鉄などの微量金属は,窒素やリンとともに植物プランクトンにとって必須の栄養素である。海洋一次生産と微量金属の関わりを調べる上で不可欠となる植物プランクトン研究のためのクリーン技術を新たに確立し,様々な海域を対象に植物プランクトン群集の船上培養実験を行うことで,ナノモル以下の極微量濃度の鉄が植物プランクトンの増殖を促進する可能性について検証してきた。また,それらの実験における栄養塩動態の解析を通して,珪藻によるケイ素と窒素・リンの消費比率が,鉄制限の有無によって変化することを明らかにした。さらに,実海域においても中規模鉄散布実験や大気降下物質の影響を評価するための観測などを進め,微量金属による海洋一次生産の制御機構について総合的な解釈を試みた。
農商務省水産局の北原多作によって明治42年に開始した「漁業基本調査」は,大正3年に新設された水産講習所「漁業基本調査部」へ移管された。その後,海洋調査の重要性が再認識され,大正7年度における海洋調査予算の拡充に伴って名称変更した「海洋調査部」は事業を拡充し,かつ我が国最初の専門海洋調査船「天鷗丸」が大正8年3月に竣工した。海洋調査部の丸川久俊は日本海を主とする日本一周調査を3年間実施し,「漁業基本調査」事業で得られた資料を加えて,我が国最初の日本海における生態系に関する成果を,海洋調査彙報に和英両文で発表した。ところが,木造船「天鷗丸」の外材の著しい腐蝕のため何度も補修したが効果なく,大正13年度末には廃船に至った。代船の第二代専用海洋調査船「蒼鷹丸」は「天鷗丸」の名前を継承することはなかった。ここに,短年ながら活躍した「天鷗丸」の航跡と功績を可能な限り明らかにし,彼女を演出した丸川久俊の真摯な努力と種々の貢献について解説する。