日本東洋医学雑誌
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61 巻, 5 号
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総説
  • 折笠 秀樹
    2010 年 61 巻 5 号 p. 683-689
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/10/30
    ジャーナル フリー
    東洋医学には漢方薬をはじめとして,鍼・マッサージなどの代替医療と呼ばれるものまで幅広く含まれる。基本的には東洋医学に特有の統計学が必要ということはなく,一般に解説されている統計学を理解しておけば十分である。本総説では統計学の基本を解説しつつ,論文投稿に際して重要な事項を述べる。統計学の考え方,データの取り方,研究デザインの詳細,東洋医学特有の配慮,基本的な統計手法,多変量解析,統計ソフトの7つに分けて概説する。特に,標本変動の概念,観察研究と介入(実験)研究の違い,ランダム化の意義,症例数設計,t検定・カイ二乗検定,対応のある検定,ノンパラ手法,P値,相関係数,重回帰分析,ロジスティック回帰分析を解説する。
臨床報告
  • —香砂六君子湯および香蘇散と補脾剤の併用を中心に—
    木村 容子, 杵渕 彰, 稲木 一元, 佐藤 弘
    2010 年 61 巻 5 号 p. 690-698
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/10/30
    ジャーナル フリー
    脾虚の患者に対する治療では,補脾剤だけでなく気剤の併用が有効な場合がある。症例1‐2では六君子湯(煎じ)に気の巡りをよくする香附子,縮砂,藿香を追加した香砂六君子湯によって胃腸症状だけでなく頭重感なども改善した。症例3‐4は六君子湯と香蘇散の併用が有効であった症例である。香蘇散と合方した補脾剤は,六君子湯より虚証では四君子湯(症例8),下痢やめまいがあるときには真武湯(症例5‐6),裏寒が強いときには人参湯(症例7)を併用した。香蘇散は「必竟あしらい薬の主方なり」と主役の薬に添えられるあしらい,すなわち脇役的な役割であり,他の薬と併用することが多い。六君子湯などの補脾剤単独よりも香蘇散を併用することで胃腸症状だけでなく幅広い愁訴の改善が期待できたため,香蘇散と補脾剤との組み合わせは臨床応用の広い処方であると考えられた。
  • 引網 宏彰, 柴原 直利, 村井 政史, 永田 豊, 井上 博喜, 八木 清貴, 藤本 誠, 後藤 博三, 嶋田 豊
    2010 年 61 巻 5 号 p. 699-707
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/10/30
    ジャーナル フリー
    リウマチ性多発筋痛症(PMR)に対して,漢方治療が奏効した5症例について報告する。さらに,これら5症例を含む当科でのPMR治療例10例について検討した。その結果,有効症例は6症例であった。そのうち,1例はステロイド剤の投与を拒否した症例であったが,他の5症例は筋痛症状や炎症反応の出現により,ステロイド剤の減量が困難な症例であった。また,1例を除いて,CRPは3.0 mg/dl以下であった。一方,無効症例では高度の炎症反応を示しており,ステロイド剤の投与が必要であった。有効症例には駆瘀血剤(疎経活血湯,桃核承気湯,桂枝茯苓丸,腸癰湯加芍薬,薏苡附子敗醤散,当帰芍薬散)が投与されていた。以上より,PMRでステロイド剤の減量が困難な症例や炎症反応が軽度である症例には,漢方薬は治療の選択肢の一つとなりうると考えられた。さらに駆瘀血剤の積極的な使用がPMRの治療に有用である可能性が示唆された。
  • 大八木 敏弘, 西川 順子, 大沢 正秀
    2010 年 61 巻 5 号 p. 708-717
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/10/30
    ジャーナル フリー
    線維筋痛症と診断された患者に対して,四診により証を明確にして鍼治療のみを行い,胸背部の疼痛,発熱,不眠症状の軽減とQOLの改善をもたらすことができた。
    症例は35歳女性。仕事上の精神的,肉体的ストレスが持続した後,胸背部の疼痛及び発熱が発症し入院するが,精密検査では異常はみられず経過観察となった。次第に痛みが激しくなり,大学病院で線維筋痛症と診断されたが,東洋医学的治療を希望し当院を受診した。肝鬱気滞,気滞血瘀,気鬱傷陰と弁証し神道穴及び照海穴の少数配穴による鍼治療を行った。痛みは37診以降には3割程度になり,発熱も消失し,91診時には痛みは気にならない程度になった。Fibromyalgia Impact Questionnaireは初診時の78から17カ月後の82診時には23に改善され,線維筋痛症に対して鍼治療のみで著効を得ることができた。
  • 洪里 和良, 及川 哲郎, 伊藤 剛, 星野 卓之, 五野 由佳理, 花輪 壽彦
    2010 年 61 巻 5 号 p. 718-721
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/10/30
    ジャーナル フリー
    麗沢通気湯は嗅覚障害を主治とする方剤である。神経性嗅覚障害に対して麗沢通気湯が奏効した症例を経験したので報告する。症例は43歳,男性。主訴は嗅覚脱失である。頭部を打撲して以来,嗅覚が全脱失した。某大学耳鼻咽喉科に通院したが改善しないため,受傷14カ月後に当研究所を受診した。麗沢通気湯を処方したところ4週間後に軽度の自覚症状の改善を認めた。以後,麗沢通気湯を続服し,服薬約2年後に嗅覚は正常化した。麗沢通気湯は神経性嗅覚障害に効果があることが示唆された。
  • 木村 容子, 杵渕 彰, 稲木 一元, 佐藤 弘
    2010 年 61 巻 5 号 p. 722-726
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/10/30
    ジャーナル フリー
    浅井貞庵の『方彙口訣』中暑門では,暑気あたりは,暑さだけでなく湿も関与し,寝冷え,納涼や冷飲食などで身体を冷やすことが原因であると述べている。湿度の高い暑さは胃腸内の気の巡りを阻害するが,五苓散は水気を取り除くことにより,暑気あたり全般に幅広く応用できる処方と解説している。本報告では暑い夏の最中に冷房室内で冷飲食をした後に心窩部痛を訴え,この心窩部痛に五苓散が有効であった2症例を経験したので提示する。症例1では安中散,また,症例2では六君子湯が無効であった。さらに,夏季の冷飲食後に生じた心窩部痛に五苓散を用いた19症例をまとめて検討したところ,舌苔が白かつ腹診で心下痞鞕を認める場合に効果が高いと考えられた。五苓散の腹証としては心下振水音が有名であるが,心下痞鞕が有効な場合もある。今回,冷飲食を誘引とする心窩部痛,舌白苔,心下痞鞕の併存は五苓散投与の目標となる可能性が考えられた。
  • 小暮 敏明, 巽 武司, 岸 大次郎, 奥 裕子, 重田 哲哉
    2010 年 61 巻 5 号 p. 727-731
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/10/30
    ジャーナル フリー
    慢性疲労はプライマリーケアでよく遭遇する症候であり,器質的疾患や機能的な疾患によってもたらされる。器質的疾患では基礎疾患の制御によって疲労の改善を得られるが,慢性疲労症候群や気分変調性障害などに伴う易疲労の場合,治療に難渋するケースが少なくない。今回我々は,特発性慢性疲労(ICF)の患者に対して酸棗仁湯加黄耆麦門冬が奏効した症例を経験した。症例は,更年期以降,数年に渡って疲労を自覚し,近医では器質的な異常を指摘されず疲労が継続していた62歳女性である。いわゆるICFに分類される症例で不眠傾向を伴うことから,酸棗仁湯加黄耆麦門冬を投与した。8週間の投与で不眠と疲労が軽減し家事ができるようになった。ICFに対して酸棗仁湯は鑑別に挙げられてよい方剤と考えられた。
  • 矢野 博美, 田原 英一, 大竹 実, 大田 静香, 村井 政史, 岩永 淳, 久保田 正樹, 犬塚 央, 木村 豪雄, 栗山 一道, 三潴 ...
    2010 年 61 巻 5 号 p. 732-739
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/10/30
    ジャーナル フリー
    周期性好中球減少症に伴う難治性腹痛に対する漢方治療を以前本誌において報告した。本症例は腹痛の軽減のみならず好中球減少の周期も改善し非常に良好な経過であったが,4年7カ月ぶりに入院治療を行った。症例は51歳の男性。周期性好中球減少症と腹痛のために再入院した。大建中湯合附子粳米湯で治療を開始したが無効であった。漢方医学的所見では,著しい寒証に陥っていると診断し烏頭桂枝湯に転方し,大烏頭煎を併用した。烏頭桂枝湯の烏頭は漸増し,大烏頭煎は1日に5回投与した。烏頭剤による治療開始4日目に大烏頭煎の服用後に全身の著明な灼熱感とそれまでの性状とは異なる激しい腹痛を訴えた。しかしその後,食欲が出現し,腹痛も軽減し好中球数も改善した。大烏頭煎による瞑眩と考えた。
理論と論説
  • 三浦 於菟, 河野 吉成, 板倉 英俊, 田中 耕一郎, 植松 海雲, 奈良 和彦, 橋口 亮, 吉田 和裕, 桑名 一央, 塚田 心平, ...
    2010 年 61 巻 5 号 p. 740-745
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/10/30
    ジャーナル フリー
    盗汗治療代表的方剤の当帰六黄湯(李東垣『蘭室秘蔵』)の成立過程を構成生薬と各時代の盗汗病態理論より検討した。黄耆の配合は主に陽虚で出現という漢隋代盗汗理論,補血滋陰薬の生地黄・熟地黄・当帰の配合は陰虚という宋代盗汗理論,清熱薬の黄連・黄芩・黄柏の配合は陰虚の熱により津液が押し出されるという宋代盗汗理論に基く。後者は特に劉完素『黄帝素問宣明論方』中の盗汗治療方剤大金花丸の影響が大きい。本剤は各時代の盗汗学説の集大成のために高い有用性を備えたのであろう。医書の諸説より,本剤の適応病態や問題点を検討した。弱い熱証(『丹渓心法』),強い気虚証(『張氏医通』『丹渓心法』),強い陰虚証(『医学心悟』)を呈する盗汗病態には不適当との説。脾胃を損傷しやすい(『医方切用』)との指摘。自汗への応用も可能との説(『医学正伝』『景岳全書』)などがある。これらより本剤の適応は陰虚証と熱証がほぼ同様程度,気虚証はより軽度な病態であり,このような病態では自汗にも使用可能といえる。
招待講演
  • —日常診療の強化をめざして—
    唐澤 祥人
    2010 年 61 巻 5 号 p. 746-753
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/10/30
    ジャーナル フリー
    日本の医療が曲がり角に来ている。出生率の低下,高齢者の急増と介護に関わる諸問題が噴出している。地域医療を立て直していくには,医師と国民の意識改革が望まれる。医師には最新の臨床能力だけでなく,日常生活の中に医療がどのような役割にあるかを理解してほしい。我々は地域医療を見直し,その価値と意義を認識すべきであろう。
    超高齢社会においては,どのような立場の高齢者であろうと,介護の手が差し伸べられる地域社会を作って行く必要がある。科学技術の進歩に伴って,医療には大きな変化が起こりつつある。在宅医療にはハイテク化もみられる。病院医療も高度に進んだ内容の病院から一般の民間病院まで種々あるが,これらが連携して機能していける医療体制作りが望まれる。増加している女性医師がどのようにして生涯を通じて医療提供していけるかは,医師不足問題の突破口になるであろう。患者も医療提供側も共に生きて永らえていく時代である。国には大きな力を注いでくれることを期待する。
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