海洋マイクロプラスチック汚染は,海洋が直面する地球規模課題の1つであり,近年,海洋マイクロプラスチック(MPs)に関する膨大な数の論文が出版されている。MPs をモニタリングする重要性が増す一方で,MPs の調査・計測手法は発展途上の段階にあり,多くの研究者が最適な手法を模索している。海洋MPs の主な調査・計測する手順は,(1)海水・堆積物・生物などの試料の採取,(2)夾雑物(有機物・無機物)を除去することでMPs を分離と精製,(3)検鏡と化学判別の組み合わせによるMPs の識別と同定からなる。それらの手法は多岐にわたり複雑である。本総説では海洋MPs の採取,前処理,同定,定量化の様々な手法について紹介するとともに,各手法の特徴と問題点を整理した。さらに今後のMPs 計測手法の方向性を述べる。
海洋の長期変動を捉えるためには,海水標準物質が不可欠である。例えば,栄養塩は19世紀末の海洋学の黎明期の頃から世界各海域で測定が行われており,海洋の環境変動を捉えるのにも十分なデータ量の蓄積がある。しかし,栄養塩データに基づいた長期変動の解析は皆無に近い。これは,データの比較可能性を保証する標準物質が無かったことに起因している。現在,日本発で日本初でもある海水標準物質である栄養塩認証標準物質(Certified Reference Material, CRM)が世界の海洋コミュニティに普及しつつあり,実測値による長期変動の検出が可能となる段階にまできている。本総説では,栄養塩CRM を中心にその開発に係わる科学的背景と現状,実際の使用例などを述べるとともに,海水標準物質の先行例である炭酸系CRM,さらに他の溶存物質の海水標準物質について紹介し,今後の課題についても言及する。