アリストテレスの四元素説(火は,水,土,空気とならび四元素の1つであった),パラケルスス派の三原質(エン,スイギン,イオウの3つのうち,イオウは可燃性を担う原質と位置づけられていた)という17世紀までの元素説・原質説の基本をまず紹介しよう。そして,こうした背景に対し,ベッヒャーとシュタールのフロギストン説は,一体何であったのかを解説しよう。
「酸素の発見」は,現在も関連の文献やDVDが出版・販売され続けている古くて新しいトピックである。本稿では,近年の科学史・科学哲学の研究成果を援用して,「燃焼の本質」,「発見とは何か」,そして「発見者とは誰か」についての理解を深め,「酸素発見競争の現在」ともいうべきものを,「酸素の発見者」として知られるプリーストリを中心にその内実を紹介していくことにする。
プリーストリによる,燃焼と呼吸を支える新しい空気=酸素ガス発見の報はラヴォワジエの燃焼の研究を深化させ,ラヴォワジエは元素としての酸素を中心におく新しい化学の体系を構築した。この近代化学創始の契機となった酸素ガスはどのようにして発見されたのだろうか。前項で紹介されたプリーストリと同時期に,実際上はプリーストリよりも2~3年早くから,このガスを発見してその性質を詳しく調べていたもうひとりの化学者がいた。カール・ウィルヘルム・シェーレ(1742~1786)である。本稿では,酸素ガスを発見し,その他多数の化学物質を発見・研究したシェーレの活動を紹介する。
ラヴォワジエの研究の出発点は1772年のリンと硫黄の燃焼実験であり,その際の質量変化に着目したことであった。2年後には,プリーストリから示唆された酸素気体を対象として定量実験を繰り返し,この酸素が質量変化をもたらす原因であることを突き止め,フロギストンではなく酸素と結びついていた熱素(カロリック)の遊離が燃焼の際の熱をもたらすことを明らかにした。
中学校理科および高等学校化学で扱われる「色の変化を伴う反応」の一つに,酸塩基指示薬の変色がある。本稿では,種々の酸塩基指示薬とそのpH変化に伴う色の変化,その際に起こっている構造の変化などについて解説する。あわせて,酸塩基指示薬と同じメカニズムで発色するキレート指示薬や,酸塩基指示薬として実験に使われることが多いアントシアニンをはじめとする天然色素についても,発色団の構造の変化について解説を試みた。
クロミズムとは,外部刺激によって色が可逆的に変化する現象のことである。外部刺激には,光,熱,媒体の極性,電子の授受,外力,pH変化,等があり,これらによって引き起こされるクロミズムはそれぞれ,フォトクロミズム,サーモクロミズム,ソルバトクロミズム,エレクトロクロミズム,メカノクロミズム,アシドクロミズム,と呼ばれる。本稿ではこれらについて概観した後,フォトクロミズムについて少し詳しく述べる。フォトクロミズムには光照射で生じる異性体が不安定で,光照射を止めると元に戻るT-typeの化合物と,2種類の光の照射のみによって2つの異性体の間を往復するP-typeの化合物がある。P-typeのフォトクロミズムについて,主に著者らの研究を題材に,いかにフォトクロミズムが興味深い現象であるかを紹介する。
肝臓は体内最大の臓器であり,代謝をはじめとした生命を維持するうえで必須の機能を数多く担っている。その中でも,三大栄養素と呼ばれる炭水化物,脂質,タンパク質のエネルギー代謝は我々が活動するためになくてはならない重要な機能である。一方,人体に有毒な物質を解毒する薬物代謝も,生命を守るためには必要な機能である。このような肝機能を十分に理解することは,健康の維持だけでなく,新薬の開発においても重要な意味を持っている。
本研究では,50分という授業時間内でプロテアーゼの作用を視覚的に示す実験を開発した。すなわち,脱脂粉乳溶液をプロテアーゼによって透明化する実験について,既報では反応に数十分~数時間かかっていたところを,数分で明瞭に示すことに成功した。本実験法は,発色試薬等の高価な材料を必要とせず,短時間でプロテアーゼによるタンパク質の分解を視覚的に示す実験を行うことができる。