アーンド・バリュー法が1970年代に考案されて以来,プロジェクト管理において工程,資源,コストの3つの要素を考慮することで,プロジェクトの計画と進捗管理が可能になった.しかし,近年,プロジェクトの大規模複雑化やプロジェクトを取り巻く環境の変化により,遅延リスクの問題が深刻化している.このような状況下では,プロジェクト管理者の経験や直感に頼ることが多く,遅延リスクを考慮したプロジェクト・スケジュールの管理の仕組みを開発することが求められている.そこで,本研究では,遅延リスクを管理するためのシステムの開発を目的とし,遅延リスクをスケジュール・ネットワーク全体の余裕の大きさの作業遅延に対する感度として算出する方法,および,これを少ない計算量で精度よく計算する方法を提案する.
イオン濃度を調整した希釈SOT培地を用いて藍藻 Spirulina platensisの比増殖速度および最大濃度を実験的に検討した.0.010–1.0倍に希釈したSOT培地に塩化ナトリウムを添加して培養を行った.塩化ナトリウムの添加によってイオン濃度を0.26–1.04 kg m–3とした培地を用いると S. platensisの比増殖速度は標準SOT培地の場合とほぼ同じとなった.塩化ナトリウムを添加した培地を用いても S. platensisの最大濃度はSOT培地の希釈倍率によって決まることがわかった.
β-クリプトキサンチン(BCX)は柑橘類に含まれるカロテノイドの一種であり,骨代謝促進・免疫賦活作用などの機能性が報告されているが,その難水溶性のために単体での経口摂取における吸収率は低いと考えられる.本研究では,BCXの水分散性を高めるため,カゼインを酵素分解して得られる消化ペプチド(PepCas)との複合体を調製した.BCXのエタノール溶液とPepCasの水溶液を混合し,凍結乾燥して得られた複合体は,複合化する際のPepCas濃度が増加するほど,BCXの中性条件下における水分散性が向上した.複合化による経口吸収性への影響を評価するため,ヒト結腸癌由来株化細胞であるCaco-2細胞の単層膜を用いた膜透過試験を実施したところ,擬似消化処理を施した対照試料ではBCXは細胞を透過しなかったが,同様に処理した複合体では24 h経過後に一定量のBCXの透過が確認された.このことから,PepCasとの複合化によってBCXのバイオアベイラビリティが向上することが示唆された.
リン酸水素二ナトリウム12水塩は室内の空調や床暖房への適用が期待される潜熱蓄熱材である.しかし,蓄熱状態にあるその融液は融点以下の温度に冷却されても容易に核化しないので,蓄えた潜熱を融点で放熱する潜熱蓄熱操作に支障が生じる.この過冷却の問題を解決するため,一般に発核剤の添加が行われるが,その核化促進能力はいまだ不十分なものであった.本研究では,発核剤として機能するための必要な物性条件の抽出を目的とし,添加試薬の陰イオン成分を固定して,炭酸塩および硫酸塩の核化促進能力の強さを熱サイクル実験によって調査した.促進能力の強さを過冷却比として定量化し,添加試薬の水への溶解度との関係を調べた結果,12水塩融液中に沈殿生成して不均質核化を誘発する試薬ではその核化促進能力の強さが溶解度と関係することがわかった.さらに,融液に溶解して生成した陰イオンおよび陽イオンによる核化促進および核化阻害の作用は相加的であること,その陽イオンとナトリウムイオンとのイオン半径差が大きいほど陽イオンによる阻害作用が強くなること,そして不均質核化による促進作用と陽イオンによる阻害作用とは相加的であることが明らかになった.
亜鉛めっき排水を原料とした層状複水酸化物(LDH)を合成し,ほう素吸着材への適用可能性を検討した.実排水として利用した亜鉛めっき水洗水中には硫酸イオンが高濃度に含まれており,ほう素吸着能を阻害することが想定されたため,硫酸イオンを添加した模擬排水を用いて最適な合成条件を模索した.原料となる排水中に硫酸イオンが多量に含まれる場合には,得られるLDHのほう素吸着能は低下することが示唆された.しかし,pH調整時に炭酸ナトリウムを用いて炭酸型LDHとし,450°Cでか焼することにより層間の炭酸イオンを取り除くことで,炭酸型LDHの酸化物(LDO)が得られ,硫酸イオン含有量が低下するとともにほう素吸着能が向上することが確認できた.実排水を原料とした場合にも,450°Cでか焼して得られるLDOは模擬排水の場合と同等のほう素吸着能を示したことから,硫酸イオン以外の夾雑物質の影響は軽微であり,亜鉛めっき排水の有効利用法として期待できる.