第23回化学教育フォーラムは,「化学教育におけるアクティブ・ラーニング」というテーマで開催された。文部科学省,教科書会社,中高の現場,そして大学と各界からの講演者4名の講演の後,会場の参会者も交えての意見交換が行われたが,200名近い参加者があり大盛況であった。教育関係者の間で,このテーマに関する関心の高さがうかがわれるシンポジウムであった。
文部科学大臣の諮問1)をうけて,その方向性を示す「論点整理」2)が出された。「論点整理」では,これからの社会を生きる子どもたちに育成すべき資質・能力を三つの柱で整理している。その資質・能力を身に付けていくために,「深い学びの過程が実現できているかどうか」,「対話的な学びの過程が実現できているかどうか」,「主体的な学びの過程が実現できているかどうか」といった三つの視点からの授業改善が求められてる。
小学校・中学校の理科教科書は,課題解決型の授業展開に沿った構成としており,観察・実験の予想・仮説,計画や結果・考察の場面で,アクティブ・ラーニングにつながる話し合いや発表などの主体的・協働的な活動を充実させている。一方,高等学校の理科教科書は,全体として学習内容(主に知識面)を整理して提示する構成としており,学習内容の区切り箇所の探究活動の中で,主体的・協働的な活動が可能な内容を扱っている。これら現在の教科書紙面の編集意図を紹介し,教科書からひろがるアクティブ・ラーニングの可能性について述べる。
近年,教育現場では生徒の能動的活動,いわゆるアクティブ・ラーニングの活用が注目を浴びている。本校では,以前より生徒が主体となる活動が多くの教科ならびに行事を通して行われている。本稿では化学の活動例として,一部の生徒が教師役となり,予備授業を通して,授業を行っていく生徒主導型授業であるPeer Instructing Education(通称PIE)について述べる。さらに,生徒主導型授業PIEの実践により認められた生徒の学習意欲の向上や自己肯定感の向上,学力定着への効果について示す。また,他校におけるPIEの実践によって認められた生徒の学習意欲の向上の効果についても言及する。
アクティブ・ラーニングが求められる背景から,大学教育におけるアクティブ・ラーニング型授業の定義と意義,反転授業を用いた実践例について報告する。また,アクティブ・ラーニングの深化と充実に向けて,大学教育再生加速プログラム(AP)による組織的な取組事例を紹介する。大学教師に求められる教育能力の開発と相互の学び,学習支援環境の設計と整備によって,高校・大学から社会への教育接続の実現が期待される。生涯学び続ける自律した学習主体=「アクティブラーナー」として社会へとつながるために,個の学びを始点に,他者との対話・協同を通じて深い学びを目指す,学習の共同体としての大学教育の構築がなされつつある。
磁気物性から多様な環境問題に取り組む環境磁気学は,近年,有用性が広く報告されている。ほとんどの物質に含まれる磁性鉱物をトレーサーとし,その含有量や種類と粒径をもとに,時空間分布を調べることで,環境場の変化や環境物質の移動等を能率良く推定できる。また,強磁性鉱物が周囲の磁場を残留磁化に記録できる性質を用いると,過去の地磁気も含む磁場の研究が行える。本稿では,富山県の,3,000m級の立山を始めとする山岳地域や水深1,000mを超える富山湾という変化に富む自然環境で実施した環境磁気研究を紹介する。特に報告例が少ない自動車が発生源となる土壌汚染に関する立山地域での研究と,富山・北陸に特異な雷の研究について概説する。
富山県は,三方を急峻な山々に囲まれ,深い湾を抱くように平野が広がっている。豊富な水資源は,稲作等の農業を盛んにし,また急な川が多いので水力発電所が多く,大量の電力を必要とするアルミ産業を発展させた。過去には,日本の四大公害病の一つ「イタイイタイ病」が発生し,最近では,立山に日本で唯一の氷河があることが確認された。魚津では,国の特別天然記念物に指定された約2000年前の杉林の埋没樹根も発見されており,富山市を中心に半径50kmの中に高低差4,000mの時空を超えた多様な自然環境が見られる。本稿では,富山の川のカドミウム濃度の現状と立山の雪と魚津埋没林の地下水に関する研究について紹介する。
柿は日本人にとって典型的な秋の味覚の1つである。また,渋柿を原材料とする「柿渋」の利用が古くから日本文化に根付いており,染料,塗料,民間薬などのほかに日本酒の醸造にも用いられてきた。渋柿の渋みの成分であるポリフェノールの一種のカキタンニンが,このような柿渋の様々な効果をもたらしていると考えられている。近年ではノロウイルスなど様々なウイルスの不活化にも効果があることが報告されている。本稿では,渋柿の渋抜きのメカニズムなど,カキタンニンの化学を中心に述べる。
シアニド架橋鉄錯体は高校化学の教科書や資料集,大学入試でも取り扱われるほど重要であるが,それらの名称の記述がなかったり,曖昧に扱われていたりするのが現状である。本報では文献調査と実験から,高校で学習する鉄イオン“Fe2+”と“Fe3+”から構成されるシアニド架橋鉄錯体の関係を明らかにした。