創薬研究の初期段階において未知の活性化合物を探索することを目的として,仮想構造を提案する構造生成器が提案されている。化学空間上では,類似した構造は近接した位置に存在し,また多くの場合で類似した活性を示す。そのため既存の高活性化合物の周辺領域に適切な分布をもつ構造群を生成することで,高活性で一定の多様性をもつ新規構造群が得られると考えられる。このことを可視化された化学空間上で操作することは化学者の発想を刺激する。創薬研究における化学空間の可視化および化学空間の探索は近年注目されているトピックである。事例を紹介しながら解説する。
データ科学の基礎技術を簡単に解説し,第一原理計算を実行する人間の補助を行うシステムが,データ科学によってどのように構築されるかについて言及する。またデータ科学との融合によって,現在可能なこと,および将来的に目指している方向を紹介する。
近年の生命医科学では,遺伝子,タンパク質,化合物,薬物,疾患に関するビッグデータが得られるようになってきた。ビッグデータ解析から新しい医学的発見や新薬開発につなげる研究が期待されている。本稿では,様々な医薬データを機械学習(人工知能の基盤技術)で有効活用した疾患研究や創薬応用を紹介する。特に,既存薬物から新規効能を発見するドラッグリポジショニングに基づく創薬への応用を解説する。
触媒は身の回りの様々な生活必需品の原料や材料を製造するうえで欠かせない。これまでの触媒の発見・開発は,研究者が経験や知識・勘に頼って試行錯誤を繰り返して行われてきた。本稿では,人工知能(AI)を活用して触媒反応を予測して,新しい高性能触媒を効率的かつ迅速に発見・開発することを目指した「キャタリストインフォマティクス」研究について解説する。
合成高分子は,変化に富んだ性質をもつが電気を通さない絶縁体という点では共通しており,高分子材料が電気の絶縁体であることは常識だった。しかし,この常識は1977年に金属のように電気を通す導電性高分子の誕生によって破られた。本稿では導電性高分子の原型である薄膜状ポリアセチレンの合成とそのドーピング反応による導電性の発現に至る過程や,ドーピング反応および導電機構について述べる。
白川英樹博士らによるポリアセチレンの導電性発現の報告以来,導電性高分子は盛んに研究開発されてきた。本稿では,特に注目度の高いポリチオフェン系の導電性高分子であるポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)とポリ(3-アルキルチオフェン)の特徴について紹介する。双方とも高分子の高次構造がその電気伝導を大きく作用することが明らかとなってきたため,その高次構造と導電率の関係について注目してみる。また,これらの導電性高分子は帯電防止膜や固体電解コンデンサ,有機ELや有機太陽電池のホール輸送層など幅広く利用され,一部は商業的にも成功を収めている。本稿では,特にキャリヤの輸送性能の評価にも欠かせない高分子トランジスタと最近大きな注目を集めている高分子熱電変換について紹介する。
メイラード反応とは糖とアミノ酸,タンパク質が反応して茶色く変色する一連の反応であり,加熱による色づきと香気の形成に大きく関わっている。パウンドケーキなどの焼いたお菓子では,この反応がおこり,焼き色がつくとともに甘い香りなど様々な香ばしい香りを呈する。糖がメイラード反応により分解して種々のカルボニル化合物が形成され,それらが再びアミノ酸と反応し,色や香りが形成される。