日本東洋医学雑誌
Online ISSN : 1882-756X
Print ISSN : 0287-4857
ISSN-L : 0287-4857
71 巻, 4 号
選択された号の論文の15件中1~15を表示しています
原著
  • 前田 絢子, 吉野 鉄大, 片山 琴絵, 堀場 裕子, 引網 宏彰, 嶋田 豊, 並木 隆雄, 田原 英一, 南澤 潔, 村松 慎一, 山口 ...
    原稿種別: 原著
    2020 年 71 巻 4 号 p. 315-325
    発行日: 2020年
    公開日: 2022/03/11
    ジャーナル フリー

    [目的]自動問診システムを用いて得た患者問診結果から医師の虚実診断を予測するモデルを構築したが,既報 のモデルは中間証を予測できなかった。本研究では,中間証を含む虚実予測モデルを構築し施設間でカットオフ値を比較した。

    [方法]2012年1月—2015年2月に6施設を初めて受診し研究に同意した患者を対象とした。データ欠損,20歳 未満,問診項目回答数が20項目未満,対象でない証の患者を除外した。ランダムフォレストを用いて,6施設統合データより抽出した学習データから虚実予測モデルを構築した。

    [結果]施設毎に学習データを除いたデータから虚実予測値を算出した。医師の診断結果をもとに受信者動作特性曲線からカットオフ値を求めたところ,全施設の虚実予測値のカットオフ値は虚証と中間証が0.5以下,実証と中間証が0.5以上であった。

    [考察]虚実予測モデルより計算した全施設のカットオフ値は狭い範囲に収まっていた。

臨床報告
  • 金子 達, 濱口 眞輔, 木村 廣三, 木村 いはね, 小宮山 櫻子
    原稿種別: 臨床報告
    2020 年 71 巻 4 号 p. 326-332
    発行日: 2020年
    公開日: 2022/03/11
    ジャーナル フリー

    両耳高度難聴の高齢者で,補聴器装用のみではコミュニケーションの向上が見られないことがある。今回は漢方治療を併用することで,聴力改善とともにコミュニケーションの改善が見られた。症例は82歳男性で,主訴は家族と会話によるコミュニケーションが難しくなったことであった。西洋医学的病名は両耳の高度感音難聴であった。当初は苓桂朮甘湯,後に牛車腎気丸,その後両者の合方で改善を見た。患者の訴えは純音聴力検査にも現れるが,語音聴力検査,特に最高語音明瞭度の増減で,より訴えに即した変化を見ることができた。今後,語音聴力検査(最高語音明瞭度)も漢方治療の効果判定に応用できると考えた。

  • 福嶋 裕造, 福嶋 寛子, 藤田 良介, 宮川 秀文, 橋本 篤徳, 板阪 和雅
    原稿種別: 臨床報告
    2020 年 71 巻 4 号 p. 333-337
    発行日: 2020年
    公開日: 2022/03/11
    ジャーナル フリー

    営衛不和と診断した盗汗の2症例について漢方薬を投与して有効であった。症例1は64歳男性で主訴は盗汗と発熱であった。症例2は78歳男性で主訴は盗汗と感冒症状であった。症例1は柴胡桂枝湯を投与して速やかに症状が改善したが,症例2は当初一般的な風邪薬や柴胡桂枝湯を投与したが改善せず,桂枝湯を投与して速やかに症状が改善した。盗汗,感冒症状等の症状に対して営衛不和と診断して漢方治療が奏効した。営衛不和について各文献の様々な解釈について検討した。

  • 福嶋 裕造, 福嶋 寛子, 藤田 良介, 宮川 秀文, 板阪 和雅, 中島 智子
    原稿種別: 臨床報告
    2020 年 71 巻 4 号 p. 338-343
    発行日: 2020年
    公開日: 2022/03/11
    ジャーナル フリー

    摂食不良は高齢者にとって生命を脅かす大きな問題である。今回,摂食不良の患者に対して麦門冬湯を胃陰虚に対して使用して有効であった。症例は91歳女性であり,食事量が少ないため治療を希望した。漢方医学的診察で胃陰虚による摂食不良と診断して麦門冬湯を投与して食事量の増加,体重の増加が得られた。摂食不良に対しての漢方治療は六君子湯をはじめ様々な漢方薬が使用されるが,一般的には咳嗽などの呼吸器疾患に用いられる麦門冬湯が有効であった。胃陰虚があれば摂食不良に対して非常に有効な薬剤と考えられた。

  • 山崎 一郎, 諸橋 弘子, 笛木 司, 犬飼 賢也, 柳瀬 徹
    原稿種別: 臨床報告
    2020 年 71 巻 4 号 p. 344-351
    発行日: 2020年
    公開日: 2022/03/11
    ジャーナル フリー

    血の道症とは,妊娠,更年期など女性のホルモンの変動に伴って現れる精神神経症状や身体症状のことである。 これまで,治療開始後2年以内の報告が多くみられていた。今回,漢方治療が7年に渡り奏効した1例を報告する。 症例は43才女性。カンジダ性湿疹,動悸,頭痛を訴えた。血虚,瘀血,水毒の状態と診断し,外用抗真菌剤,当帰芍薬散と炙甘草湯で治療を開始した。頭痛と動悸は軽減したが,冷えの悪化と皮疹を訴え当帰四逆加呉茱萸生姜湯,桂枝茯苓丸を投与した。けれども湿疹,頭重感,浮腫,自己判断による体重減少性無月経など多彩な症状を認めた。 そこで西洋医学的治療に加え当帰芍薬散を再度処方したところ月経は再来し,湿疹,動悸,頭痛等も改善した。しかし,甲状腺機能亢進症を併発した。長期に渡る血の道症では,甲状腺機能異常などの器質的疾患に留意し,冷え,瘀血,血虚と水毒があれば当帰芍薬散の処方を考慮すべきと思われた。

  • 福田 功, 中田 英之, 草鹿砥 宗隆, 小菅 孝明
    原稿種別: 臨床報告
    2020 年 71 巻 4 号 p. 352-361
    発行日: 2020年
    公開日: 2022/03/11
    ジャーナル フリー

    木防已湯は木防已,石膏,桂枝,人参の4味で構成される即効性が期待される方剤である。出典の金匱要略を現代的に解釈すると肺水腫に適応があり,発症早期に投薬すれば挿管管理を回避でき患者のQOL を向上できる可能性がある。

    今回産褥期発症の肺水腫症例において木防已湯により挿管を回避し得た10症例を経験した。

    全例呼吸困難を訴え,湿性ラ音を聴取,胸部X線では肺野の透過性低下と肺血管陰影の増強,心胸郭比の増大,肋骨横隔膜角鈍化,さらに漢方医学的に心下痞鞕と下肢,足背の浮腫所見から肺水腫と診断した。診断後木防已湯を投与し,6例でNRS(numerical rating scale)で7→4,心胸郭比は60→40%と減少し,肺野所見,ラ音,肋骨横隔膜角も改善した。木防已湯加猪苓湯,木防已湯加猪苓湯加調胃承気湯を投与した3例も同様に改善した。 木防已湯とその加味方は産褥期肺水腫の呼吸管理に有用と考えられた。

  • 福原 慎也, 千福 貞博
    原稿種別: 臨床報告
    2020 年 71 巻 4 号 p. 362-367
    発行日: 2020年
    公開日: 2022/03/11
    ジャーナル フリー

    奔豚病と捉えたRestless legs syndrome(以下,RLS と略す)に呉茱萸湯と苓桂朮甘湯の併用が奏功した2例を経験した。症例1は88歳女性。76歳時に冠動脈バイパス術を受けて以降,RLS を自覚するようになった。腹診では心下痞鞕,臍上悸を認めた。腹診所見と,虚証,冷え,気虚,気鬱より肘後備急方奔豚湯証と考え,呉茱萸湯と苓桂朮甘湯を併用した。痞えは消失し,RLS も自覚しなくなった。症例2は62歳女性。54歳時に左乳がんのため手術を受けた。治療後,就寝時に RLS を自覚するようになった。腹診では心下痞鞕,臍上悸,小腹不仁を認めた。 やや虚証,冷えのぼせがあり,気虚,気鬱より肘後備急方奔豚湯証と考え,呉茱萸湯と苓桂朮甘湯を併用した。痞えは消失し RLS も軽減した。侵襲的治療による精神的負荷後に出現した RLS に対し呉茱萸湯と苓桂朮甘湯の併用は有用な選択肢と考える。

  • 竹田 眞, 吉田 未央
    原稿種別: 臨床報告
    2020 年 71 巻 4 号 p. 368-370
    発行日: 2020年
    公開日: 2022/03/11
    ジャーナル フリー

    難治性の眼痛の症例があり,治療に苦慮することがある。故山本省吾氏は原因不明の眼痛に対して多くの漢方処方で治療している。その中で類似の清熱剤である黄連解毒湯と半夏瀉心湯の治験は有るものの1),黄連湯での治験は挙げられてはいない。又いくつかの他の治験集にも黄連湯による眼痛の治験例は探し得なかった,今回原因不明の難治性眼痛の2症例に黄連湯を投与したところ著効を呈したので報告する。症例1は白内障手術を契機に原因不明の眼痛が出現し,種々の治療が無効であったもので,当院でのハリ治療が唯一有効であったものである。症例2は特に誘因なく発症した原因不明の眼痛で有り,当院でのハリ治療で疼痛は増強した。両例に共通した所見は上腹部の他覚的冷感であった。眼痛を上熱,上腹部の冷感を中寒と捉え,上熱中寒と判断して黄連湯を投与した。原因不明の眼痛の治療薬として黄連湯も挙げて良いと考えた。

  • 鮎川 文夫, 金本 彩恵, 松本 康男, 杉田 公, 菊池 朗, 塩路 和彦, 須永 隆夫
    原稿種別: 臨床報告
    2020 年 71 巻 4 号 p. 371-377
    発行日: 2020年
    公開日: 2022/03/11
    ジャーナル フリー

    【緒言】放射線性直腸炎に対し漢方治療を行い良好な経過を辿った症例を経験したので報告する。【症例】57歳女性,子宮体癌術後再発に対する組織内照射後。主訴:肛門部痛。現病歴:腟前壁再発に対する組織内照射の9ヵ月後,肛門痛が出現し,臨床および検査から放射線直腸炎と診断された。粗大潰瘍のため直腸腟瘻形成が危惧され人工肛門造設も提示したが漢方治療を希望された。【経過】瘀血があり桂枝茯苓丸加薏苡仁で治療開始した後,肛門痛増強と出血があり紫雲膏注腸を開始した。下血が増加し芎帰膠艾湯,酸化マグネシウムを追加した。直腸潰瘍への紫雲膏塗布を開始後,次第に肛門部痛と下血が改善しMRI,内視鏡所見も改善した。【考察】本症例では紫雲膏の注腸/塗布開始から症状が改善しており,紫雲膏が有効であった。放射線直腸炎に対する治療の中で組織修復能力を有する治療は少なく,修復促進能力を有する漢方治療は検討に値する。

  • 小路 哲生
    原稿種別: 臨床報告
    2020 年 71 巻 4 号 p. 378-383
    発行日: 2020年
    公開日: 2022/03/11
    ジャーナル フリー

    我々は真武湯と防已黄耆湯のエキス剤併用投与に慢性腎臓病(CKD)の進行抑制効果があることを報告したが,今回更に60ヵ月の観察期間について検討した。対象は,香川県済生会病院腎臓内科に通院中の CKD 患者24例(男性14例,女性10例,平均年齢75.9歳)。真武湯と防已黄耆湯のエキス顆粒5gずつを分2朝夕食前で併用処方した。 投与前,投与後12ヵ月毎に60ヵ月まで臨床検査値を検討した。内服自己中断などによる中止例がみられたが,10例は60ヵ月の内服が可能であった。血清クレアチニン値は,1.78mg/dL から60ヵ月後には1.75mg/dL,推算糸球体濾過量は30.20mL/min から34.39mL/min と,悪化を認めず,生活の安定した7例では投与前値より有意な改善を認めた。これらより腎硬化症と思われる CKD に対する真武湯と防已黄耆湯の長期併用投与に腎不全進行抑制効果があると考えられた。

  • 藤田 昌弘, 新谷 卓弘, 伊添 千寿, 西本 隆
    原稿種別: 臨床報告
    2020 年 71 巻 4 号 p. 384-389
    発行日: 2020年
    公開日: 2022/03/11
    ジャーナル フリー

    3歳の女児。X 年8月左側頭部に円形脱毛が出現し,10月には頭頂部にまで広がった。10月から西洋薬の治療をうけたが改善せず,11月に漢方治療を希望して来院された。抑肝散や四物湯,そして十全大補湯を服用したが効果は不十分であった。東洋医学的所見としては,顔色はやや白く,脈候は細,舌質は淡で苔は少なく,寝汗を認めていた。最終的に肝血虚を伴った腎陰虚が病態の中心であると診断し,六味丸4gに当帰飲子2gと枸杞子2gを処方した。約1ヵ月後には頭部全体に発毛がみられ,その後3ヵ月間服薬を継続したが再脱毛を認めなかったため,治療を終了とした。
    中医学において,円形脱毛症は血熱型,血瘀型,陰血虚型,気血両虚型に分けられる。本症例では陰血虚型の脱毛と診断し,六味丸加法を選択した。六味丸は,腎陰虚を原因とする様々な症状に用いられるが,小児の難治性円形脱毛症に関して六味丸加法による効果の可能性が示唆された。

  • 鈴木 健之, 関 智史, 川田 哲也, 伊東 克郎
    原稿種別: 臨床報告
    2020 年 71 巻 4 号 p. 390-393
    発行日: 2020年
    公開日: 2022/03/11
    ジャーナル フリー

    75歳女性。悪心と食欲不振を主訴に受診した。胃悪性リンパ腫と診断された。R‐CHOP 療法6コースにより完全寛解が得られ,地固め照射を行うことになった。胃に放射線治療を行う場合はEmpty stomach の状態で行うのが望ましく,照射前の食事は抜く必要がある。本例では,胃前庭部に瘢痕狭窄が残っており,食事抜きで撮像した治療計画CT にて,Full stomach の状態であった。器質的通過障害によるものでやむなしと判断し,Full stomach の状態で治療計画を行い,放射線治療を開始した。しかし放射線治療開始当日から半夏瀉心湯の投与を試みたところ,胃部不快感は速やかに改善した。CT を再度施行し,胃容積の減量を確認できた。本例は,胃の瘢痕狭窄に,機能性ディスペプシアも合併していたと思われる。半夏瀉心湯の胃排出機能促進作用を,CT 画像によって示すことができた。

調査報告
  • 牧野 利明, 関根 麻理子, 田中 耕一郎, 嶋田 沙織, 地野 充時, 田原 英一
    原稿種別: 調査報告
    2020 年 71 巻 4 号 p. 394-401
    発行日: 2020年
    公開日: 2022/03/11
    ジャーナル フリー

    漢方製剤を使用する際の医療安全を図るための啓発活動一つとして,漢方製剤におけるヒヤリ・ハット事例を集め,分析した。公益財団法人日本医療機能評価機構が2009年から19年まで収集したヒヤリ・ハット事例のうち,漢方製剤が関係する2,166件を解析した。その結果,薬剤師による疑義照会時に処方箋に記載された薬剤名の混同,用量,用法の誤りが判明したケースや,副作用発症を予防した事例など,医薬分業が医療事故防止に一定の役割を果たしていることが明らかになった。同時に,薬剤師の側での調剤ミスとして,薬剤名,用量の誤りも多く報告されていた。実際に混同が生じた類似した名称を持つ漢方製剤名について,本稿にまとめた。

短報
論説
  • 小池 宙, 松岡 尚則, 笛木 司, 牧野 利明
    原稿種別: 論説
    2020 年 71 巻 4 号 p. 406-417
    発行日: 2020年
    公開日: 2022/03/11
    ジャーナル フリー

    [緒言]昭和時代の漢方家,荒木性次や大塚敬節は,新鮮なショウガ根茎を「生姜」,湯通し等の修治を経たものも含めて乾燥させたショウガ根茎を「乾姜」としていた。しかし,現代の漢方では,修治をせずに乾燥させたショウガ根茎を「生姜」,蒸すという修治を経た乾燥ショウガ根茎を「乾姜」とすることが多い。本研究は,この変遷の経緯について明らかにすることを目的とした。[方法]明治以降に版を重ねている歴代の『日本薬局方』の他,「生姜」と「乾姜」の定義に言及している文献を調査した。[結果]昭和までの漢方では,「生姜」と「乾姜」は,それぞれ「新鮮ショウガ根茎」と「修治されていないものも修治されているものも含めた乾燥ショウガ根茎」であった が,平成以降はそれぞれ「乾燥以外に加工されていない乾燥ショウガ根茎」(乾生姜)と「修治された乾燥ショウガ根茎」に変わり,新鮮ショウガ根茎は「ひねショウガ」と別に呼ばれるようになった。

feedback
Top