多孔質活性炭担持白金微粒子をデカリンで適度に湿潤しつつ加熱すると,懸濁状態よりもはるかに高い脱水素活性を発現した.担体炭素ナノ細孔の毛管力に基づく基質液高温化と,固液接触由来の基質高密度供給によって,デカリンを常圧の280°Cでほぼ完全にナフタレンと水素に転化させた.熱移動過程での大きなエントロピー生成速度は,化学平衡制約を解除できることを指摘した.デカリンはメチルシクロヘキサン以上の長期貯蔵媒体となる可能性を持っていることが判明した.
硫酸を電気分解することにより,過酸化水素を添加することなく,ペルオキソ一硫酸とペルオキソ二硫酸といった2種類の酸化性活性種が生成する.我々は,この硫酸を電気分解して得られた酸化力の高い液体を用いて,廃棄CFRPの樹脂成分のみをCO2と水に分解して,炭素繊維を連続繊維としてリサイクルする技術開発をしている.この技術を「電解硫酸法」と呼んでいる.このプロセスを構築するためには,ソースとなるCFRP圧力タンクから炭素繊維を取り出すために必要なマトリックス樹脂の分解量と分解速度から,炭素繊維の取出しにかかる時間を知る必要がある.しかしながら,硫酸の電気分解による酸化性活性種の生成に関する詳細な研究はあるものの,CFRPマトリックス樹脂の分解に関する詳細な検討はなされていなかった.そこで本論文では,炭素繊維の取出しに必要なマトリックス樹脂の分解量をシミュレーションし,並行して実験により樹脂の分解速度を求め,それらの結果を用いて炭素繊維を取出す速度を計算した.検討の結果,炭素繊維のマトリックス樹脂への埋蔵率が60%になるまでマトリックス樹脂を分解除去することにより,炭素繊維を少ない力で取り出すことが可能であることがわかった.また,実験により求めたCFRP樹脂成分の分解速度を,先のシミュレーション結果と組み合わせることにより,CFRP製圧力タンクから連続的な炭素繊維取出す速度は,6.1 m/minであることが試算された.この結果は,実用化プロセスを設計する上で重要な情報であった.また,今回のシミュレーションと実験結果を組み合わせた検討手法は,広く実用化開発に応用可能であり,今後の工業分野の発展に貢献すると考えられる.
柑橘類に多く含まれるβ-クリプトキサンチン(BCX)について,各種の健康機能性が報告されている.難溶性かつ化学的に不安定なカロテン類であるBCXは製剤によって安定性ならびに消化液への分散性を高め,経口吸収性を改善することが望まれる.本研究では,ミカン搾汁残渣から抽出したBCXを含む油相と,カゼインナトリウム(CasNa)およびショ糖脂肪酸エステル(L-1695)を含む水相とを用いてO/Wエマルションを調製し,さらに均一な細孔径を有するシラス多孔質ガラス(SPG)膜を透過させてSPG膜乳化を行った.粒子径測定により単分散粒子径のエマルションが得られたことを確認し,これを凍結乾燥して固体分散体を得た.得られた固体分散体においてBCXの水分散性ならびに熱安定性は大幅に改善され,その粒子径も単分散であった.調製された固体分散体に含まれるBCXの経口吸収性を評価するため,擬似消化処理を施した固体分散体のCaco-2細胞単層膜を用いた細胞膜透過および蓄積試験を行った.BCXの細胞膜透過は確認されなかったが,複合化によりCaco-2細胞への蓄積量の増加が確認された.
本報では,高効率発電や高効率水蒸気電解に用いられる固体酸化物形燃料電池(SOFC)および固体酸化物形水蒸気電解(SOEC)セルスタックのスケールアップ等に向けた信頼性向上を目的として,燃料極支持形セルへのY2O3安定化正方晶ZrO2多結晶体(Y-TZP)の適用による強度向上について検討した.Y-TZPは強度が高く,工具や歯科材料として広く使われている.しかしながら,ジルコニアとしては低温の100–400°Cで湿りガス,熱水雰囲気において正方晶(T相)から単斜晶(M相)に膨張を伴う相変態をし,力学特性が低下する懸念がある(水熱劣化).本研究では3 mol%Y2O3–97 mol%ZrO2(以下,3YSZ)粉体を用い燃料極支持体の試作および強度試験を行った.その結果,1285–1300°Cの焼結条件下で水熱劣化による強度低下を抑えつつ,従来比での強度向上が確認された.焼結温度を従来より下げる必要があるが,SOFCおよびSOECシステムにおけるNi-3YSZ支持体への適用可能性が示された.