ソノケミストリーの反応は,液体への強力な超音波の照射によって生じたキャビテーション気泡と呼ばれる微小な気泡がつぶれる時の,数千度・数百気圧にも達する極限環境場に起因している。ソノケミストリーの反応が起こるメカニズムと反応場の特徴について,反応源であるキャビテーション気泡の挙動と,ソノケミストリーと同じ起源であるソノルミネッセンスと呼ばれる気泡からの発光の観察結果を示しながら,解説する。
光音響分光法は,光吸収によって生じた励起種(例えば,励起状態にある電子など)が基底状態に戻る際に放出される熱を,物質の熱膨張によって生じた圧力変化(音波)として検出する手法であり,音の大きさによって光吸収量を評価する。そのため,微粒子の分光測定の際に問題となる光散乱の影響を受けることなく,そのままの状態での測定が可能である。本稿では,光音響分光法の概要と,これを光触媒反応に適用した著者らの取り組みについて紹介する。
音楽と人の心の関係は音楽心理学として研究が進んでいる。しかし,音(可聴音)と物質の分子レベルでの関わりはほとんど研究されていない。当研究グループは,小さな色素分子が集合化して形成するナノスケールのファイバーが,音楽の音によって生じる溶液の流れに応答して,動的な整列現象を与えることを見出した。化学と音学の異色なコラボレーションによって,これまでに全く前例のない独創的な研究が展開されており,本稿では,音で整列するナノファイバーに関する著者らのこれまでの研究を紹介する。
超音波によって,室温・大気圧で水中の汚染物質の分解,有価物質の分離をすることができる。汚染物質の分解は超音波キャビテーションに起因し,有機物質,高分子,病原菌などを熱やラジカルにより分解する。有価物質の分離では超音波霧化によりアルコール,界面活性剤,アミノ酸などを液滴中に濃縮する。本稿では,分解・分離のメカニズムと物質による挙動の違いについて概説する。
非常に明るい白色光源は,青色発光ダイオード(青色LED)の青色光とそれによって励起された蛍光体の黄色光の合成による。青色LEDは窒化ガリウム(GaN)を主成分とする単結晶で作られているが,このGaNの高品質結晶の成長は困難を極めた。最大の問題は,サファイアを基板として用いざるを得なかったことである。サファイアとGaNは結晶形が同じで1000 °Cの高温でもアンモニアや水素雰囲気といった過酷な条件に耐えられる。しかし,両者の格子定数は大きく異なり,凹凸の激しい多結晶しかできなかった。これを解決したのが,窒化アルミニウム(AlN)低温緩衝層の導入であった。この上のGaNは初期には微結晶であるが,成長とともに隙間を埋めていき,全面を覆う平坦で方位の揃った単結晶となる。これが後に続くpn接合や青色LEDの始まりである。
本稿では,2014年にノーベル物理学賞の受賞理由となった青色LEDについて取り上げ,将来を展望する。照明に続く青色LEDの新しい応用先としてマイクロLEDディスプレイが挙げられる。液晶ディスプレイ,有機ELディスプレイに次ぐ,次世代ディスプレイと言われており,その現状を紹介する。一方,青色LEDを発展させた新しい発光素子として青色レーザーが注目を集めている。このレーザーの発光原理,素子構造を解説した後に,期待されている新しい応用先について述べる。最後に,青色レーザーの一例として筆者がその開発に注力している面発光レーザーについて紹介する。
私たちが普段料理やスイーツを食べる前に,その色や形のビジュアルや,漂う香りなどから目の前の料理を評価する。この料理やスイーツのおいしさを決める要因はさまざまで,外観,におい,味,温度,食感などの「食べもの側の要因」はもちろんであるが,空腹具合や健康状態の生理的な要因や,メンタル面の心理的要因などの「食べる人側の要因」も考えなければならない。つまり,おいしいスイーツの秘密を探ったり,おいしいスイーツを開発することを極めていけば,必然的に「食」だけではなく,「人」がおいしく感じることについても分子レベルで調べることに行き着くことになる。その例をいくつか紹介する。