海の研究
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17 巻, 6 号
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原著論文
  • 宇野木 早苗, 菅波 完, 羽生 洋三
    原稿種別: 研究論文
    2008 年 17 巻 6 号 p. 389-403
    発行日: 2008/11/05
    公開日: 2025/03/13
    ジャーナル フリー

    農林水産省による2533億円を要した複式干拓方式の諌早湾干拓事業は,沿岸防災効果が全効果の約70%を占めて事業の主目的は沿岸防災である。この防災対策が諌早湾に最も有効 な手法と主張されているのでその機能を検討した。本方式は高潮に対しては効果があるが, 従来の堤防嵩上げ方式と機能的には変わらず,建設費用が約3倍も割高と推定される。また過去の諌早大水害級の洪水もこの方式により防げるとされるが,これに反して,本明川の危機管理に責任をもつ国と長崎県の河川当局は干拓事業後の洪水発生の危険性を数値的に示し,諌早市も洪水ハザードマップを公表している。特に洪水と高潮が重なる異常事態の防災効果が強調されているが,この種の発生例は過去約1世紀の間には見出し難い。また莫大な洪水量をわざわざ調整池ヘ溜め込む方式は問題を含むといえよう。一方,大雨時の内水氾濫には効果がなく,別途排水施設の整備をまたねばならない。さらに日本海洋学会編(2005)の学術書その他によれば,本事業は有明海異変の主要原因とみなされ,環境と漁業に対する甚大なマイナス効果が憂慮される。ゆえに複式干拓方式が沿岸防災に最も有効と主張することは理解し難く,適切な方法とは考えられない。

総説
  • 田所 和明, 杉本 隆成, 岸 道郎
    原稿種別: 総説
    2008 年 17 巻 6 号 p. 404-420
    発行日: 2008/11/05
    公開日: 2025/03/13
    ジャーナル フリー

    人間活動に伴う大気中の二酸化炭素濃度の上昇は,海洋に対して表層水温の上昇,海氷の減少,さらに酸性化といった様々な変化をもたらしている。そのような海洋環境の変化に伴って,海洋生態系も変化していることが近年の研究から明らかになってきた。北太平洋では水温上昇などを原因とした成層の強化に伴って表層への栄養塩供給量が減少することで,低次栄養段階の生物生産量が低下していることが広い範囲で示唆されている。北大西洋では水温上昇は多くの動植物プランクトンの季節変異を早めていると考えられている。しかし一次生産の主体を成す珪藻にはほとんど影響しないために,地球温暖化の進行に伴って将来,珪藻と捕食者との間でミスマッチが生じ水産資源にも悪影響を与えることが懸念さ れている。南極海で、は海氷の減少に伴ってアイスアルジーが減少することで,捕食者であるナンキョクオキアミ(Euphausia superba)の資源量が減少していると考えられている。さらに二酸化炭素濃度の上昇を原因とした海洋の酸性化は円石藻,翼足類およびサンゴ等の石灰質を持つ生物だけでなくカイアシ類や魚類の再生産にも悪影響を与えることが明らかになっている。一方で地球温暖化は低気圧の発達を促すことで風を強め,幾つかの沿岸湧昇域の湧昇を強化し,栄養塩の供給量を増加させることで生物生産を高める可能性も指摘されている。以上の様に,幾つかの水域では近年の研究の進展によって海洋生態系変動のプロセスが明らかになってきた。しかしプロセスはおろか変動の実態についても明らかになっていない水域も多く存症する。海津生態系に対する地球温暖化の影響を理解していくためには,これらの水域でも観測を展開し研究を進めていく必要がある。

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