北海道西岸沖表層流の涜れパターンの季節変化を調べるために,海洋観測資料と直接測流 (ADCP・GEK)データを解析した。海面加熱期である夏季の対馬暖流は,水深約50 m付 近に高塩分水を伴う北上涜である。この北上流は津軽海峡の西側では沿岸に接岸して強化され,さらに北側の石狩湾沖では時計回りの蛇行流の形成によって離岸する。しかし,こ の高塩分水は海面冷却期である冬季に入るとすぐに消滅する。この原因は強い海面冷却に よって表層の低塩分水と鉛直混合したためと推測される。それゆえ,冬季から春季の対馬暖流は津軽海峡の西側では幅広い北上流として認められるものの,石狩湾よりも北側の海域では次第に弱まり,不明瞭な北上流となる。
海洋上の降雨は,海洋表層の塩分変化や地球上の水循環を考える上で極めて重要である。とりわけ,西部熱帯太平洋および東部インド洋は降雨量が多いため,大気および海洋循環へ の影響が他の地域に比べて大きい。これまで,この海域で展開しているトライトンブイには光学式雨量計が装備されてきたが,検定や運用上の問題点が多く存在していた。そこで新たに,トライトンブイに最も適した雨量計として,静電容量式雨量計を用いた雨量計測システムを構築した。このシステムに新たな計測制御アルゴリズムを導入した結果,低消費電力で計測データの品質の向上を可能とするシステムの開発に成功した。開発したシステムは2006年以降,実際のブイに装着され,リアルタイムで観測データを安定的に送信している。その観測値はTRMM/PR計測値と矛盾していない。
博多湾奥の上・下層における1993~2006年の毎月の水質観測データを解析し, 博多湾奥における水質の季節・経年変動特性を明らかにした。 博多湾奥では7月に最も発達する成層構造が9月まで維持され, その間, 水柱のクロロフィルa濃度・COD・pH, 表層の濁度が増加し, 透明度が減少して, 下層の低酸素化が進み, 水柱のTP濃度は増加し, TN濃度は減少する。また, 近年博多湾の潮汐振幅が減少したことで, 湾内の密度流が強化されて外海との海水交換がよくなり, 底層の塩分上昇率が大きいため, 湾奥の成層度は大きくなりつつある。またリン負荷量削減対策が進んで, 湾内のTP濃度は減少してきたので, 水柱のクロロフィルa濃度が減少して, 透明度は増加, 水柱のCOD・濁度・pHは減少してきている。クロロフィルa濃度減少の影響によって, 酸素供給量が減少した結果, 水柱のDO濃度も減少してきている。
2001年の夏季,噴火湾湾口近くの水深85 mの地点に海底設置型ADCPを設置し,計測された約4か月間の流速記録を解析した。流速のスペクトル解析において,慣性周期帯のエネルギーは,全層で半日潮流と同程度であった。狭い周期帯の変動成分を抽出可能なバ ンドパスフィルター(HAB法)を適用し,慣性振動流(慣性周波数:f = 2π/18時間)を抽出した結果,観測期間中に涜速振幅の顕著な増大(以下,イベント)が4回確認された。Pollard and Millard(1970)の単純な風強制モデルがこれらイベントのほとんどを再現できたことから,観測された慣性振動流は主に時間変化する風強制により発生したと推測される。慣性振動流の鉛直構造とその時間変化はイベントごとに異なり,大きく二つに分類できる。一つは,中層の振幅極大と鉛直上方への位相伝播で特徴付けられ内部波エネルギーの斜め下方への伝播を推測させるビーム状の構造であり,もう一つは内部波の水平伝播を連想させるモード状の構造である。主成分解析に基づく鉛直モード分解を行った結果,いずれの流速構造に対しても鉛直第2モード以上の高次モードが大きく寄与していることが示唆され,各イベントで最大振幅が観測される時刻は次数の大きな鉛直モードほど遅れる傾向があった。さらに,ビーム状の構造から検出された振幅極大の水深と特性曲線の傾きを用いて見積もった内部波エネルギーの水平伝播距離から,内部波の励起場所は噴火湾内にあることが推定された。
伊勢湾東部の浅海域に建設された中部国際空港島が周辺海域環境に与える影響を確認するため,空港島周辺の浅海域において,水温,塩分,溶存酸素底質,底生生物の定点調査を2002年10月から2005年10月の成層期に,また空港島と対岸に挟まれた水道の中央部で,水位,海底直上水の溶存酸素,水温,塩分の連続測定を2007年4月から9月に実施した。さらに,空港島南側水深13 mの地点の底泥柱状試料を1 cmごとに鉛210法で年代測定し,表層付近の堆積速度0.5 cm y-lを得た。この結果に基づき,採取した柱状試料老表層0 cmから5 cmまでを1 cmごとに,5 cmから10 cmまでを2.5 cmごとに分割し,強熱減量,全炭素,全窒素,全リン,全硫黄を分析した。また,底生生物の種類と個体数を測定し,工事開始以前の事業者の調査結果と比較した。さらに既存資料に基づき漁業生物に対する影響を考察した。この結果,第ーに,空港島建設に伴い周辺浅海域の底生生物群集の種類数と個体数が貧酸素の発生と底質の劣化によって顕著に減少したこと,第二に,この貧酸素と底質劣化は空港島の遮蔽効果による潮流の減少によって生じたものであること,第三に,空港島建設による浅海域の喪失および周辺浅海域の貧酸素や青潮によって,この海域を成育場とする漁業資源が減少した可能性があることがそれぞれ立証された。また,底質調査においては,採泥器で深さ約10 cmまで採取・混合して分析する従来の方法を,底泥柱状試料を表層付近では1 cmごとに分割して分析する方法に,改善する必要があることが改めて確認された。