近年におけるDNA研究法の飛躍的な発展により,さまざまな生命・生態現象をDNAレベ ルで,明らかにすることが比較的容易に行えるようになってきた。このような状況のなか,海洋生態系を構成する全ての生物群は,その研究対象となっており,新たな知見が多数報告さ れている。本稿では,著者らがこれまでに進めてきたカイアシ類ミトコンドリアDNAの構造特性,ミトコンドリア偽遺伝子,Neocalαnus属カイアシ類の系統解析について紹介する。 また,著者らが近年進める全動物プランクトンを対象としたミトコンドリアCOI遺伝子の 網羅的解析についても紹介するとともに,本研究の今後の展望について言及する。一方,世 界的な動向としては,著者も参加する国際プロジェクトCensusof Marine LifeやBarcode of Lifeと言った多数の研究者が参加する大型国際ブ。ロジェクトが進行している。これらプロジェクトはバクテリアからクジラまで全海洋生物の多様性を各種の識別が可能なDNA塩基配列情報とともに把握し,そのデータベース化を目指している。このように,DNA塩基 配列情報にもとづく研究は海洋生態系の理解に非常に重要な研究ツールなることが容易に 想像される。また,今後もDNA分析機器や手法の改良はしばらく飛躍的に発展すること が予想され,これらをどのように海洋学に適用するかが新たな研究への糸口になると思われ,この点についても本稿で論議を進めた。
千島列島域の潮汐・潮流過程がオホーツク海ー北太平洋間の海水輸送および列島域の鉛直混合に重要な役割を果たしうること,列島域の混合がオホーツク海・北太平洋中層の通気とそれに伴う水塊形成・循環駆動の要因の一つであることを示し,北太平洋中層水形成機構における新たなパラダイムを提出した筆者らの一連の研究について紹介する。