粘土鉱物は,基本的に天然に産する層状ケイ酸塩鉱物の一群であり,70種以上が知られている。その特徴的な結晶構造と,化学組成に起因する代表的な性質として,イオン・分子吸着性,溶媒中へ分散性と吸水による膨潤性,加熱変化および焼結性について紹介する。
粘土鉱物は火成岩などの風化により生成した二次鉱物として,生命が誕生した時期(約35億年前)にはすでに地殻表面に広く存在していたと考えられている。そのため,生命誕生の過程で粘土鉱物が何らかの役割を果たしたのではないかという仮説が今までいくつか提唱されている。本稿ではその中から,粘土鉱物が関係した遺伝子乗っ取り説を紹介する。また,生体を特徴付ける重要な因子である分子キラリティに着目し,今まで筆者らが行ってきた粘土鉱物表面でのキラル認識についても紹介した。
粘土鉱物が具備する層状の結晶構造と同形置換の2つの特徴は,板状の粒子形態,吸着・イオン交換,分子性質の改変,コロイドの形成という4つの基本的な特性を粘土鉱物に与える。これらの特性を活用して,粘土鉱物から遮水,洗浄,分析,情報記録,さらには人工光合成などに関係する多彩な機能材料が開発されている。
自然界で形成される粘土鉱物は,温度や圧力,pH値といった外部環境の影響をさまざまに受けながらも適度な安定性をもち,安全な物質として知られている。また,吸着特性,コロイド的性質など,そのユニークな性質が古くから人類に注目され,様々な形で利用されてきた物質でもある。近年,結晶の微細さゆえに解明が困難だった粘土鉱物の構造解析が進み,粘土鉱物に対する理解が深まり,上記性質を改良する技術,合成する技術が発達したことによって,隠れた特徴が新たに引き出されてきている。本稿では環境科学,惑星科学,材料科学の分野で躍進する新しい粘土化学を紹介する。
中学や高校の授業で高分子について学ぶことは,身のまわりのプラスチック製品の成り立ちを知り,その製品との関わり方を知ることにつながる。生徒たちが実験体験を通して高分子化学に触れ,高分子らしさを体感しながら,プラスチックの処理や廃棄問題にも目を向けられるよう,教材紹介する。
高分子の一次構造の詳細について理解するために,高等学校の教科書では割愛されている高分子の合成の詳細について概説した。末端構造,モノマー間の結合様式,立体規則性,共重合,ジエン系高分子の異性構造に焦点をあてる。低分子の有機化合物にはない特性としての分子量分布や共重合体の組成分布などの「分子間不均一性」についても紹介する。
水素エネルギー社会の実現は,環境・エネルギー分野における様々な課題を解決し,持続可能な社会の実現に繋がることが期待されている。そのためには科学技術のイノベーションが不可欠であり,化学の果たす役割は大きい。本稿では,水素エネルギーと化学の関わりについて,いくつかの例をその背景とともに紹介する。
高等学校における比色分析では,環境中の微量成分の定量や,遷移金属イオンの定量などが探究活動として実践されている。サレン型のシッフ塩基配位子は合成が容易であり,遷移金属イオンなどに配位し,蛍光や色変化が観察されることから,分析化学の分野でひろく用いられている。そこで,錯体配位子の合成および,微量の銅(Ⅱ)イオンの定量を含む教材開発を行った。