日本東洋医学雑誌
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64 巻, 4 号
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原著
  • 木村 容子, 田中 彰, 佐藤 弘
    2013 年 64 巻 4 号 p. 205-211
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/11/19
    ジャーナル フリー
    目的:当帰芍薬散と加味逍遙散が有効な冷えのタイプを検討した。
    研究デザイン:後ろ向きコホート研究。
    対象と方法:冷えを主訴とし,随証治療にて当帰芍薬散エキスまたは加味逍遙散エキスを1ヵ月以上投与した患者188名を対象とした。初診時にデータ登録された随伴症状や体質傾向など多岐にわたる62項目から,クロス表分析により冷えの治療効果(頻度および程度の改善)と関連の高い項目を選出し,さらに多変量解析により治療効果予測の最適モデルを解析した。
    結果:当帰芍薬散の有効な冷えは,腹部の冷え(オッズ比5.0),めまい(7.7),目のかすみ(16),のぼせ(5.6)を訴え,怒りっぽさ(0.11)や耳鳴のない(0.025)場合であった(p <0.001)。一方,加味逍遙散では全身の冷えはなく(0.099),発作性発汗があり(14),立ちくらみのない(0.21)ことが最適な効果予測因子となった(p <0.001)。加味逍遙散では四肢(AIC -8.64),特に,足の冷え(-2.23)と関連があった。
    結論:当帰芍薬散は腹部の冷え,加味逍遙散は全身の冷えがない場合に,四肢,特に足の冷えに有効だった。
臨床報告
  • 坪 敏仁, 西村 雅之, 橋場 英二, 大川 浩文, 石原 弘規, 廣田 和美
    2013 年 64 巻 4 号 p. 212-215
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/11/19
    ジャーナル フリー
    発熱は中枢神経障害に悪影響を与える。心停止後の中枢神経保護のため軽度低体温療法を施行し,施行後中枢性発熱を見た症例に黄連解毒湯を投与し,その体温に及ぼす作用を検討した。対象は7例で,低体温療法から復温後の発熱を認めた時点から,黄連解毒湯を胃チューブから計48回投与した。
    著効1例,有効5例,無効1例であった。体温低下は投与初期に著しく,最大低下体温は39.1 ± 0.7度から37.6 ± 0.7度と平均1.55 ± 0.7度であった(p <0.05)。しかし,すべての投与時の変化は37.7 ± 0.6度から37.5 ± 0.7度と平均0.35 ± 0.77度であり有意ではなかった。黄連解毒湯は軽度低体温療法後の中枢性発熱に対して,短期間の調節には試みてよい方法と思われた。
  • 中永 士師明
    2013 年 64 巻 4 号 p. 216-221
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/11/19
    ジャーナル フリー
    マムシ咬傷では皮下出血を伴う腫脹が多臓器障害に進展することがある。今回,柴苓湯が症状改善に寄与したと思われる2例を経験したので報告する。症例1は79歳,男性で,右第2趾をマムシに咬まれた。下腿腫脹が増大してきたため,柴苓湯を投与し,症状は改善した。症例2は68歳,男性で,左手示指をマムシに咬まれた。たこつぼ型心筋症を合併し,ICU 管理が必要となった。前胸部まで腫脹は拡大したが,柴苓湯を再開することで腫脹は軽減した。柴苓湯はマムシ咬傷の腫脹に応用できると考えられた。
  • 福田 知顕, 川鍋 伊晃, 及川 哲郎, 花輪 壽彦
    2013 年 64 巻 4 号 p. 222-226
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/11/19
    ジャーナル フリー
    片側顔面痙攣に対して大承気湯加茵蔯蒿が奏効した症例を経験したので報告する。症例は57歳女性。2年前から,左眼瞼攣縮や左下顎など顔面の痙攣が,緊張時に発作的に起こるようになった。脂肪肝,喘息の治療を目的として,X 年2月に当研究所を受診した。臍へ向かって堅く膨隆している腹を目標に,大承気湯を処方した。服用開始後,喘息発作は消失し,3ヵ月後には左顔面痙攣が減少した。7ヵ月後には肝障害に対して茵蔯蒿を加味した。人間ドックの検査結果を2年間追跡すると,本方投与後に体重が減少し,肝機能が改善していた。本症例の顔面痙攣は,左顔面の発作性不随意収縮であり,症状が片側性であったことから片側顔面痙攣と診断した。痙攣症状が改善したのは,大承気湯の筋弛緩・抗痙攣作用や抗不安作用によるものと考えた。
  • 吉野 鉄大, 堀場 裕子, 渡辺 賢治
    2013 年 64 巻 4 号 p. 227-230
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/11/19
    ジャーナル フリー
    症例は37歳の女性。半年前のオステオパシー施術後からの無月経を主訴に当院漢方クリニックを受診した。首から腰にかけての背部痛,頸椎・肩・手・膝・足関節のクリック,筋肉のこわばりを伴ったが,日常生活は送れていた。発病前の月経周期には異常なく,産婦人科,整形外科では異常所見を認めなかった。中間証,寒証で疼痛に伴う気うつによる症状と捉え,鳥薬順気散料去白姜蚕加附子(煎じ)を開始した。1ヵ月後に関節症状や冷えが軽快し,3ヵ月後に月経が再開した。烏薬順気散の原典にある婦人血風は,古典の記載から無月経と解釈しうる。漢方医学において,無月経に対する気うつの関与が指摘されてはいるが,一般的には血の症状と考えられ,補血薬や駆瘀血薬を用いることが多い。続発性無月経の病態には血の異常だけでなく,気の異常が密接に関係しており,気剤も治療の重要な選択肢となりうることが再確認された。
  • 寺澤 捷年, 横山 浩一, 小林 亨, 隅越 誠, 檜山 幸孝
    2013 年 64 巻 4 号 p. 231-233
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/11/19
    ジャーナル フリー
    67歳女性,2年前より特に誘因無く手掌と足蹠の火照りを自覚。その後,次第に劇しい疼痛(痛痒)を自覚するようになり,皮膚科からの紹介で受診。この病症を『金匱要略』の小建中湯の記述「四肢痠疼,手足煩熱」と考え,本方を与したところ,約8週間の経過で著効を得た。小建中湯に関する症例報告は多数有るが,この『金匱要略』の条文に該当する症例報告はない。『金匱要略』が確かな臨床観察によって記されたものであることを改めて認識した。
  • 石川 利博
    2013 年 64 巻 4 号 p. 234-242
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/11/19
    ジャーナル フリー
    漢方医学では「恐怖」は「腎」と密接な関係がある。故に,腎の障害に使用する六味丸が恐怖と関連のある精神疾患の症状に有効であると期待できる。筆者は六味丸が有効であった神経症の7例を経験した。3例は適応障害,2例は社会恐怖,1例は全般性不安障害,1例は心身症であった。3例は六味丸単独で有効であり,4例はエチゾラムや他の漢方方剤が必要であった。全例に腰膝酸軟,小腹不仁,尺部の弱脈のような腎虚を示す症候が存在した。全例に熱証の症候があり,6例に気虚の症候が存在した。さらに,症例では,六味丸は恐怖,不安や睡眠障害だけでなく,排尿障害,同時に存在する寒熱証,不正性器出血に有効であった。
論説
  • 寺澤 捷年
    2013 年 64 巻 4 号 p. 243-245
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/11/19
    ジャーナル フリー
    『傷寒論』の柴胡桂枝湯の条文にある「心下支結」については諸説があるが,今回,筆者はこれが胸骨剣状突起と臍の中間点(中脘)に認められる圧痛点との仮説を立てた。この圧痛が心下支結そのものであるかは今後の検討を待ちたいが,この兆候によって柴胡桂枝湯を投与したところ著効を得たことも事実である。奥田謙藏は「証とは疾病の証拠なり,(中略)これを薬方に質すの謂なり」と記している。すなわち,如何様に理路整然として薬方を選択しても実効が挙がらなければ,其の「証」では無かったことになる。この心下支結と筆者が称するものに随って病症が改善した事実は「証に質して」実効が挙がったものであり,一定程度の意義があるものと考える。
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