土木学会論文集B2(海岸工学)
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76 巻, 2 号
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論文
  • 齋藤 直輝, 熊 柄, 小森 博仁, 矢野 真一郎, 中山 恵介, 駒井 克明, 矢島 啓
    2020 年 76 巻 2 号 p. I_901-I_906
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/11/04
    ジャーナル フリー

     海洋生物によって固定される炭素「ブルーカーボン」は,新たな大気中CO2削減策として注目されている.海水中へのCO2吸収量推定に際して必要となる海水中CO2分圧(pCO2)に関して,観測事例がなく,温帯域でありながらアマモなどの海草に加えて造礁サンゴの生息が確認されている八代海において,混合状態の異なる条件で現地調査を実施した.その結果,強い成層の発達に伴い,表層に植物プランクトンによる光合成の影響が集中し,pCO2が低下する現象が確認された.加えて,サンゴによる影響を受けた水塊の流入により,pCO2の変動が生じた可能性が示唆された.また,日中(6~18時)における大気-海水間CO2フラックスを試算したところ,混合状態によらず,年間を通じてCO2吸収傾向であることが示された.

  • 下方 幹治, KIM Kyeongmin , 日比野 忠史, 中下 慎也
    2020 年 76 巻 2 号 p. I_907-I_912
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/11/04
    ジャーナル フリー

     本研究では,浚渫泥や下水汚泥の減容化を実現するために,吸着陽イオンに着目して堆積泥の保水性を低減させる手法について検討した.また,効果的に保水性を低減させることを目的として,溶質や濃度が異なる2つの手法を用いて吸着陽イオン量を測定し,陽イオンが吸着するサイトの分類を試みた.

     実験結果より,堆積泥に吸着したカルシウムイオンを減らすことで含水比が20~60%低下することを明らかにした.また,吸着陽イオン量は0.1mol/Lの塩化バリウムを用いた手法と1mol/Lの酢酸アンモニウムを用いた手法で異なる結果が得られ,両者の差はカルボキシル基などの官能基の吸着陽イオン量である可能性が示唆された.

  • 西田 修三, 山西 悟史, 中谷 祐介, 入江 政安
    2020 年 76 巻 2 号 p. I_913-I_918
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/11/04
    ジャーナル フリー

     大阪湾では長年にわたり水質改善施策が講じられてきたが,湾奥部の港湾域のような閉鎖性の高い海域では,いまだ十分な水質の改善はみられない.本研究では,高閉鎖性海域である浜寺泊地周辺を対象に,水質・底質特性の実態把握と発電所取放水の影響について,現地調査と数値解析によって明らかにした.

     10月の調査時には密度成層が形成され,底層で貧酸素化が生じていた.底泥の酸素消費速度は極めて大きく,底層では底泥からの溶出による高濃度の無機態栄養塩が観測された.この港域の水質改善には底質改善が効果的と考えられた.港湾に立地する発電所の取放水の方法や水量を変えた流動シミュレーションを実施した結果,放流水は上層の残差流系に影響を及ぼし水交換を促進するものの,港湾スケールの水交換には潮汐が卓越していることがわかった.

  • 太田 知志, 吉村 一輝, 中下 慎也, 日比野 忠史
    2020 年 76 巻 2 号 p. I_919-I_924
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/11/04
    ジャーナル フリー

     臭気を放出する河川堆積泥の浄化のため,堆積泥の土質・化学特性に関する調査・分析,室内実験を行なった.本研究の目的は悪臭の起源となる底泥の有機物特性を明らかにして,対象とする河川底泥に対するGCAの散布効果を確認することである.底泥調査では,河川の数地点で採泥した有機泥と下水放流等の特徴を持つ堆積有機泥の土質・化学特性を比較することで,対象河川底泥の有機物特性を把握した.有機泥分析に合わせてGCAと底泥を混合した混合泥層内で起こる化学反応に応じた酸化還元電位を測定し,GCAの底泥に対する効果を検討した.結果として易分解性有機物の化学特性(溶出,燃焼)および易分解性有機物を含む有機泥に対するGCAの作用として,金属イオンを有機泥から脱離させる効果が有り,有機物の減量を助長する機能が明らかにされた.

  • 大谷 壮介, 屋敷 朋也, 上村 健太, 德田 邦洋, 藤嶋 康平, 遠藤 徹
    2020 年 76 巻 2 号 p. I_925-I_930
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/11/04
    ジャーナル フリー

     本研究では大阪市を流れる淀川河口に位置する泥質干潟において小潮と大潮時に24時間の連続調査を行い,水質の時間変動や流入,流出による物質収支を定量化するとともに,対象干潟の優占種であるヤマトシジミの物質収支への寄与を明らかにすることを目的とした.本干潟の形態別の炭素・窒素・リン濃度の経時変化より,炭素とリンは溶存無機態の割合が高く,窒素は懸濁態の割合が高い特徴があり,本干潟はTNと懸濁態物質の浄化機能を有していた.また,窒素収支に着目すると,大潮よりも小潮の方がDINの高い浄化機能を有していた.さらに,小潮のヤマトシジミによるPNの摂餌量および排泄量は大潮より高く,ヤマトシジミの摂餌・排泄は干潟への窒素の固定・排出に寄与していることが推察された.

  • 原田 範子, 遠藤 徹, 済木 智貴, 奥田 哲士, 浅岡 聡, 中田 聡史
    2020 年 76 巻 2 号 p. I_931-I_936
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/11/04
    ジャーナル フリー

     都市河川の大和川を対象に,上流から河口にかけて無機炭素(DIC)の分布調査を季節ごとに2年間実施し,河川水中のDICの変動特性を把握するとともに大和川からの炭素流出が河口沿岸部の炭素動態に及ぼす影響について検討した.DIC濃度は865~1,420mol/Lで変動し,流量の多い降雨後の出水時や夏季の増水時に低く,流量の少ない冬季に高くなる傾向が確認された.また,都市部の下流域ではDIC濃度の変動はほとんどないが,上流域は下水処理水や呼吸・分解の影響でDIC濃度が変動することが示唆された.一方,河口沿岸域に流出する全溶存炭素のうち約8割がDICで,平水時には約6,250haの塩性湿地が貯留するの炭素量に相当するDICが一日で流出していることが明らかとなった.さらに,他河川に比べて大和川河口域のDIC濃度は高いがCO2濃度は低いという特徴が確認された.

  • 木村 裕行, Anawat SUPPASRI , 山下 啓, 阿部 洋士, 今村 文彦
    2020 年 76 巻 2 号 p. I_937-I_942
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/11/04
    ジャーナル フリー

     宮城県の万石浦を対象に2011年東北津波の津波土砂移動数値計算を行い,津波最大流速とアマモ場の被害率の関係から,流れ以外の要因によりアマモ場が被災している可能性を示唆する傾向が確認された.そのため,津波最大流速ごとに地形変化(土砂堆積,海底侵食)とアマモ場の被害率との関係を調べ,地形変化の影響を分析した.津波最大流速1~3m/sでは土砂堆積量及び海底侵食量とアマモ場の被害率との間に強い関係性が確認され,津波時の地形変化に起因して被災したアマモ場があると推察された.津波最大流速1m/s未満及び3m/s以上では両者の間に明確な関係性は確認できず,地形変化の影響の大きさを判断するにはさらに分析が必要であったが,アマモ場の津波被害を適切に評価するために地形変化の考慮が必要であることが分かった.

  • 赤塚 真依子, 高山 百合子, Edwin MUCHEVBE , 伊藤 一教, 渡辺 謙太, 桑江 朝比呂, 源 利文
    2020 年 76 巻 2 号 p. I_943-I_948
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/11/04
    ジャーナル フリー

     海草場の変化を捉えるモニタリング方法として環境DNAの活用を目指し,海草量の季節変化に伴うeDNA量の変化を把握することを目的に,水槽に生育するアマモを対象に15ヵ月の生育観察と環境DNA分析を実施した.また,実海域でのモニタリングに向けて,潮汐による流れの変化がある環境下で,季節変化の差に対して採水地点や同時刻に採水した差がどの程度であるのか調査した.15ヵ月のモニタリングでは,環境DNA量が夏に高い値を示し秋に低下する周期性を確認でき,海草が流出する時期に高くなる可能性が明らかになった.実海域調査では,同時刻に採水した1Lの分析で検出の有無が混在する結果となったが,採水量や分析量を増量し,阻害影響を低減することで定量下限を超えた値の検出が可能となり,実海域調査への適応が期待できる結果を得られた.

  • Edwin MUCHEBVE, Yuriko TAKAYAMA, Maiko AKATSUKA, Kazunori ITO, Toshifu ...
    2020 年 76 巻 2 号 p. I_949-I_954
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/11/04
    ジャーナル フリー

     Environmental DNA (eDNA) is DNA collected directly from environmental samples (soil, sediment, water, air, etc.) rather than from individual organisms. When organisms interact with the environment, DNA is released and accumulates in the environment. Hence, eDNA analysis facilitates efficient detection and monitoring of species in aquatic ecosystems. A monitoring method for seagrass beds using eDNA has been examined. Our study considered three requirements for monitoring seagrass bed using eDNA from a water sampling point. 1) An observation point recording eDNA originating exclusively from a specific area of seagrass bed. To get information about a specific area of the seagrass bed, eDNA from that area should not to be mixed with eDNA originating from other areas. 2) Long periods of continuous eDNA appearance at an observation point to enable water sampling. 3) Large amount of eDNA observed at a water sampling point. This study investigated the feasibility of the three requirements for monitoring seagrass beds using eDNA for 10 simplified bay models. The study used numerical simulation and particle tracking to study the transport and distribution of eDNA.

  • 田所 彩花, 渡部 真史, 有川 太郎
    2020 年 76 巻 2 号 p. I_955-I_960
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/11/04
    ジャーナル フリー

     植生による波高減衰効果の実験的検討は数多くされてきた.しかし,砕波帯内における植生の効果を数値シミュレーションを用いて検討した例は少ない.そこで本研究では,三次元数値シミュレーションを用いた砕波帯内における植生モデルの妥当性を確認することを目的として,水理模型実験との比較を行った.水理模型実験としては,浅海域に設置した海岸林模型を用いて,砕波時における海岸林による波高減衰効果の検討を行った.実験との比較から数値シミュレーションの妥当性を確認したうえで,抗力係数・慣性力係数を推定し,既往実験のKeulegan-Carpenter数と𝑅𝑒数に対する両係数の変化特性と比較し,傾向が一致していることが確認された.

  • 相馬 明郎, 小西 颯人, 戸田 慎治, 名倉 亮太, 渋木 尚, 茂木 博匡, 桑江 朝比呂
    2020 年 76 巻 2 号 p. I_961-I_966
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/11/04
    ジャーナル フリー

     マングローブ・海草場は高い気候変動緩和機能を持つ可能性がある.この機能は,大気CO2の吸収,吸収した炭素の生物生産による固定,固定した炭素の堆積物深部への貯留,という一連のプロセスに支配されるが,その実態は未解明である.本研究では,このプロセスの実態と支配要因を明らかにするため,浮遊系・底生系での生物化学物理過程を網羅的に組み込んだマングローブ・海草複合生態系モデルを開発し,西表島ユツン海域に適用した.解析の結果,炭素固定の主要因はマングローブ・海草の純生産と底生動物の殻生成であった.また,マングローブは大気CO2の吸収を促進し,吸収した炭素の72%を貯留,28%を沖側に流出していた.一方,海草は大気CO2の放出を抑制し,沖側から炭素を取込み,海草による炭素貯留の62%は沖側由来であった.

  • 杉本 憲司, 高嶋 ひかる, 高田 陽一, 菅野 孝則, 高濱 繁盛, 岡田 光正
    2020 年 76 巻 2 号 p. I_967-I_972
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/11/04
    ジャーナル フリー

     本研究は,岩礁性藻場に隣接して創出した岩礁性藻場生育基盤に着生した海藻の種類や量,生息する動物の量の違いについて長期的なモニタリングをすることで,創出を隣接させることや創出規模の効果について検証することを目的とした.第1期,第3期及び第4期への海藻着生量はそれぞれ創出後40ヶ月,19ヶ月及び16ヶ月程度まで増加した.周辺天然藻場に着生した海藻との類似度指数が概ね0.70を超えたのが,第1期,第3期及び第4期ではそれぞれ73ヶ月,38ヶ月及び22ヶ月と隣接して藻場生育基盤を創出するたびに,周辺天然藻場の海藻種に近づく期間が短くなった.岩礁性藻場生育基盤の創出後の経過時間及び創出規模と付着生物量及び魚類出現密度との間に関係は確認できなかった.岩礁性藻場生育基盤の創出を隣接させ,創出規模が大きくなるたびに海藻の種類数や着生量が増える期間や周辺天然藻場に類似度が近づく期間が短くなった.

  • 岡田 知也, 三戸 勇吾, 秋山 吉寛, 増田 孝文, 村岡 大祐, 山北 剛久, 桑江 朝比呂
    2020 年 76 巻 2 号 p. I_973-I_978
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/11/04
    ジャーナル フリー

     造成した干潟・アマモ場における食料供給の環境価値の評価のため,水産資源の現存量から漁獲量を推定する方法を考案した.造成した干潟では,水産資源の現存量はあるものの,漁獲量はないことが多い.また,アマモ場の重要な機能である稚仔魚の育成機能は,漁獲量と結びつけて評価されていない.そこで,水産資源の現存量推定モデルを逆向きに算定することで漁獲量を推定した.手法の妥当性を,統計値等が得られている東京湾の干潟および博多湾のアマモ場を対象に検証した.干潟では,Schaeferのプロダクションモデルを用いて,アサリ等の二枚貝の現存量から漁獲量を推定した.アマモ場では,Virtual Population Analysisを用いて,アマモ場内の稚仔魚の現存量から,アマモ場外の漁獲量を推定した.これらの漁獲量の推定結果は,干潟では原単位法の0.7倍,統計値の1.8倍,アマモ場では統計値の0.4倍だった.

  • 松下 晃生, 内山 雄介, 高浦 育, 小硲 大地
    2020 年 76 巻 2 号 p. I_979-I_984
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/11/04
    ジャーナル フリー

     重要な地球環境問題の一つである海洋マイクロプラスチック汚染の実態解明に向けて,南シナ海を対象とした高解像度3次元海洋流動再解析値を用いて大河川から供給されるマイクロプラスチック粒子を模したLagrange中立粒子の3次元追跡実験を行った.粒子の移流分散特性とその形成機構を検討し,河川起源粒子の大半は南シナ海に長期間残留すること,分散パターンにはモンスーンに伴う季節差が大きいこと,エクマン輸送による沿岸沈降の影響を受けて大陸縁辺部の陸棚斜面を下降して深海汚染が顕在化している可能性などの幾つかの重要な知見を得た.

  • 岩村 遼太郎, 田中 仁, Nguyen Xuan TINH , 伊藤 絹子
    2020 年 76 巻 2 号 p. I_985-I_990
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/11/04
    ジャーナル フリー

     名取川河口は海産魚類稚魚の生育場としての役割を担っていることが知られている.しかし,2011年東日本大震災津波により河口部に大きな侵食が発生し,その後,過度に土砂が堆積するなどの地形変化が生じた.この東日本大震災による河口地形の大規模な変化は,河口感潮域の水産資源を支える機能に大きな影響を与えたと危惧されている.そこで本研究では,名取川河口の地形変化による塩分変動と,名取川河口に生息しているアサリの回復状況との対応を明らかにするため,実測データの解析,シミュレーションを実施した.その結果,東日本大震災津波やその後の地形変化の影響により名取川感潮域の塩分が変動したことがわかった.また,アサリの個体数と塩分濃度15ppt以下の期間は対応すること,高流量があるとアサリの個体数は回復しにくいことがわかった.

  • 浦崎 笑子, 王 峰宇, 宮房 有花, 藤田 昌史
    2020 年 76 巻 2 号 p. I_991-I_995
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/11/04
    ジャーナル フリー

     汽水条件(塩分10 psu)で電極間距離10cmの一槽式底質微生物燃料電池(SMFC)を運転したところ,最大電力密度は48.8mW/m2を示した.ただし,実環境の水深(約1m)を二槽式SMFCで模擬したところ,最大電力密度は0.23mW/m2にとどまり,電極間距離10cmのSMFCのわずか0.5%であった.実環境では室内SMFCほどの発電性能が得られないことが明らかとなった.そこで,SMFCの発電性能を向上させるために,カソードにH+を強制的に供給する手段として,アンモニア酸化細菌群(AOBs)の導入を検討した.カソードの下面1cmの位置にAOBsを塗布した炭素繊維不織布を設置したところ,最大電力密度は1.35倍改善された.AOBsの導入はSMFCの発電性能を向上させるうえで,有効になることが示された.

  • 中谷 祐介, 戸村 祐希, 西田 修三
    2020 年 76 巻 2 号 p. I_997-I_1002
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/11/04
    ジャーナル フリー

     水平方向に非構造格子,鉛直方向にs-zハイブリッド座標系を採用する三次元流動モデルSCHISMを瀬戸内海‐太平洋領域に適用し,ラグランジュ粒子追跡法により,瀬戸内海に進入する外洋水の挙動や,湾灘スケールの物質輸送に及ぼす黒潮流路変動の影響について解析を行った.数値モデルは,陸棚付近や瀬戸内海内部の水温・塩分構造,および,黒潮の流路変動を良好に再現した.また,大蛇行開始期には外洋域の水深200~500mに分布する低温の外洋中層水が,大潮期に潮流振幅によって間欠的に陸棚上に輸送され,表層から流出する沿岸水を補償するように豊後水道と紀伊水道の底層を北上することがわかった.さらに,豊後水道と紀伊水道における断面通過流量は,黒潮の蛇行流路と密接な関係を有し,東西の陸棚縁付近における海洋構造の影響により変動すると推察された.

  • 永野 隆紀, 入江 政安, 岡田 輝久
    2020 年 76 巻 2 号 p. I_1003-I_1008
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/11/04
    ジャーナル フリー

     本研究では,海洋モデルRegional Ocean Modeling System(ROMS)に組み込んだ水質モデルに二重数による自動微分を導入することで,4次元変分法における接線形モデルおよびアジョイントモデルを作成せずに,非線形モデルのみの計算でデータ同化を行えるシステムを構築し,閉鎖性水域である大阪湾に適用した.双子実験により構築した同化システムの有効性を検証し,従来型の4次元変分法と同化性能を比較検証を行った.その結果,二重数を用いた4次元変分法は同化した水質項目の再現性を向上させた.また従来の4次元変分法とほとんど変わらない同化性能を示し,従来型への代替性を保証する結果となった.

  • 入江 政安, 井上 凌, 岡田 輝久
    2020 年 76 巻 2 号 p. I_1009-I_1014
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/11/04
    ジャーナル フリー

     流れと水質の時空間変動の大きい沿岸域での水環境解析においてデータ同化を利用する研究はいまだ限られ,多くの課題が残されている.本検討では,水質モデルの再現性がデータ同化の性能に及ぼす影響を明らかにするため,再現性の異なる2つの水質モデルを海洋モデルRegional Ocean Modeling System(ROMS)に接続し,4次元変分法モジュールを再構築した上で,大阪湾において水質項目のデータ同化を実施した.その結果,水質モデルの再現性の差は,クロロフィル濃度分布では,観測データ近傍ではたかだか1.5日程度で解消されるが,12時間の短い同化ウィンドウとはいえ,その間の時間変化や,同化地点から遠方の領域にはモデルの低再現性の影響が現れやすいことを示した.さらに,同時に修正されたモデルパラメータの値を用いて,今回の実験中の同化システムの応答について解析した.

  • 梁 順普, 佐々 真志, 工代 健太, 高田 康平, 高田 宜武, Sungtae KIM , Chae-Lin LEE , Jae-San ...
    2020 年 76 巻 2 号 p. I_1015-I_1020
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/11/04
    ジャーナル フリー

     ヒメスナホリムシ(Excirolana chiltoni)は日本の砂浜潮間帯に生息する小型底生等脚類の代表種であり,当該底生生物及びその近縁種が全世界中の砂浜に広く分布していることが知られている.近年,土砂内部の水分張力を表すサクションがヒメスナホリムシの分布域を制御していることが明らかになっている.このような背景から,本研究では,潮差が大きく異なる砂浜に生息するヒメスナホリムシの生物密度とサクションの関係における共通的な地盤環境適合場の存在の有無,又, 潮汐による地下水位変動に伴うサクションの変動と当該生物の岸沖分布の関係を明らかにすることを目的とし,現地調査を行った.その結果,潮差が大きい砂浜の潮間帯に生息しているヒメスナホリムシの岸沖分布は,潮位の低下に応じて沖側に移動又は拡散しており,当該生物密度とサクションの関係において,砂浜と潮差の違い及び潮位の変動に関わらず,共通的な地盤環境適合場が存在することを明らかにした.

  • 遠藤 徹, 早光 孝稀, 北野 勇太郎, 中下 慎也
    2020 年 76 巻 2 号 p. I_1021-I_1026
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/11/04
    ジャーナル フリー

     本研究は,港湾海域を含む大阪湾の海岸域をモデルケースとして,堆積物中の形態別炭素含有量を測定し,環境特性の異なる海域の炭素貯留効果を把握するとともに底質性状との関係を明らかにした.まず,100日間の生分解性試験により生分解性有機炭素と残存性有機炭素を分画した結果,干潟では堆積有機炭素のうち70~90%が残存性であるのに対し,磯浜と砂浜はほとんど有機炭素が存在していなかった.また,堆積物を950℃と600℃で燃焼して測定した炭素量の差を無機炭素として分画した結果,港湾海域の堆積物中には残存性有機炭素のみでなく無機態の炭素が多く堆積しており,干潟の約2.6倍の炭素貯留効果を有していた.さらに沿岸生態系の炭素貯留量を比較した結果,都市沿岸部の干潟や港湾海域が沿岸域の炭素循環における重要な貯留場である可能性が示唆された.

  • 中下 慎也, 下方 幹治, KIM Kyeongmin , 日比野 忠史
    2020 年 76 巻 2 号 p. I_1027-I_1032
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/11/04
    ジャーナル フリー

     本研究では堆積泥を対象として,試料の前処理方法,ガスの種類や流量,昇温速度などの測定条件を変化させて示差熱・熱重量分析を実施し,最適な測定条件を提案した.空気雰囲気での燃焼では窒素雰囲気での燃焼よりも減量値が高くなること,室温で保管した堆積泥には1時間で10mg/g程度の水分が付着することがわかった.これらの結果から,示差熱・熱重量分析は窒素流量100ml/min,付着水分の除去を目的として50℃で30分以上の保持時間を設定し,50℃から850℃まで10℃/minの昇温速度で実施する測定条件を提案した.また,850℃での強熱減量試験結果は空気雰囲気で燃焼した示差熱・熱重量分析結果と同程度となることを明らかにし,窒素雰囲気で燃焼した試料を続けて空気雰囲気で燃焼させることで酸化分解する物質の含有量や熱反応特性を把握する手法を提案した.

  • 大西 晃輝, 野口 孝俊, 小野寺 克幸, 溝川 慎一郎, 三戸 勇吾
    2020 年 76 巻 2 号 p. I_1033-I_1038
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/11/04
    ジャーナル フリー

     泥土圧シールド工法から発生する建設発生土(以下,シールド発生土)を干潟造成へ有効活用するには,シールド発生土が生物に対して安全であることが前提条件となる.しかしながら,シールド発生土に添加されている気泡剤の主成分である陰イオン界面活性剤は,生態毒性を有することが報告されている.シールド発生土を有効活用するには,養生期間を設け,陰イオン界面活性剤濃度を管理の目安値以下まで分解させる必要がある.本研究では,シールド発生土の有効活用に向けた初期検討として,陰イオン界面活性剤の生分解特性を把握することを目的に,屋外試験および室内試験を実施した.その結果,土質,気温,溶媒,噴発防止剤の有無により分解速度に違いがでることが示された.シールド発生土を干潟造成へ利用するために必要な養生期間は,工事毎に異なる可能性が示された.

  • 三戸 勇吾, 大西 晃輝, 野口 孝俊, 小野寺 克幸, 溝川 慎一郎
    2020 年 76 巻 2 号 p. I_1039-I_1044
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/11/04
    ジャーナル フリー

     泥土圧シールドトンネル工法から発生する建設発生土(以下,シールド発生土)の有効活用の一つとして,干潟や浅場造成等への利用が挙げられる.しかしながら,シールド発生土には,気泡剤等の添加剤が添加されており,有効活用に向けて生物に対する安全性の評価が必要である.そこで,本研究では,近年,多くの国で採用されている全排水毒性試験の考え方を応用して,生物応答を利用したシールド発生土の安全性の評価のための試験を実施した.試験では,実験水槽にシールド発生土と天然砂を敷設した区画を造成し,海水をかけ流すことで海生生物を自生させた.底生生物,微細藻類,微生物の現存量や性比,成長速度等の計測を行い,シールド発生土区と天然砂区の差を統計的に検定し,シールド発生土区と天然砂区に有意差が無いことを確認した.

  • 秋山 吉寛, 内藤 了二, 吉村 香菜美, 岡田 知也
    2020 年 76 巻 2 号 p. I_1045-I_1050
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/11/04
    ジャーナル フリー

     沿岸域の海生生物の衰退に対する対策として,生息場間のネットワークを考慮して生息場を再生するため,東京湾の干潟に生息する海生生物と干潟の周囲のシースケープとの関係を調べた.主に軟体動物が寄与する大型底生動物のSimpson多様度指数は,干潟からの距離が10km以下の範囲におけるシースケープのSimpson多様度指数と有意に正相関した.一方,3魚種の出現記録の有無は,干潟の周囲の生息場面積と有意に正相関した.東京湾の海生生物を再生するために,複数の生息場配置候補地の中から生息場を再生する場所を選択する場合は,候補地の周囲のシースケープの状態に基づき,各候補地を評価および比較することにより,海生生物の再生により貢献する場を抽出できると考えられる.

  • 土山 美樹, 呉 青栩, 鈴木 準平, 藤田 昌史
    2020 年 76 巻 2 号 p. I_1051-I_1055
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/11/04
    ジャーナル フリー

     環境ストレスに対する汽水性二枚貝ヤマトシジミの分子・個体レベルの応答を包括的に理解することを目指し,本研究ではホール素子センサを用いた貝殻の開閉運動の連続測定とその評価方法を検討した.人工海水で飼育したヤマトシジミを用いて実験を行ったところ,ホール素子センサと磁石間の距離と電圧の関係式を個体ごとに準備することにより,開殻距離を求めることができた.ヤマトシジミを都市下水(5倍希釈)に曝露したところ,開殻距離や開殻率には変化は見られなかったが(p>0.05),開殻頻度は上昇し(p<0.05),一回あたりの開殻時間は低下した(p<0.05).つまり,実験期間中に開殻していた合計時間には変化はないが,一回ごとの開殻の時間は短くなり,開殻の回数は多くなることが明らかとなった.

  • 遠藤 雅実, 佐々木 淳
    2020 年 76 巻 2 号 p. I_1057-I_1062
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/11/04
    ジャーナル フリー

     貧酸素環境耐性実験により,ホンビノスガイの生存時間を明らかにした.無酸素環境について,水温20℃では徐々にへい死が進むものの,100日経過後も生存する個体が見られた.一方,25℃では40日以内,30℃では15日以内に全数がへい死する結果となった.さらに,34℃以上では溶存酸素の有無に関わらず,数日以内にへい死したことより,水温に関する閾値となることが示唆された.実験結果をもとに,貧酸素環境におけるへい死量推定のためのモデル化を行い,水質観測値に対する検討を行った.近年見られる継続時間が3日程度の青潮が発生した場合,アサリでは資源量の5割以上のへい死が見られるのに対し,ホンビノスガイはへい死せず,貧酸素化解消期までの複数回の青潮や大規模な青潮に曝露された場合にも,約2割のへい死に留まるものと推測された.

  • 中谷 鷹, 瀬戸 雅文, 巻口 範人
    2020 年 76 巻 2 号 p. I_1063-I_1068
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/11/04
    ジャーナル フリー

     本研究は,アワビ類の中で最多の種苗放流数を有するエゾアワビ人工種苗を対象として,室内実験より本種の移動特性や摂餌行動に及ぼす波浪流の影響をモデル化した.さらに,北海道白老地先に設置されたタンデム型人工リーフをモデルケースとして,放流適地を選定し増殖場としての水産協調効果を推定した.エゾアワビ人工種苗の固着力は,生息下限水温に近い5℃,および生息上限水温に相当する25℃で有意に低下した.振動流により漂流する海藻片を捕捉できた個体数の割合(摂餌率)は,流速振幅が概ね0.8m/s以上で消失した.白老地先の人工リーフにおけるエゾアワビ人工種苗の摂餌率は,人工リーフ天端間の谷部および岸側法面において周年的に0.6を超える値を示し,その領域の総面積は4.45haに達することがわかった.

  • 八木 宏, 村上 浩, 磯﨑 由行
    2020 年 76 巻 2 号 p. I_1069-I_1074
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/11/04
    ジャーナル フリー

     人工衛星に搭載されたMODIS(中分解能撮像分光放射計)からの算出値に,経験的固有関数展開法(EOF解析)を適用することで,日本沿岸の海水光学特性(後方散乱係数)の時空間的変化の特徴把握を試みた.本州南岸域(日向灘~相模灘伊豆)の後方散乱係数は,時空間変動の中心となる第1モードが卓越し,増水期に主要河川の河口前面海域を中心として値が増大,冬季に減少という主要河川からの影響を軸とする変動パターンが多く見られた.これに対し,北海道・本州東岸域(千葉東~十勝釧路)では,第1モードの寄与率が相対的に低く,海食崖等からの粒子状物質の供給(千葉東沿岸,福島沿岸,十勝沿岸),季節変化の異なる複数の河川影響の重合(仙台湾)などが示唆され,後方散乱係数の多様な時空間変動パターンが特徴であった.

  • 佐々木 大輔, 中山 恵介, 新谷 哲也, 田多 一史, 松本 大輝, 駒井 克昭
    2020 年 76 巻 2 号 p. I_1075-I_1080
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/11/04
    ジャーナル フリー

     波・流れの影響を受けて水草が変形することで,CO2吸収の効果が大きく変化するため,波・流れが水草に与える影響を詳細に評価する必要がある.しかし過去の研究において,弾性や流れとの連成が充分に考慮されていないなどの課題が残っている.そこで本研究では,波・流れと水草の連成を実現するオブジェクトモデルに対して分岐を考慮する拡張を加えて水草モデル(Submerged Aquatic Vegetation model:SAV model)を構築し,数値計算の際に必要となる各係数の検討を行った.室内実験においてSAV modelに必要な主要な物理係数の値を推定することにより,流速や分岐の位置によって分岐部の曲げ剛性の下限値は概ね変化しないことが分かった.また,分岐の葉長が大きくなるほど分岐部の曲げ剛性の下限値が大きくなることが分かった.

  • 吉野 純, 岩崎 大也, 小林 智尚
    2020 年 76 巻 2 号 p. I_1081-I_1086
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/11/04
    ジャーナル フリー

     本研究では,2014年12月の北海道東岸に高潮をもたらした爆弾低気圧を対象として,力学的気象モデルと高潮モデルによる擬似温暖化実験を実施することで高潮の将来変化を評価し,また,それらに基づき高潮の進路アンサンブル実験を実施することで過去・現在・将来における可能最大高潮を評価した.擬似温暖化実験の結果,将来気候下(RCP8.5の2080~2099年を想定)の爆弾低気圧はより強化される傾向にあり,特に,気温と海水面温度の両者の上昇により台風のような発達特性を示すことが明らかとなった.また,高潮の進路アンサンブル実験の結果,将来気候下の爆弾低気圧に伴い,根室港における可能最大高潮は,2014年12月の爆弾低気圧による高潮(潮位偏差1.42m)に比べて約1m近く上昇することが明らかとなった.

  • 横山 彼杜, 安田 誠宏, 金 洙列, 中條 壮大, 志村 智也
    2020 年 76 巻 2 号 p. I_1087-I_1092
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/11/04
    ジャーナル フリー

     全世界での熱帯低気圧の発生数は減少傾向にあるが,強度は増大し,最大風速や降水強度も増大する可能性は高まっている.変化する地球環境の中,既往最大履歴に基づいた想定で対策し想定外を繰り返すのではなく,科学的な根拠で確率的に想定する時期に来ている.高潮の生起確率の将来変化を予測するにあたり,統計的な予測手法に関する研究はこれまであまり行われていない.本研究では,全球確率台風モデルと非線形長波モデルを用いて高潮解析を行い,瀬戸内海を対象に高潮簡易予測式を提案し,大規模アンサンブル気候予測データベースd4PDFを用いて高潮の将来変化を評価した.その結果,大阪湾での高潮再現期間を先行研究と比較すると,本研究では再現期間はかなり短くなり,より危険側の結果が得られた.また,これまでの研究と同様に,将来気候では現在気候と比べて高潮リスクが高まる予測結果が得られた.

  • 荒木 裕次, 安田 誠宏, Adrean WEBB , 森 信人
    2020 年 76 巻 2 号 p. I_1093-I_1098
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/11/04
    ジャーナル フリー

     高潮の長期評価は,気候変動に適応するための沿岸域の防災・減災の観点で重要である.長期評価を行うには大量のイベント数が不可欠だが,力学的手法では計算コストが膨大である.このため,統計的もしくは機械学習により高潮予測を行う方法が考えられる.本研究では,畳み込みニューラルネットワーク(CNN)を用いて,気象場(気圧・風速)の時空間的な情報から高潮の時系列を予測する.高潮の予測に重要な説明変数やハイパーパラメータ,学習データ数を比較し,気象の再解析データを用いて過去台風を対象にCNNの予測精度を検証した.大規模気候予測データベースを用いて,CNNによる高潮の長期評価を行った.再現期間が長くなると,現在気候下の高潮より将来気候下の高潮の方が高くなる結果が得られた.

  • 森 壮太郎, 森 信人
    2020 年 76 巻 2 号 p. I_1099-I_1104
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/11/04
    ジャーナル フリー

     高潮偏差の長期評価を行うことを目標に,台風の潜在強度(MPI)の理論に基づいて熱帯低気圧強度の将来変化について,気候変動予測データをもとに解析を行った.北西太平洋を中心に大規模アンサンブル実験d4PDF/d2PDFのデータを対象に,MPIおよびGCM上の台風強度の将来変化について温暖化シナリオごとの空間分布及び将来変化量の特性について調べた.台風月のMPIと地点上位10%台風強度の間には空間相関がみられ,また海域依存性が強いことがわかった.北西太平洋のMPIの将来変化量を解析した結果,9月に北緯30~40度帯で最大値を取り,その将来変化量は平均的に+2Kで-7.8hPa,+4Kで-16.5hPaであった.これらのことから,高潮偏差等の台風関連の将来変化において,緯度および季節毎の台風の発生頻度,またはMPIに到達する割合を考慮することが重要であることが示された.

  • 吉成 浩志, 東 博紀, 中田 聡史
    2020 年 76 巻 2 号 p. I_1105-I_1110
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/11/04
    ジャーナル フリー

     降水流出の変化を考慮した瀬戸内海の流動場・通過流への気候変動影響を明らかにするため,陸域降水流出―海域流動モデルを用いて,現在気候(20世紀末)とRCP8.5の将来気候(21世紀末)のそれぞれ20年間の数値シミュレーションを実施した.長期平均の通過流量には冬に強まり,夏に弱まる傾向が見られ,降水の季節性に応じた変動が確認された.将来気候の河川流量については,現在気候に比べて流況の極端化が予測されたが,流量の気候値に顕著な増減は見られなかった.そのため,将来気候の通過流についても,年々の変動は増大するものの,長期平均の流量に有意な変化は認められなかった.しかし,冬~春の通過流がわずかながら強まる傾向が見られ,それに対応する豊後水道と紀伊水道の水位差の増大が確認された.

  • 中山 大雅, 比嘉 紘士, 緒方 一紀, 虎谷 充浩
    2020 年 76 巻 2 号 p. I_1111-I_1116
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/11/04
    ジャーナル フリー

     沿岸域における海色衛星による水質リモートセンシングでは,水質推定の前処理にあたる大気補正計算の誤差が水質推定誤差の主な原因の1つになっている.そこで本研究では,気候変動観測衛星GCOM-Cの多波長光学放射計SGLIを利用したリモートセンシング反射率(𝑅𝑟𝑠)の推定精度の改善を目的として,東京湾の固有光学特性の実測値に基づき水中モデルを構築し,エアロゾル反射率の推定精度を向上させることで,東京湾に適した大気補正アルゴリズムを作成した.その結果,従来の大気補正アルゴリズムの計算結果と比較して,正規化平均バイアスが380nmで498.3%から68.6%,412nmで447.7%から117.0%,443nmで338.3%から113.9%,490nmで137.6%から32.6%,530nmで64.5%から11.2%,565nmで32.8%から14.2%,673.5nmで50.1%から10.1%に改善した.

  • 浦野 大介, 森 信人, 志村 智也, 水田 亮
    2020 年 76 巻 2 号 p. I_1117-I_1122
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/11/04
    ジャーナル フリー

     気象庁気象研究所の大気気候モデルであるMRI-AGCMに,簡易な海洋モデル及び波浪モデルを結合した大気気候・波浪・海洋結合モデルを開発した.これを用いた気候計算を行い,短期間の大気海洋相互作用を考慮に入れることによる台風強度の気候スケールでの特性変化について評価を行った.海洋表層の鉛直混合を考慮するため,スラブ海洋モデル及び鉛直1次元混合層モデルを海洋モデルとして用いた.また,波浪モデルにより大気最下層の海面粗度に波浪の効果を与えた.海洋モデルを結合したことにより,台風下の海洋表層における鉛直混合が表現され,海水温の低下とこれに伴う大気側への熱供給の減少が起こり,強い台風の強度低下を再現可能とした.これにより,高強度の極端な台風の発生割合が多いというMRI-AGCMの系統的誤差が低減され,観測に近い分布が示された.

  • 宇野 宏司, 重松 直樹, 柿木 哲哉
    2020 年 76 巻 2 号 p. I_1123-I_1128
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/11/04
    ジャーナル フリー

     IPCCによると,全世界の平均海水面は2100年までに約1m上昇すると報告されており,その要因としては地球温暖化などによる海水の温熱膨張が挙げられている.僅かな海面上昇であっても砂浜の侵食量は大きく,日本列島沿岸においても将来の消失が懸念される.本研究では淡路島沿岸の砂浜を対象とし,現地調査とBruun則を用いた各砂浜の砂浜侵食量の算出によって,今日懸念されている海面上昇が我々の身近にある淡路島沿岸にどのような影響を及ぼすかを推定・評価した.その結果,淡路島沿岸における砂浜侵食量は,全国平均よりは少ないものの増加傾向にあることや,砂浜侵食量が各地点における砂浜勾配や底質粒径に強く影響されることがわかった.

  • 柴田 大輝, 児玉 充由, 井手 喜彦, 橋本 典明, 山城 賢
    2020 年 76 巻 2 号 p. I_1129-I_1134
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/11/04
    ジャーナル フリー

     近年,2019年10月に発生した台風19号など,台風に伴う豪雨災害が発生している.さらに今後は地球温暖化に伴い,台風の強度が増すとともに台風による豪雨災害の甚大化が懸念される.本研究では,台風の常襲地帯であり,過去に幾度も水害を経験してきた九州地方を対象として,アンサンブル気候予測データベース(d4PDF)から抽出した台風の経路を自己組織化マップ(SOM)を用いてパターン分類し,台風のパターン別に降水量を解析することで台風経路とそれに伴う降水量の将来変化を検討した.その結果,温暖化が進むと現在よりも台風の経路パターンは多様化することがわかった.さらに,将来的な降水量の増減には影響期間が大きく寄与していることがわかった.また,台風が九州に上陸するパターンでは,再現期間100年の日降水量は増加することがわかった.

  • 宮内 海峰, 森 信人, 志村 智也, 建部 洋晶
    2020 年 76 巻 2 号 p. I_1135-I_1140
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/11/04
    ジャーナル フリー

     気候変動に伴う海面上昇量は,主に海水の熱膨張による全球的な体積変化に加えて,海洋循環による力学的海面高度変化により地域差を示す.そのため,特定の地域における海面上昇量を決定するためには,海域毎の特性の把握が必要である.本研究は日本周辺海域における過去から将来の海面水位変化の特性と不確実性を明らかにし,力学的海面高度を考慮した海面上昇量を定量的に評価した.解析結果から,日本周辺の力学的海面高度変化は,海水温および海上風の変化と連動する数年規模の変動が卓越し,その年々変動(自然変動)の大きさは将来の海面水位変化の評価に無視できない量であることが分かった.

  • 中條 壮大, 森 信人
    2020 年 76 巻 2 号 p. I_1141-I_1146
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/11/04
    ジャーナル フリー

     d4PDFデータで校正した既報の全球確率台風モデルGSTMについて,例外的に強い台風の処理を変化させた場合の結果を比較した.その結果,平均的な台風の再現性は高いままに,極端台風の発生頻度をやや抑えることができた.中心気圧の頻度分布比較からGSTMは元のd4PDFよりも,観測値のそれとの一致度が高くなっていることが示された.また観測値とd4PDF,GSTMの中緯度地域への襲来数を比較すると,d4PDFの結果は年平均数では全体的に少なく,直接的な生起頻度評価には課題があることを示した.将来変化について,予測モデル間の特徴はd4PDFとGSTMで類似の結果を得たが,その変化幅や特に極大台風のテールに相当する頻度は異なる結果となった.進行速度は既往研究と定量的に整合した速度低下の傾向を確認した.

  • 東 博紀, 横山 亜紀子, 中田 聡史, 吉成 浩志, 越川 海
    2020 年 76 巻 2 号 p. I_1147-I_1152
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/11/04
    ジャーナル フリー

     瀬戸内海における一次生産・水質への気候変動影響を明らかにするため,陸域淡水・汚濁負荷流出-海域流動・水質・底質モデルを用いて,現在気候20世紀末とRCP8.5の将来気候21世紀末のそれぞれ20年間の予測計算を行った.RCP8.5の中でも最も昇温傾向が強い条件で予測された将来気候の表層水温は,現在気候と比べて,3~4℃程度上昇することが全湾灘で確認された.特に夏~秋の顕著な高水温は一次生産を大きく低下させると予測された.それに応じて夏~秋の表層DINは上昇するが,季節的に水温低下が進んだ10~11月に入ると,豊富な栄養塩に支持されて一次生産は強まる傾向が見られた.冬に入っても将来気候では,水温が現在気候より高いため,一次生産は高く維持され,表層DINは減少することが示された.

  • 宇野 宏司, 木元 崚, 柿木 哲哉
    2020 年 76 巻 2 号 p. I_1153-I_1158
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/11/04
    ジャーナル フリー

     現在,世界中で地球温暖化に伴う海面上昇による沿岸環境の変化が懸念されており,それに伴う影響として、砂浜だけでなくそこに生息する植生の消失が考えられる.本研究では,日本全国の海浜植生を対象に,GISを用いてそこに生息する植生の海面上昇による将来消失予測を行い,海面上昇と植生消失面積の関係を明らかにし,海面上昇量に応じた生育可能面積について検討を行った.

     抽出された4種類の希少種については,海面上昇による消失リスクそのものは小さいことがわかった.一方,普遍種については,コバノミツバツツジ–アカマツ群は消失率がかなり小さいのに対し,抽水植物ヨシに関しては海面上昇量1mの上昇で現在の海浜域に分布するうちの約3割が消失する可能性があることがわかった.また,海面上昇の各段階で生息域の増減を繰り返しながらも最終的には減少することがわかった.

  • 大中 晋, 芹沢 真澄, 宇多 高明, 市川 真吾, 森 智弘, 粟津 裕太
    2020 年 76 巻 2 号 p. I_1159-I_1164
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/11/04
    ジャーナル フリー

     サンゴ礁起源の砂礫が堆積して形成された低平かつ狭小な小島嶼国では,気候変動に伴う海面上昇による国土の減少や,海岸災害リスクの増加が懸念されている.小島嶼国における個々の島は,それぞれ異なる地形や外力条件を有するため,これらの影響を簡便に評価できる手法が望まれる.そこで高度な数値計算を行うのではなく,現地で得られる基本的な諸元のみを用いて海面上昇による汀線後退量を簡易的に推定する方法を考案した.この算定式を用い,モルディブの海岸を事例として海面上昇による海浜断面変化と汀線後退量を推定し,異なる大きさの島に対する国土減少に及ぼす影響,さらに現在海岸侵食が進行中の海岸において,海面上昇を考慮した場合の今後の汀線後退に及ぼす影響について明らかにした.

  • 渡部 真史, 清野 聡子, 徳永 正吾, 藤原 和弘, 有川 太郎
    2020 年 76 巻 2 号 p. I_1165-I_1170
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/11/04
    ジャーナル フリー

     波浪や津波で打ち上げられた巨礫群は世界各国で報告されている.沿岸巨礫研究を将来の防災計画に資すためには,巨礫を打ち上げた波浪や津波の水理量と巨礫群の分布傾向を多くの事例で検討する必要がある.2019年台風19号で生じた波浪により最大質量が2.2tの巨礫が千葉県,沖ノ島沿岸部に打ち上げられており,本研究ではこれらの巨礫群を打ち上げた波浪の規模を推定した.その結果,最大の巨礫は水深約9.1m以浅から打ち上げられたと推定でき,同イベントで生じた海岸線上での最大流速と波高はそれぞれ14.5m/s,4.7mであった.今後,世界各国の沿岸部で過去に発生した波浪や津波の規模想定を実施するために,様々な地域を対象に巨礫分布と巨礫を運搬した波浪や津波の水理量のデータを収集する必要がある.

  • 鈴木 崇之, 宮崎 黎, 比嘉 紘士, 中村 由行
    2020 年 76 巻 2 号 p. I_1171-I_1176
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/11/04
    ジャーナル フリー

     近年,地球環境問題の1つとしてマイクロプラスチック(以降,MP)への関心が高まっている.このような中,海浜に存在するMPの実態を把握することは,その動態を把握するための重要な項目の1つであるが,同一海浜内のMP分布変動を詳細に検討した調査はまだ少ない.本研究では神奈川県藤沢海岸片瀬西浜地区にて,径0.5~5.0mmの大きさのMPを対象とした空間分布調査を2019年春先と同年秋において実施し,MPの分布変化とその要因について検討を行った.その結果,対象海岸では平均93個/m2のMPが採取され,また,同一海浜内においても海側,中央,陸側によって分布に差があり,MPの移動は風速場により影響を受けやすいことが示唆された.加えて,径0.85~5.0mmのMPを対象とした簡易回収実験を行ったところ,砂に混在した状態から90%以上のMPを回収できることがわかった.

  • 嶋田 陽一
    2020 年 76 巻 2 号 p. I_1177-I_1182
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/11/04
    ジャーナル フリー

     2011年3月の東日本大震災の津波によって北太平洋へ流出した漂流漁船が琉球諸島周辺で発見されている.本研究では,小型漁船程度の漂流物が琉球諸島周辺海域へ移動する経路を明らかにする一環として,風圧流の影響を強く受ける漂流ブイを用いて北太平洋中央部の天皇海山列から琉球諸島方面へ移動する経路を調べた.漂流ブイは天皇海山列の一部であるコラハン海山から離れて南方へ移動し,北緯26度辺りから南北に大きく蛇行しながら西方へ移動した.その後,漂流ブイは東経167度,北緯25度辺りから蛇行は小さくなり西方へ移動した.全体的に漂流ブイの移動は風圧流の影響が強いが,局所的には海山等の影響が強いことがわかった.本研究の漂流ブイの移動時間及び最終位置から過去の事例に相当する可能性を示唆した.

  • 犬飼 直之, 南原 充, 安倍 淳, 木村 隆彦, 鈴木 直子, 齋藤 弘樹, 斎藤 秀俊
    2020 年 76 巻 2 号 p. I_1183-I_1188
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/11/04
    ジャーナル フリー

     銭函海岸は複数の離岸堤が設置された砂浜海岸であるが,2017年に男子高校生3名が溺水する事故が発生した.本研究では事故発生時の海岸付近の海象及び地形を把握すると共に現地調査を行った,調査ではADCPを用いて水深情報を取得すると共に,散布した海面着色剤の拡散状況をUAVで空撮し流況及び汀線の地形を把握した.また現地で聞き取り調査を行うとともに,調査で取得した地形情報から1m間隔の格子データを作成し,事故発生場所の岸沖方向の水深変化を把握した.事故発生場所では高校生の足が届かなくなる水深であり海底勾配が急に変化していた.数値計算結果より,事故発生場所では離岸流が発生していた.同様な条件で発生した水難事故現場で調査を行ったが,ここでも沖向の流れが発生しており,急勾配で足が届かなくなる場所で事故が発生していた.

  • 犬飼 直之, 四家 哲人, 安倍 淳, 木村 隆彦, 鈴木 直子, 田村 祐司, 斎藤 秀俊
    2020 年 76 巻 2 号 p. I_1189-I_1194
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/11/04
    ジャーナル フリー

     静岡市高松海岸は離岸堤が複数設置された砂浜海岸である.この海岸では砂浜及び汀線から沖側でも勾配が比較的急であり入射波浪は沖で砕波,減衰せずに汀線に到達し砂浜を遡上する.この海岸で2018年8月に男女3名が遡上波浪によりさらわれる水難事故が発生した.本研究ではまず事故発生時の気象及び海象を把握し現地調査を実施した.まず砂浜から汀線沖100mまでの岸沖方向の地形変化を把握した後に,人が砂浜上に立ち遡上波浪で転倒する様子や汀線付近の波動場からの脱出実験を行い映像で記録した.その後,鉛直2次元の波動数値モデルで事故時や調査時における砂浜への到達波浪が遡上・流下する際の流速や,水厚を求めた.そして,転倒実験や脱出実験時,事故発生時の流速や水厚を定量的に把握した.

  • 松重 摩耶, 上月 康則, 河野 有咲, 山中 亮一, 西山 勇輝
    2020 年 76 巻 2 号 p. I_1195-I_1200
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/11/04
    ジャーナル フリー

     本研究では筆者らが行った「青赤紙を用いた率先避難訓練」の防災教育を事例に,よりよい防災教育へ改善していくための問題点と,その改善策を検討した.その結果,本事例の問題点として(1)率先避難者の役割をどのように教えるのかといった「教授方略」に注力し,「目標」や「評価」を決めるための学習者分析を十分に行わなかったこと,(2)「目標」や「評価」をあいまいなままに教育を行ったことで,学習者が理解したことと教育者が教えたいことにズレがあった可能性を見出すことができた.インストラクショナルデザイン(以下ID)を用いることでこの問題点の改善策を提示し,「目標」⇒「評価」⇒「教授方略」の順番で教育を設計することが,よりよい防災教育へ改善していくために重要であることを,防災教育の具体的事例に基づき示すことができた.

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