海の研究
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31 巻, 6 号
海の研究
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原著論文
  • 田谷 浩四郎, 伊藤 海彦, 磯田 豊, 今井 圭理, 小熊 健治, 澤田 光希
    原稿種別: 研究論文
    2022 年 31 巻 6 号 p. 99-110
    発行日: 2022/12/25
    公開日: 2022/12/25
    ジャーナル フリー

    日本海の底層前線は明瞭な水温差を有し,低温かつ高酸素の日本海盆底層水(Japan Basin Bottom Water:JBBW)と高温かつ低酸素の大和海盆底層水(Yamato Basin Bottom Water:YBBW)の境界域に形成されている。その一方で,YBBW の起源はJBBW であることも知られている。そこで,2015 年春季と2016 年夏季,底層前線付近において船舶観測を実施し,これら底層水の輸送と変質過程の詳細を調べた。両底層水の水塊区分は溶存酸素ーポテンシャル水温ダイアグラムを用いて判断され,日本海盆側から大和海盆内へ流入したJBBW の先端付近では,両底層水間の顕著な混合水が形成されていることがわかった。それゆえ,この混合水が大和海盆内でほぼ閉じた水平循環流によって反時計回りに輸送されながら,地殻熱流量で加熱,酸素が消費され,高温かつ低酸素で鉛直混合されたYBBW へ変質し,そして再びJBBW と接して底層前線を形成することが推測される。底層前線のYBBW側混合水域における詳細断面観測(測点間隔が約1 マイル)では,過渡的な水塊混合状態を示唆する波長約10 km の波状構造を捉えることができた。最も興味深い特徴は,水温と溶存酸素の鉛直断面分布が一致していない点である。すなわち,水温場が示す波状構造は海底に捕捉されているようにみえるものの,その底層低温部の片側半分(約5 km)に高酸素の混合水(元々はJBBW 起源),残りの半分に低酸素のYBBW が位置していた。このように,両底層水の混合による変質過程には,波長10 km程度の海底捕捉擾乱(内部波もしくは水平渦流)の関与が示唆される。

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