化学工学論文集論文賞委員会は,2015年(41巻)に掲載された65編の論文について審査を行い,次の3編の論文を2015年化学工学論文集優秀論文賞に選定した.それらの論文タイトルは「流体混合における新しいパターン動力学」,「湿潤褐炭粒子の蒸気流動層における乾燥特性」,および「SAPO-34膜のマイクロ波加熱合成における急速加熱効果」である.
流脈線の先端部における線分の伸び速度として定義されるEuler的速度ベクトルは,初期パターンに依存しない,流れ場に固有の潜在的混合パターンの鋳型とその動きを生み出す速度ベクトルである.その新しい速度ベクトルを用いて計算される流線図は,潜在的混合パターンにおける縞模様が動く速さや方向に関する動的パターンの空間分布を表し,流脈線図はその縞模様の形に関する静的パターンを表す.
大型翼を備えた通気撹拌槽の所要動力特性を論じた論文は極めて少ない.物質移動特性もその翼独特の物質移動容量係数を測定した論文はあるものの相関式までには至っていない.本研究では大型翼を用いた場合の通気動力と物質移動容量係数を測定した.大型翼はキャビティができにくいので通気による動力低下が少ないことがわかった.また,空気–水系の場合の物質移動容量係数は,単位体積当たりの動力を基準とした佐藤らの相関式(1989)で相関でき,粘度が高くなると,完全層流域ではない流動状態では平岡らの相関式(2003)で推算可能であることがわかった.
近赤外分光法(Near-Infrared Spectroscopy; NIRS)によるインライン水分量測定を,流動層乾燥法を用いたラクチュロースの三水和物結晶粉から無水物結晶粉への変換プロセスに適用して,ラクチュロース結晶粉の水分量変化をリアルタイムにモニタリングした.そのために,流動層乾燥中のラクチュロース結晶粉のNIRスペクトルを測定し,スペクトル前処理としてMSC(Multiplicative Scatter Correction; 乗算的散乱補正)を適用してリファレンス水分量とPLS回帰分析を行い,検量モデルを作成した.NIRスペクトルは乾燥用空気の温度依存性,および三水和物結晶粉で粒子径依存性を示したが,検量モデルではその影響は除去できた.この検量モデルの妥当性検証のため,バリデーション用に別途用意したテストセットのラクチュロース三水和物結晶粉の原料を使用してラクチュロース三水和物結晶粉から無水物結晶粉に変換する流動層乾燥を行い,検量モデルによる予測水分量とリファレンス水分量がよく一致することを確認した.このことから,NIRSによるインライン測定で流動層乾燥プロセス中のラクチュロース結晶粉の水分量変化,および乾燥終点をリアルタイムでモニタリングすることが可能であることが確認できた.