海の研究
Online ISSN : 2186-3105
Print ISSN : 0916-8362
ISSN-L : 0916-8362
14 巻, 2 号
選択された号の論文の19件中1~19を表示しています
  • 浦辺 徹郎, 丸山 明彦, 丸茂 克美, 島 伸和, 石橋 純一郎
    2005 年 14 巻 2 号 p. 129-137
    発行日: 2005/03/05
    公開日: 2008/04/14
    ジャーナル フリー
    アーキアン・パーク計画(科学技術振興調整費研究課題 : 海底熱水系における生物・地質相互作用の解明に関する国際共同研究)は, 地下を含む海底熱水系を微生物学的, 地質学的, 地球化学的, 地球物理学的な側面から総合的に解明しようとするものである。計画の実施によって, 多くの未解明な海底熱水活動域での微生物学的調査研究が促進され, その進化学的, 遺伝学的, 生態学的な重要性や海洋・地球システムへの影響度が正しく理解されるようになってきた。本研究のように, 各種探査手法を駆使しながら, 連携してあるターゲットを解明するという取り組み方は, 今後の研究スタイルのモデルになると期待される。そして, 深海で使える探査手法の開発や, 深海底での長期観測機器の改良も進み, 熱水循環系以外の研究対象への応用にも道を開き, その波及効果は大きいと考えられる。
  • 島 伸和, 西澤 あずさ, 川田 佳史
    2005 年 14 巻 2 号 p. 139-150
    発行日: 2005/03/05
    公開日: 2008/04/14
    ジャーナル フリー
    「島弧型」熱水循環系が存在している水曜海山を対象に行なった海上地球物理調査, 深海曳航式地磁気探査, 地震波速度構造探査, 自然地震観測により, 次のような観測事実を明らかにした。1)西峯山体は, 78万年以後のブリュンヌ期に生成したもので, この付近では一番新しい。また, 火口斜面の崩落を起すような活動が山体形成後に起こっている。2)火口西側に磁化を失った領域が, 直径約800mの範囲に広がっている。3)P波速度が2.2kms-1∿4.2km s-1の層が海底下2kmまで存在し, この層では地震はほとんど起こっていない。4)震源は, 火口の直下5km∿10km(海底下3km∿8km)の範囲に集中しており, 中心部分が抜けている煙突状に分布している。このような観測結果を説明するために, 貫入したマグマが冷却するモデルを提案し, その妥当性を数値シミュレーションによって確かめた。数値シミュレーションでは, 貫入したマグマが, P波速度が比較的遅く空隙率が高いことが推測される浅部(厚さ2km)の熱水循環と深部の熱伝導との2過程で冷却される。深部の冷却過程では, 内側の冷却域と外側の温度上昇域が存在し, これによって生じる熱差応力を解消するために地震が発生すると考えると, 煙突状の震源分布が説明できる。また, 浅部では, 貫入したマグマが現在の熱水循環系の熱源であり, 数百年以上は熱水循環を維持する熱源となり得る。この熱源により, 熱水系の活動は, その熱水変質が直径800mの範囲の磁化を失わせる程度の期間持続していると推測できる。水曜海山の熱水循環系は孤立しているが, このように安定した期間存在しており, このことは, この熱水循環系における生態系の起源と進化を考える上で重要な制約を与える。
  • 上嶋 正人, 西村 清和, 村上 文敏, 岸本 清行
    2005 年 14 巻 2 号 p. 151-164
    発行日: 2005/03/05
    公開日: 2008/04/14
    ジャーナル フリー
    小笠原海域の水曜カルデラに発達する地下微生物圏にエネルギーや栄養源を供給する海底熱水系がどのような地質構造に規定されているのかを解明するために, 深海曳航型の音波探査装置を用いた地形地質構造探査を実施した。まず, 熱水循環系の諸現象との関連を追求するため, 地質構造や微細地形を地球物理的な手法でできるだけ細かいスケールで, かつ広範囲のマッピングすることが課題であった。海洋地質学の分野で最も多用されている手法の一つである音波探査法を用いて, 水曜カルデラ底を横断する測線において, 表層直下の地層鉛直断面構造(深度約200mまで)を推定することができた。さらに, カルデラ内の熱水地帯をほぼカバーする表層微細地形の音響画像を取得することができた。一方, 精度の良い海底音響画像を作成するために, 音響測位データ, 連続海底ビデオ画像, そしてサイドスキャンソナー画像の組み合わせで画像モザイク化の精度の改善が見られたものの, 各種測定装置の測位精度のさらなる技術的向上を図ることが最重要であることが認識された。例えば, 潜水船等に取り付けて, リアルタイムで対地測位のできるドップラーソナーシステムなどを搭載・開発することが望まれる。微細海底構造データは, 水曜カルデラに発達した地下微生物圏の総合的解釈のための重要なベースマップになるものである。他の地球物理データや地球化学データを合わせて今後の統合的モデル構築に向けて議論の進展が期待される。
  • 木下 正高, 護摩堂 雅子, 川田 佳史, 田中 明子
    2005 年 14 巻 2 号 p. 165-175
    発行日: 2005/03/05
    公開日: 2008/04/14
    ジャーナル フリー
    2001年から2003年にかけて, 水曜海山カルデラ内の熱水地帯での掘削や長期観測を含む集中観測が実施され, 我々は52点で熱流量データを得た。熱水活動が確認された場所では, 概して10W m-2を超える高熱流量が観測された一方, 熱水噴出域からわずか20m以内のところに, 0.04∿0.4W m-2程度の低熱流量域が存在することが確かめられた。また熱水地帯の北東側では, 4W m-2程度の高い熱流量が一様に分布する。さらに孤立型硫化物マウンド脇では, 下に凸や逆転など, 多様な温度-深度分布が得られた。水曜海山の熱水系微細構造は, カルデラ下全体での安定した熱水系を基本として, 熱水上昇域の周囲20m程度での循環系が存在し, さらに個々の熱水噴出の周囲では, 中心に向かって流入速度が徐々に強くなり, ベントから数m以内には熱水溜りと下降流の境界層が存在する。マルチスケールでの熱水系が, 熱流量分布や温度プロファイル等から確認されたのは極めて意義が大きい。
  • 田中 明子, 木下 正高, 浦辺 徹郎
    2005 年 14 巻 2 号 p. 177-186
    発行日: 2005/03/05
    公開日: 2008/04/14
    ジャーナル フリー
    2001年から2002年にかけて, 伊豆小笠原弧上の水曜海山カルデラ内の海底熱水域において, 物理・化学・地質環境の変動の長期観測を行ない, それらの変動が熱水系地下生物圏に与える影響について総合的な調査研究を行なった。海底熱水系の物理環境パラメータの時間変動モニタリングを行なうために, Medusa型熱水流速計・小型熱流量プローブ・座布団型熱流量計・湧出量計などを用い, 水曜海山カルデラ内の掘削孔などにおいて, 熱水活動の熱水の流速と温度や海底における水温を観測した。その結果, 低温熱水湧出部においては, 熱水の流速・熱水温度・海底における水温の変動は, いずれも底層流に支配されており, 基本的には12時間の周期性をもっていることが明らかになった。一方, 掘削坑から湧出する熱水は, 流速が一日・半日周期で変動していることが推測された。これは, 熱水溜まりの潮汐に対する応答を反映している可能性がある。
  • 川田 佳史, 吉田 茂生
    2005 年 14 巻 2 号 p. 187-202
    発行日: 2005/03/05
    公開日: 2008/04/14
    ジャーナル フリー
    この小論では, 海底熱水系のモデル計算の例を紹介する。ここでは, 熱水系の循環構造にとって特に重要である, 水の臨界物性, 海水の相分離, 鉱物の沈澱を取り上げる。水は臨界点付近で物性量が急激に変化する。この特異な物性は, 上昇流を集中させ, 熱水の最高温度が350∿400℃となることの原因になっている。海水の相分離とは, 海水が暖められると塩濃度の異なる2相の流体に分かれる現象である。相分離は熱水の塩濃度を変化させる主要な原因である。相分離によってできた高塩濃度の流体が対流層の下部に層を形成すると, 熱水循環の熱流量が減少する。鉱物の沈澱・溶解は, 熱水の温度の変化や, 異なる組成の水の混合で起こる。鉱物が沈澱すると, 空隙率が減少して熱水の流れが妨げられる。一方で鉱物の沈澱には, 異なる水の混合を妨げて, 熱水の流れを安定化するという側面もある。
  • 丸茂 克美, 浦辺 徹郎, 高野 淑識, 後藤 晶子
    2005 年 14 巻 2 号 p. 203-220
    発行日: 2005/03/05
    公開日: 2008/04/14
    ジャーナル フリー
    水曜海山の浅層において, BMS海底掘削装置を用いて掘削を行ない, 得られた掘削コア試料を分析した。その結果, 硫化物に富むコア試料から金(42mg kg-1)や銀(112mg kg-1), ヒ素(1,440mg kg-1), 水銀(55mg kg-1), 銅(>2wt%), 亜鉛(>10wt%), 鉛(5,890mg kg-1)の濃縮が確認された。モンモリロナイトやクロライト/モンモリロナイト混合層鉱物がコアの上部から, マイカ, クロライトがコアの下部で確認されたので, 地下温度は深度とともに150℃から300℃程度に上昇していたことが明らかになった。透過型分析電子顕微鏡観察の結果, クロライト/モンモリロナイト混合層鉱物には1.6nmと2.8nmの層が見つかった。このことは, モンモリロナイトからクロライトへの変化が単純に起きているのではなく, 複雑な温度や化学環境変化があったことを示している。さらに, 蛍光X線顕微鏡による分析の結果, 硬石膏の結晶内部にストロンチウム濃度の不均一性が確認されたので, 熱水の温度や化学組成が変化し, 過飽和状態での硬石膏が沈殿していたことも解明された。
  • 掛川 武, 野田 雅一, 丸茂 克美
    2005 年 14 巻 2 号 p. 221-235
    発行日: 2005/03/05
    公開日: 2008/04/14
    ジャーナル フリー
    現在も活発な海底熱水活動を続けている水曜海山の表層部が海底掘削機(BMS)によって掘削された。掘削コアは2∿10mの長さにおよび, 地下における熱水脈を貫通している。岩石記載やX線による鉱物解析などの結果, 海底熱水活動が起こっている地下の地質構造が高解像度で明らかになった。その結果, カルデラ中央部では砕屑物を, 東部では溶岩や角礫岩を母岩にして変質が起こり, 特に中央部では粘土化や硫酸塩鉱物によるセメント化が著しく進行している実態が, 明らかになった。さらに, 硫酸塩鉱物によるセメント化はカルデラ底に広くおよんでいることも明らかになった。掘削試料中の硫化鉱物の硫黄同位体組成も東部と中央部で違いがみられ, 中央部のものほど不均質な同位体組成を持つことが解明された。これは地下において海水硫酸と混ざりやすい中央部地下構造の特徴を反映していると考えられる。
  • 高野 淑識, 山中 寿朗, 枝澤 野衣, 小林 憲正, 丸茂 克美, 浦辺 徹郎
    2005 年 14 巻 2 号 p. 237-249
    発行日: 2005/03/05
    公開日: 2008/04/14
    ジャーナル フリー
    海底設置型掘削装置を用いて, マグマからの発散物に支えられた島弧型海底火山カルデラ(水曜海山)の掘削調査を行なった。全有機炭素(TOC), 全有機窒素(TON)の分析から海底下にある有機物の鉛直分布を研究し, 全加水分解アミノ酸(THAA)と光学異性体比(D/L比)からサブベント(熱水噴出孔下)を支配する有機物の起源を考察した。アミノ酸のモル分率(mol%)とD/L比の傾向から, サブベントのアミノ酸は, 生物起源であることが判明した。TOCとTHAAは, 正の相関にあり, 有機炭素の濃集部分には, アミノ酸も濃集していることが明らかになった。表層の微生物活動と独立した地下生命圏を検証するため, 同試料について熱的に安定な酵素であるホスファターゼの酵素活性を解析したところ, 有意な活性値を得た。試料の酵素活性値である酸性ホスファターゼ酵素とアルカリホスファターゼ酵素の活性値の鉛直分布は, よく類似しており, 地下生物圏の存在を示す証拠とみなせる。
  • 石橋 純一郎, 中村 光一, 岡村 慶, 下島 公紀, 土岐 知弘, 角皆 潤
    2005 年 14 巻 2 号 p. 251-266
    発行日: 2005/03/05
    公開日: 2008/04/14
    ジャーナル フリー
    海底熱水活動地帯は高温で還元的な熱水と低温で酸化的な海水が混合する場である。熱水活動地帯の生態系機能を研究するうえで, 場所ごとに化学環境を明らかにしていくことは, 最も基本的な解析手法となる。近年, このような目的を目指した試料採取法の工夫がさかんに行なわれている。また, 試料採取と分析に頼る従来の研究を打破する手法として, 現場化学分析や化学センサーなどの技術を深海底で実用化して, さらに連続観測を行なうことも試みられている。アーキアン・パーク計画では, 化学環境の時空間変動を明らかにすることを目的として, 新しい発想に基づく様々な機器が開発されてきた。その結果, 水曜海山で行なわれた一連の研究から, この熱水地帯の化学環境がこの海域特有の強い底層流の時間変動と相関を持って変動していたことが示された。
  • 山中 寿朗, 奈良岡 浩, 鈴木 彌生子, 北島 富美雄, 難波 謙二, 高野 淑識, 小林 憲正, 堀内 司
    2005 年 14 巻 2 号 p. 267-277
    発行日: 2005/03/05
    公開日: 2008/04/14
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は, 水曜海山海底熱水系において, 海底面および海底下における有機物の濃度とその安定同位体組成から, 有機物の起源を有機地球化学的手法により明らかにし, 熱水系における微生物圏の広がりとその生態を解明することである。本研究では, 有機地球化学分析に適した試料採取方法を開発するとともに, バルク有機炭素分析やバイオマーカー組成分析などに取り組んできた。そこで, 本報告では, まず既往の関連する研究をレビューし, これまでに得られた成果の一例として, 堆積物およびコア試料のバルク分析から得た有機物の3次元分布について紹介することにした。有機物の3次元分布は, 海底面においては局所的に高い値を示したが, 海底下ではきわめて少なく, 水曜海山全体の分布には偏りがあることが明らかになった。また, 有機物の炭素同位体組成については, バルクでδ13C=-12∿-31‰(対PDB値)の大きな開きが認められ, 分子レベルにおいても炭素数16のモノ不飽和脂肪酸でδ13C=-22∿-31‰もの大きな開きがあることが明らかとなった。これは地下生物の炭素源や代謝型の多様性を反映しているものと考えられる。さらに本報告では, 海底下で多量の熱水から溶存有機物を固相抽出できる現場濾過抽出装置(主な新規開発機器)を紹介する。また, チムニーなどの岩石試料を多量に採取し, それら採取した試料が表層海水によって被曝することを最小限に抑える採石器についても紹介する。
  • 角皆 潤, 中川 書子, 岡村 慶
    2005 年 14 巻 2 号 p. 279-295
    発行日: 2005/03/05
    公開日: 2008/04/14
    ジャーナル フリー
    本論文はアーキアン・パーク計画において行われた熱水プルーム中における微生物活動の解明に関する化学的調査の成果をまとめたもので, この調査によって水曜海山カルデラ内外の海水において微生物活動に関連する化学成分の濃度と一部の同位体組成の分布が定量された。また, カルデラ底に湧出する熱水の採取と分析も行なわれた。その結果, 熱水に由来する濁度異常やCH4, Mn, Feの高濃度異常が, カルデラ内はもちろん, カルデラ外でも検出され, 熱水プルームがカルデラ壁上の鞍部を経由して外に漏出していることが判明した。また, 熱水由来のMnの約半分がカルデラ内で分解されているのに対して, CH4は大部分が分解されずにそのまま外に漏出していることも明らかになった。さらに, 水曜海山の熱水プルームではCOも高濃度異常を示すことが明らかになったが, このCOは熱水に由来するのではなく, プルーム内部の微生物活動によって二次的に生成した可能性が高いと結論された。
  • 下島 公紀, 前田 義明
    2005 年 14 巻 2 号 p. 297-307
    発行日: 2005/03/05
    公開日: 2008/04/14
    ジャーナル フリー
    水曜海山カルデラでは, 約25時間周期の外洋海水の流入と沈降が, カルデラ内での海水流動の駆動力となっていることを解明した。この駆動力は徐々に減衰すれば海水の流動も収まるが, 次の周期の大きな潮流で, 再びカルデラ内の海水流動が駆動される。外洋海水の流入・沈降によって, 上下方向の循環が駆動されてσtが一様な混合層ができる。この混合層は転流に伴って徐々に拡がるが, 潮止まりに伴い海水流動の駆動が止まると上下方向の循環も止まる。同時に計測した濁度の鉛直分布から, 上下方向の循環を引き起こすような海水流動によって, 海底近傍の熱水性の粒子や微生物がカルデラの中層に運ばれることが示唆された。熱水地帯近傍でのpH長期計測で観測された周期的なpH低下は, 潮汐の変動周期と良く一致していた。熱水地帯におけるpHマッピングから, それぞれの熱水活動地帯で熱水プルームがひとまとまりになってパッチ状の低pH域が形成されていた。
  • 丸山 明彦, 砂村 倫成, 福井 学, 久留主 泰朗
    2005 年 14 巻 2 号 p. 309-318
    発行日: 2005/03/05
    公開日: 2008/04/14
    ジャーナル フリー
    半閉鎖的なカルデラ内に発達した熱水プルーム層や海底面および海底下に形成されている熱水微生物生態系構造の解明を目指して, 伊豆小笠原海域の水曜海山をモデル対象に選択し, 海底掘削装置や有人・無人の潜水艇, 採水器, 現場ろ過器, 現場培養器等を駆使した調査研究を実施した。解明された研究結果のうちで, 特に注目すべき微生物現象の新知見は次のとおりである。すなわち, 熱水プルーム層における細菌群集の100%近くが僅か2種類の微生物系統群で構成されており, これら2種類の微生物にとって水曜海山環境が良好な培養器となっていることが明らかになった。また, 新たに開発したカテーテル型現場培養器を掘削孔や天然熱水噴出孔内に挿入して試料採取したことにより, εプロテオバクテリアや光合成細菌, 好熱性化学合成古細菌などに関連する新規微生物系統群や新規な硫酸還元酵素遺伝子を見出すことに成功した。さらに, 微生物の至適増殖温度を決定している遺伝子部位の特定化にも成功し, 現場調査への応用を図ることが可能になった。
  • 山岸 明彦
    2005 年 14 巻 2 号 p. 319-326
    発行日: 2005/03/05
    公開日: 2008/04/14
    ジャーナル フリー
    現在の地球上の生態系は直接間接に太陽光のエネルギー, より厳密には太陽光の自由エネルギーに依存して成立している。これに対して, 海底熱水地帯周辺では熱水中の還元型物質を用いた化学合成に依存した生態系が成立している。そして, 超好熱菌の単離による研究やDNAを抽出して試験管内で遺伝子増幅して解析する研究から, 熱水系地下には化学合成独立栄養細菌に依存した生態系があるのではないかという推定がなされている。全生物の共通の祖先は超好熱菌であろうという推定にも基づいて, 現在の熱水地下環境には生命進化初期の生態系が残存しているのではないかという推定もされている。実際, アーキアン・パーク計画によって行なわれた水曜海山火口地下掘削孔湧出水の解析から, 熱水地帯地下に水素依存超好熱性古細菌や硫黄依存化学合成細菌を一次生産者とする生態系の存在が推定された。
  • 花田 智, 森 浩二
    2005 年 14 巻 2 号 p. 327-335
    発行日: 2005/03/05
    公開日: 2008/04/14
    ジャーナル フリー
    海底熱水系やその類似環境である地下環境や陸上温泉などの高温極限環境中には, 未だ分離されていない未知微生物が数多く存在している。我々は高温で還元的な状況にあると考えられるこれら環境から, 様々な嫌気的な(または微好気的な)好熱性微生物の単離に成功した。地下で発見されたThermanaeromonas toyohensisは, 蟻酸という単純な有機物を唯一のエネルギー・炭素源とし生育出来る細菌であった。また, 陸上温泉で発見されたThermodesulfobium narugenseは, 今までに知られていた硫酸還元菌系統のどれにも属さず, 新しい系統を代表する硫酸還元細菌であった。さらにまた, 海底熱水系で発見されたOceanithermus desulfuransとArchaeoglobus sp. Arc51株はともに硫黄還元に関係した微生物であった。これら新規微生物から得られた生物学的情報は高温極限環境の微生物生態系や微生物の進化の解明に有益な知見を与えることとなった。
  • 岡本 拓士, 長沼 毅
    2005 年 14 巻 2 号 p. 337-346
    発行日: 2005/03/05
    公開日: 2008/04/14
    ジャーナル フリー
    広範囲好塩・耐塩微生物(広塩菌)は, 海水塩分(約3%NaCl)以下の低塩分から多くの海洋微生物が生育できないような高塩分まで幅広い塩分範囲で増殖する微生物であり, 本稿では「生育塩分幅が15%以上」と仮に定義する。広塩菌が用いる浸透圧調和物質は無機イオンではなく有機物であり, そのあるものは温度・圧力・pH・乾燥などへの耐性付与作用もある。したがって, 広塩菌は単に生育塩分範囲が広いだけでなく, 高塩分以外の様々な極限環境にも分布すると考えられる。特に, 海底熱水噴出孔下では, 二相分離により高塩分水と低塩分水の"塩分濃淡モザイク"が形成され, そこに指標生物のように広塩菌が分布して, 他の生息場所の広塩菌とは異なる系統進化を示すと考えられる。本稿では, 水曜海山から分離した代表的な広塩菌について, 他の"塩分濃淡モザイク"から分離した近縁株との系統関係を生物地理との関連において, 系統地理という観点から概説する。
  • 丸山 明彦, 河原林 裕, 東 陽介
    2005 年 14 巻 2 号 p. 347-359
    発行日: 2005/03/05
    公開日: 2008/04/14
    ジャーナル フリー
    海底熱水系やその地下圏などの海洋の極限環境は, 新しい生物現象や生物遺伝子資源の宝庫として, 基礎と応用の両面で注目を集めている。しかし, これらの環境から試料を採取することは容易ではなく, 新しい展開を大きく阻んでいる。そこで我々は, 海底熱水噴出孔直近の掘削という大変貴重な機会を捉え, 熱水地下圏の微生物や遺伝子を対象に, いかに効率的に良好な試料を採取して解析に繋げるかについての検討を行なった。その結果, 掘削循環水を現場で除菌する装置や噴出する熱水を現場で大量にろ過する装置, 海底掘削後に掘削孔の内部あるいは上部に耐熱・耐腐食性の微生物付着基盤を設置し, 現場で微生物培養を可能にする装置等を新たに開発した。そして, 200Lレベルの現場ろ過や高温噴出熱水中での現場培養に成功するとともに, 微生物の多様性やその分布生態, 環境ゲノム情報等に関し新しい知見が得られており, 今後の取り組が期待される。
  • 福場 辰洋, 山本 貴富喜, 長沼 毅, 藤井 輝夫
    2005 年 14 巻 2 号 p. 361-368
    発行日: 2005/03/05
    公開日: 2008/04/14
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は, 深海や深部地下などに代表される極限環境の現場において使用することのできる遺伝子解析装置の開発である。遺伝子解析の対象は, それらの環境中に生息する微生物(細菌および古細菌)である。本研究を通してROV(Remotely Operated Vehicle)やAUV(Autonomous Underwater Vehicle)によって現場に持ち込むことのできる様な小型の遺伝子解析装置が開発されれば, 深海現場において汚染のないサンプルを用いた長期連続遺伝子解析が可能となり, これまでの解析手法では得ることが困難であった情報を得ることができると期待できる。本研究では, 特に遺伝子解析において中心的な反応であるPCR(Polymerase Chain Reaction)を行う装置を製作する方法として「マイクロ加工技術」を応用することで, 小型の遺伝子解析装置のプロトタイプを製作し, 評価を行なった。その結果, 長時間にわたって安定かつ連続的な遺伝子断片の増幅が可能であることが確認できた。また30MPaまでの高圧力条件下においても, PCR法による遺伝子増幅が可能であることが明らかとなった。
feedback
Top