海の研究
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10 巻, 4 号
選択された号の論文の8件中1~8を表示しています
  • 柳 哲雄, 山田 真知子, 中嶋 雅孝
    2001 年 10 巻 4 号 p. 275-283
    発行日: 2001/07/05
    公開日: 2008/04/14
    ジャーナル フリー
    狭く深い洞海湾と広く浅い博多湾の富栄養化機構の相違を, 両湾における夏季の塩分・全リン(TP)・全窒素 (TN) の濃度観測結果をもとに考察する。狭く深い洞海湾では有光層で粒子化され, 無光層に沈降したリンや窒素が, 河口循環流により湾奥に戻されながら, 分解されて栄養塩に回帰し, 有光層に湧昇して, 再び光合成に用いられるという循環を繰り返す。一方広く浅い博多湾では河口循環流が洞海湾ほど発達しないために, 無光層に沈降したリンや窒素が淡水とほぼ同様に輸送される。その結果, 洞海湾におけるTP, TNの平均滞留時間は, 淡水のそれの約2倍ほど長くなるが, 博多湾のTP, TNの平均滞留時間は淡水のそれとほぼ等しくなる。このことは, 狭く深い洞海湾は淡水の平均滞留時間は短いものの, 栄養物質の平均滞留時間は長くなり, 富栄養化されやすいことを示している。
  • 万田 敦昌, 柳 哲雄
    2001 年 10 巻 4 号 p. 285-295
    発行日: 2001/07/05
    公開日: 2008/04/14
    ジャーナル フリー
    類似した経路をたどって八代海近傍を通過した台風9119号と9918号に伴う八代海の潮位偏差の変動を再現する数値シミュレーションを行い, なぜ台風9918号によって八代海に顕著な潮位偏差が発生したのか考察した。台風9918号のケースでは, 風と気圧の両方の効果が台風9119号のケースを大きく上回っていた。八代海周辺の気象データを解析した結果, 台風9918号には局所的な強風域が存在していたことが示された。この局所的な強風域が八代海の位置と重なったことにより, 台風9918号のケースでは台風9119号のケースに比べ風の効果が大きくなったと推測される。また, 台風9918号のケースでは, 潮位偏差全体に対する気圧変動の寄与が台風9119号のケースに比べ大きかった。数値シミュレーションの結果, 台風9918号のケースでは, 湾軸方向の気圧傾度が台風9119号のケースよりも大きくなったため, 湾奥方向へ強い流れが生じていたことが示された。台風9918号の気圧の効果が台風9119号よりも大きくなったのは, この強い流れによって湾奥への海水輸送量が多くなったためと考えられる。
  • 佐々木 克之
    2001 年 10 巻 4 号 p. 297-308
    発行日: 2001/07/05
    公開日: 2008/04/14
    ジャーナル フリー
    既往資料を用いて, 中海本庄工区の窒素とリンの浄化力と本庄工区において最も卓越する二枚貝のホトトギスガイによる有機懸濁物質除去力の定量的評価を行った。堆積, 漁業による取り上げおよび脱窒素により見積もられた年平均の浄化量は161kg Nd-1と11.1kg Pd-1であった。中海と本庄工区との間の海水交換から求められている既往の浄化力は250kg Nd-1と11.4kg Pd-1であるので, 今回得られた値は窒素ではその64%, リンでは97%であった。今回求めた窒素の浄化力が既往値よりも小さかったのは, 脱窒素量の推定値が実際よりも小さかったためと考えられた。ホトトギスガイによる有機懸濁物質除去力は, 0.74t Nd-1 (3.62t COD d-1) と見積もられ, 本庄工区の全有機物除去力の約半分を占めると推定された。適切な漁場管理によって本庄工区がかつてのような大きな二枚貝生産を取り戻すなら, この水域の浄化機能はいっそう高まると考えられた。
  • 岩尾 尊徳
    2001 年 10 巻 4 号 p. 309-321
    発行日: 2001/07/05
    公開日: 2008/04/14
    ジャーナル フリー
    海水の電気伝導度の変動は水温変動に非常に敏感であることを利用して, 水温を電気伝導度を用いて補正し, 両者の変動特性をほぼ完全に合わせる新しい手法 (Temperature-Conductivity Combined method, TCC法) を考案した。TCC法では水温と電気伝導度の大まかな応答速度の差を見積もるだけで, CTDの降下速度には注意する必要がなく, 現実的で, 鉛直方向に高分解能の水温, 塩分データが得られることが分かった。新たに推定された水温値から算出される塩分, 密度のプロファイルではスパイクは大幅に抑えられ, 密度の逆転もあまり見られなかった。さらに, TCC法で得られた各要素の変動の周波数特性は低周波から高周波まで非常によく一致してることが分かった。
  • 光易 恒
    2001 年 10 巻 4 号 p. 323-332
    発行日: 2001/07/05
    公開日: 2008/04/14
    ジャーナル フリー
  • 川合 英夫
    2001 年 10 巻 4 号 p. 333-339
    発行日: 2001/07/05
    公開日: 2008/04/14
    ジャーナル フリー
    「朝鮮」を「解」と略した「東鮮暖流」「北鮮寒流」という海流名は, 民族差別と闘う連絡協議会によって1991年に「日本の植民地時代以来の差別的な表現」だと見なされ, 文部省 (1992)『学術用語集』から削除された。本報では約30編の文献を精査して「東鮮暖流」「北鮮寒流」は宇田 (1934) に,「西鮮海流」は野満 (1931) に,「北鮮暖流」は日高 (1943) に, 初記載があったことを突き止め, これら海流名の扱い方を考える。平 (2000) が提案した「東朝鮮暖流」「北朝鮮寒流」を取りあえず代替語とする。ただ「東朝鮮暖流」は今後よく使われそうなのに, 口頭では多音節で冗長だから,「東の鮮やかな暖流」の意味を併せもつ「東鮮暖流」という海流名が22世紀またはそれ以降, 朝鮮民族のご了承を得て復活することを希望する。野満 (1931, 1942a, b) が本文では「西朝鮮海流」を, 海流図では「西鮮海流」を用いていた事実は, 海流略称はもともと図面空間節約のため生じたもので, 差別意識とは無関係であった証しである。
  • 川合 英夫
    2001 年 10 巻 4 号 p. 341-349
    発行日: 2001/07/05
    公開日: 2008/04/14
    ジャーナル フリー
    近年, 朝鮮半島の国々は国連地名標準化会議などの席上で,「日本海」の名は旧日本による植民地政策の遺産だという理由で, その改称を要求している。この問題に関連して調べた結果を報告する。まず, 日本海を含む総計11の縁海の命名法を分類し,「日本海」という名が, この海が縁海として存立するために不可欠な, 母大洋たる太平洋から縁海の日本海を隔離している主要列島弧の名に因んでいて地理学的にも妥当なことを指摘する。次に, 調べた日本語事典7編はすべてKrusensternをもって「日本海」の名の初記載者と誤認していた背景に触れる。最後に, 西洋製, 日本製いずれの地図でも「日本海」の名が1800年頃から慣用され, 明治維新頃に定着するに至った経過を, 地図一覧・地図資料 (青山, 1997) と古海流図 (1837~1887) を併用し, 1/3世紀別の地図出現回数の変遷により確認する。日本による半島の植民地支配の罪過は重く大きいが,「日本海」の名の地図における慣用・定着はこれとは無関係のことである。
  • 川合 英夫
    2001 年 10 巻 4 号 p. 351-359
    発行日: 2001/07/05
    公開日: 2008/04/14
    ジャーナル フリー
    江戸時代中期の瀬戸内海では「潮汐界」(シヲサカヒ) は, その両側で上げ潮時の潮流が逆向きとなる潮汐の境界を意味していた (森 幸安, 1754)。内海舟運で行われた潮待などの実際面で「潮汐界」の情報が役立ったため, この語が使われたのだろう。北原 (1912, 1921) は「潮合(線)」を寒暖二流 (実は二水塊) の境界という意味で使っていた。「潮境」を浮遊物の集積する海流収斂線や異色水塊の境界という意味で, 最初に使ったのは宇田 (1931) である。しかし宇田が傾倒してやまない北原が使った「潮合(線)」の代わりに「潮境」を使い始めた動機は謎である。もしかすると, すでに「潮境」が外海漁業者の間で広く使われていたという経緯も考えられる。「潮合(線)」も「潮境」も海軍水路部の重松や岸人らでは使われず, 水産試験機関の北原や宇田らに限って使われたことは,「潮合(線)」「潮境」の情報が水産試験研究の実際面で役立ったためだろう。
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