日本の硫酸工業は明治初期の貨幣の金属洗浄用から始まり,化学肥料工業の台頭,合成繊維の量産化,無機化学製品の伸長による硫酸需要の増大に合わせて供給体制を確立してきた。当初の硫酸製造法は単体硫黄,硫化鉱を原料とした硝酸式(鉛室法)であったが,非鉄金属製錬ガス,石油精製の回収硫黄およびコークス炉ガス等へと原料が変化し,高濃度,高純度の硫酸を製造する接触式へ変遷してきた。現在,世界では2億7千万t/年以上の硫酸が製造され,今後さらに需給拡大の見通しである。本稿ではその興味深い硫酸工業について紹介する。
苛性ソーダ (NaOH) および金属ナトリウム (Na) は,いずれも化学的に非常に活性なアルカリ金属の化合物および単体である。これら製品は,塩化ナトリウム (NaCl) を原料にして生産されて,幅広い産業分野の原料や反応剤などに利用されている。現在,NaOHとNaの生産には,電気分解法が用いられる。前者はNaClの水溶液,後者はその溶融塩を用いた電解法である。これら製造には電気分解という共通手法を適用するが,操業に対する取り組みは当然異なる。本稿では,NaOHとNaの製造法を解説する。
1906年にドイツでハーバーとボッシュがアンモニアの合成に成功した。この方法は,水と石炭と空気からパンを作る方法とも言われ,窒素の化学肥料の誕生により農作物の収穫量は飛躍的に増加し世界を飢餓から救ったと言われている。工業的には,1913年にドイツで生産が開始されているが,アンモニア合成に関しては,100年以上経った今でもハーバー・ボッシュの技術が,そのまま生かされている。
銅は,高い電気導電度や熱伝導度をもつうえに加工性にも優れており,そうした特性を必要とする部品や製品に使われ,我々の生活を便利で快適にするために必要不可欠な金属として人類に多大な貢献をしてきた。また,人間の健康に必須な金属であり,抗菌性をもつなど不思議な金属でもある。今後,地球温暖化対策として太陽光発電などの再生可能エネルギーや蓄電池,さらには電気自動車などが活躍する社会になっていくが,ここでも絶対に必要な金属であり,将来も魅力的な金属である「銅」とそれをつくる「銅製錬」について概略を解説する。
触媒は化学反応の速度を増加させる。この性質を応用することで,特定の化学反応を優先的に促進させ,目的とする生成物(製品)を選択的に,迅速に,大量に製造することができる。このため,多種多様な触媒が数多くの化学プロセスに利用され,身の回りに見られる様々な製品が生み出されている。多くの製品が石油を原料としているが,石油から製品が生み出される工程は,高等学校教科書ではほとんど見られない。石油が製品の原料に変換するまでを見ても,非常に多くの工程が存在し,そこでは触媒が重要な役割を果たしている。本稿では,石油精製に焦点を当て,それぞれの工程で利用されている触媒について概説する。
ラボ研究で生み出された化学品は,事業化の目途が立つと量産プラントによる工業的生産へと移行していく。そのとき,研究の成果を工業規模で実現するためには,ラボ検討の中で得られた知見に基づいて,装置の中で生じる様々な現象を支配する因子を一致させたスケールアップを行うことが重要である。その方法の具体的な事例として,反応操作におけるスケールアップの要点を,反応方式,流動,伝熱,およびシステムの視点から解説した。また化学プロセスにおいて代表的な単位操作の中から,拡散分離の1つである抽出についても具体例を示した。