半導体製造工場ではシリコンウェハの洗浄工程およびエッチング工程でフッ酸を一成分とする酸混合溶液(フッ酸–硝酸系,フッ酸–硝酸–酢酸系など)が使用されており,使用済みの混酸廃液が多量に発生している.前報では,共沸混合物である硝酸–水系の気液平衡関係に及ぼす塩効果を測定し,この塩析効果を利用して希薄な硝酸廃液から硝酸の分離・濃縮について検討した.
本研究では,フッ酸–硝酸系混酸廃液に対する塩効果(塩析および塩入効果)を利用した蒸留法により,フッ酸を一成分とする混酸廃液からフッ酸を分離することを試みた.添加する塩として,硝酸セシウム,硝酸カリウム,フッ化カリウムを選び,硝酸–水系およびフッ酸–水系の気液平衡関係におよぼす塩効果を測定し,前報で報告した他の硝酸塩の結果と比較した.
実験結果から,硝酸–水系に硝酸セシウムおよび硝酸カリウムを添加した場合,気相中の硝酸濃度が減少する塩入効果を示した.一方,フッ酸–水系の硝酸セシウムを添加した場合,気相中のフッ酸濃度が増加する塩析効果を示した.硝酸濃度5 mol/dm
3・フッ酸5 mol/dm
3の模擬混酸廃液に対して,硝酸セシウム45 wt%を添加して単蒸留を行った結果,留出液としてフッ酸濃度5.41 mol/dm
3および硝酸濃度1.13 mol/dm
3とフッ酸の比率の高い混酸(5 : 1)として回収できた.さらに,この留出液を塩無添加で単蒸留して,留出液としてフッ酸濃度7.21 mol/dm
3と硝酸濃度0.46 mol/dm
3の混酸(16 : 1)と,硝酸をほとんど含まないフッ酸を回収でき,リサイクル可能であることを明らかにした.実験に使用した塩を繰り返し5回使用した結果,分離性能の低下は認められなかった.
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