2006年度日本海洋学会賞を受賞したアロメトリーを応用した海洋植物プランクトンの生物海洋学的研究の概要は以下の通りである。
海洋現場における植物プランクトン群集の季節変動に関する先駆的な一連の研究を行なった結果,光・光合成曲線の立ち上がり勾配が,一定であることに疑問が生じた。ここにおいて,細胞体積が106違う,7種類の珪藻類を用いて詳細な室内実験を行ない,低照度域において細胞体積と立ち上がり勾配,最大飽和光合成率および呼吸率との関係を明らかにした。
また,細胞炭素含量は細胞体積により推定することができ,その関係は「3/4乗則」に従うとされていた。しかし,光合成生物である珪藻を用いた代謝速度の研究の結果,その代謝は光の吸収に依存するために,光制限下の代謝率の細胞の大きさに対する依存性は「3/4乗則」には従わないことを初めて解明した。解明当初は異論もあったが,この事実は近年の研究で再確認されている。
海洋の光合成過程に対するアロメトリーのために,従来とは異なり,単位を用いない解析方法の導入が必要である。
西部北太平洋の亜寒帯域から亜熱帯域におよぶ4定点において,水深5,800rnにまでおよぶ全プランクトン分類群のバイオマスを明らかにした。深度増加に伴うバイオマスの減衰度合いは分類群によって異なり,この差は各分類群の栄養生態に起因するものと考えられた。亜寒帯域では多細胞動物プランクトンの占有率が高く,亜熱帯域では従属栄養バクテリアと単細胞動物プランクトンの占有率が高かった。亜寒帯域における主要分類群であるカイアシ類の生態学的特徴を調査研究して,同属の種間で鉛直分布を変えて棲み分けしていることや,多くの中・深層性カイアシ類が若い発育段階では深い層に分布し,発育に伴う鉛直移動をすることを明らかにした。また中・深層性種の生活史の再生産時期は表層で植物プランクトンブルームのある時期に同調しており,これは表層からの沈降粒子輸送量の増加に関係したものと考えられた。西部北太平洋亜寒帯域の全水柱を通して,カイアシ類は有機炭素輸送量の32%を消費すると推定された。
極座標は無次元の角度座標を含むが,流線座標と流跡線座標との総称である自然座標は純粋な距離座標であり,その時間微分の平方和の半分がそのまま運動エネルギーとなるため扱い易い。しかし,各々の自然座標についての偏微分は,座標軸方向が時空間内で一定していない広義の方向微分であるため,演算子自体が非線形となる結果,偏微分の順序交換が許されず扱い難くなる。他方,解析力学では位置座標の時間微分をも独立変数と見なすような抽象化が進む結果,常識的数理では追随し難くなる。しかし,Ernst Machが数学に基づく思考経済の典型例だと絶賛したように,解析力学は1階の時間微分でNewton力学に対処できる。さらに,エネルギー次元をもつ座標変換に対する不変形式も導入されていることから,解析力学は座標変換を簡易化する手法だと見なすことができる。自然座標の流跡線沿いにはポテンシャル渦度も保存され,解析力学の助けを借りて自然座標の活用が期待される。
伊勢湾・三河湾に関する環境問題として,漁獲量減少の要因,浚渫窪地による貧酸素水の影響,矢作川環境の変化と海域環境,河川事業が海に与える影響,海岸変化要因とその解決,三河湾環境の劣化とその再生の課題について報告を受け,貧酸素問題の解決と干潟保護の重要性および河川環境が海域に及ぼす影響を中心に討論した。討論では三河湾における1990年代の貧酸素水塊の拡大と漁獲量減少がこの年代の埋め立てに起因する可能性が指摘された。
第28回ロンドン条約締約国会合および第1回ロンドン条約1996年議定書締約国会合が2006年10月30日から11月3日にロンドンにおいて開催された。本会合はロンドン条約の枠組みにおいて廃棄物の海洋投棄を原則禁止とした1996年議定書の国際発効後に開催される最初の締約国会合である。また,従来の枠組みでは認められていなかった二酸化炭素の海底下地層貯留に関わる改訂案についてもこの会合において議論された。ロンドン条約およびロンドン条約1996年議定書は海洋に直接関わる重要な国際条約であるにも拘らず,その詳細は日本の海洋研究者において十分に認知されているとは言い難い。本稿では,ロンドン条約について特に二酸化炭素の回収貯留技術に関連する部分に重点を置いて解説するとともに上記会合への出席報告を行なう。