海は生命の起源であり,地球表層環境の気候・気象の原動力であるとともに,人類には水産資源の恵みや大災害ももたらす。さらに,地球に特有の海洋は,我々の生活に不可欠の金属鉱物資源を生み出す自然界のファクトリーであることはあまり知られていない。近年,高度な海洋調査技術によって,深海底に新鉱床が発見されたことから新たな地球化学像が描かれつつある。我々は,近い将来,陸上で枯渇するレアメタルを海洋に求めることになるかも知れず,探査開発や採掘環境影響の検討が現実問題となっている現在,地球化学や地質学が果たす役割は大きい。
水蒸気噴火は一般に小規模な噴火である場合が多いが,致命的な被害をもたらす可能性がある。水蒸気噴火の原因である熱水溜りから地表に漏れ出る火山ガスの化学組成変化をモニタリングすることにより,火山活動を評価することが可能になってきた。活動的火口湖における火山活動評価では,湖水の化学組成が有益な情報を与えることが示された。
我が国の大気環境は大きく改善されてきているが,まだ十分には克服できていない問題として光化学オキシダント(オゾン)とPM2.5の問題がある。本稿では,その両者について発生のプロセスと,現在残されている問題点について解説する。
宇宙の進化は多くの場合物理学で論じられるが,実は物質や化学が重要な役割を果たしている。元素は恒星で合成され,固体物質を作り,次世代の恒星の誕生にともない惑星を作ることになる。物質の種類やサイズが物理過程を支配し,物理過程が化学反応を引き起こす相互作用こそが宇宙の進化・惑星の多様性の本質である。
高校化学において,糖類などの天然有機化合物を扱う時間は限られているのが実情ではないだろうか。ここではまず,グルコースの立体化学など,指導のポイントを概説する。続いて,メディアでよく名前が登場する二糖類や多糖類について,その用途やエピソードなどを紹介する。
高校の化学の教科書コラムにシクロデキストリンが取り上げられ1),巻末にも「包接化合物には,どのようなものがあるか調べてみよう」との記載を目にする時代になった。本講座では,シクロデキストリンの「清濁併せ呑む」特性について,高校化学の内容から始め,最新のトピックスについて解説する。
単糖が連結した鎖状分子“糖鎖”は,ヌクレオチド鎖であるDNAやRNA,ペプチド鎖であるタンパク質に次ぐ,生体第三の鎖として善かれ悪しかれ機能している。例えば,細胞内で生じた異常タンパク質が分泌されないようにする機構や細胞のウイルス感染などには,糖鎖が決定的役割を担っている。