300
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/11/15
    ジャーナル フリー
     本研究では,歴史資料を利用して最尤法により母数を推定して,どのような条件で地震津波規模の再現確率値の推定精度が向上するかを議論している.年最大値資料は,観測時代,歴史時代Iおよび歴史時代IIに分けられ,それぞれの歴史時代で閾値U1およびU2,データの誤差R1およびR2を持つものとして,モンテカルロシミュレーションが実施された.日本海東縁部の地震規模が指数分布に従うものとして,シミュレーションを実施し,100年確率値およびその標準偏差等を推定した.歴史時代のデータを用いると,100年確率値は若干負のバイアスが発生し,データの誤差が大きいほどバイアスがやや大きくなる傾向にあった.歴史資料の年数が100年程度の短い場合には,推定された100年確率値の精度がむしろ低下するが,十分に長い歴史データを追加することにより,推定精度が向上することが分った.
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