前報で諌早湾干拓事業開始後における有明海の潮汐減少の原因を検討したが,減少量がまだ小さい期間では変動成分の影響で誤差が大きかった。今回は平滑データを基に,またこれまで考慮しなかった平均海面上昇に伴う水深増加の効果も加えて,解析のやり直しを行った。この結果,振幅減少量が数mmのごく微量な初期2年間を除き,全期間にわたり系統的な変化傾向が明瞭に認められた。すなわち,堤防締切り前は外海の潮汐減少の効果が,締切り後は事業に伴う地形変化の効果が最も大きかった。水深増加の効果はかなり小さかった。ただし,解析の精度を考慮すると,堤防締切り後における前2つの効果の差は,明確に有意であると判断するのは難しい程度である。いずれにしても諌早湾干拓事業が潮汐に及ぼす影響は,当初の環境影響評価書の予測と異なって,明らかに無視できない大きさに達している。一方,干拓事業が有明海の環境に与える影響としては,潮汐よりも潮流を含む流動の変化がより重要であって,この面での研究の推進が必要である。
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