日本東洋医学雑誌
Online ISSN : 1882-756X
Print ISSN : 0287-4857
ISSN-L : 0287-4857
最新号
選択された号の論文の8件中1~8を表示しています
総説
  • 中永 士師明
    原稿種別: 総説
    2024 年 75 巻 3 号 p. 193-203
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/12/08
    ジャーナル フリー

    急性期の漢方治療は以下の3つを目的に用いる。1)西洋医学の上乗せ効果。炎症性腫脹では,越婢加朮湯を併用する。破傷風では芍薬甘草湯を併用することで全身性筋痙攣を制御する。五苓散は,頭痛,めまい,動揺病,胸水,腹水などの水滞に対して,水のバランスを整えるべく臨床応用する。2)漢方治療が最も効果を発揮。芍薬甘草湯は有痛性筋痙攣に対して速効性がある。皮下血腫を改善させる治打撲一方は駆瘀血作用を活用する。腸管蠕動を促進させる大建中湯は麻痺性イレウスに応用できる。3)特殊な状況下で西洋薬の代替として使用。被災地支援において,限定された医療資源の中では,漢方治療も活用すべきである。以上,ひとつの医療体系にこだわらずに西洋医学や漢方医学など多種多様の医療の長所を柔軟に活用して,患者の健康増進に役立てることが急性期においても肝要である。

臨床報告
  • 村上 永尚, 高橋 正年, 日笠 久美
    原稿種別: 臨床報告
    2024 年 75 巻 3 号 p. 204-208
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/12/08
    ジャーナル フリー

    76歳男性。右三叉神経第一枝領域の帯状疱疹による皮疹出現3週間後より眼瞼下垂,流涙,眼瞼結膜充血を伴う激しい頭痛発作が連日何度も出現。頭痛の性状からは SUNCT(short-lasting unilateral neuralgia-like headache attacks with conjunctival injection and tearing)様顔面痛を呈した。激しい頭痛に対して各種鎮痛薬や局所ブロックを用いたが治療抵抗性であった。症状緩和のため,漢方薬での代替治療を希望された。袪風湿寒,止痛,後頸部筋の弛緩の効果を期待し,葛根湯と桂枝加朮附湯の併用(葛根加朮附湯の方意)を追加したところ,劇的に症状が改善した。寒冷刺激による症状の増悪を認め,抗てんかん薬や疼痛管理の薬剤による傾眠などの副作用のために使用が困難な場合,葛根加朮附湯は帯状疱疹関連 SUNCT 様顔面痛に対して有用である。

  • 鮎川 文夫, 須永 隆夫, 斎藤 俊弘, 小林 和博
    原稿種別: 臨床報告
    2024 年 75 巻 3 号 p. 209-216
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/12/08
    ジャーナル フリー

    前立腺癌に対する放射線治療は強度変調放射線治療(IMRT),画像誘導放射線治療,小線源治療,粒子線治療等が普及し,手術と同等の治療選択肢となっている。前立腺癌の根治照射後,急性期の下部尿路症状は照射終了後に軽快することが多いが,晩期障害として数ヶ月~数年後に症状が再燃し,西洋薬に治療抵抗性を示すこともある。前立腺癌根治照射後の急性 / 晩期放射線障害として生じた下部尿路症状に竜胆瀉肝湯が有効であった3症例を報告する。1例目は密封小線源永久挿入療法の施行後,1年5ヶ月後に生じた晩期放射線性前立腺炎,尿道炎による下部尿路症状の症例。2例目は IMRT 施行後の急性放射線障害による下部尿路症状,3例目は IMRT 施行後5年以上経過してから生じた晩期放射線障害による下部尿路症状の症例である。これらの症例では西洋薬を使用しても症状コントロールが不良であり竜胆瀉肝湯が有効であった。

  • 辻 正徳
    原稿種別: 臨床報告
    2024 年 75 巻 3 号 p. 217-224
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/12/08
    ジャーナル フリー

    急性白血病の髄膜浸潤に合併し,血小板輸血が無効の硬膜外・硬膜下血腫に対して加味帰脾湯の併用が奏効に寄与した一症例を経験した。症例は44歳女性で,混合表現型急性白血病の第一再発期に対する化学療法の骨髄抑制期に,左顔面神経麻痺にて髄膜浸潤を発症し,頭部 MRI 画像上は髄膜肥厚と硬膜外・硬膜下血腫を認めた。血小板数は低値も著明な凝固異常を認めず,頻回の血小板輸血を行いながら髄腔内注射・全脳照射を行うも頭蓋内血腫が悪化したため,髄腔内注射・全脳照射を中止せざるを得なかった。そこで,出血の制御目的に随証治療として加味帰脾湯の投与を併用し,血腫の縮小傾向を認めたため,髄腔内注射を再開し,髄膜浸潤は改善した。白血病の中枢神経病変の制御がついたため,その後の同種臍帯血移植に繋げることが可能となった。

    治療抵抗性の頭蓋内血腫に対しては,漢方方剤の投与も治療の選択肢の一つであると考えられた。

  • 篁 武郎
    原稿種別: 臨床報告
    2024 年 75 巻 3 号 p. 225-232
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/12/08
    ジャーナル フリー

    気虚発熱と診断して補中益気湯で治療した2症例を報告する。症例1は18歳女性。学校での人間関係において怒りや恐怖体験があり,それを機に頭痛や下痢,心窩部痛を伴う37度台の発熱がほぼ毎日生じるようになった。症例2は14歳男性。サッカー部での激しい練習や人間関係のストレスを機に,しばしば37度台の発熱を伴う両側頚部および腋窩のリンパ節炎を呈するようになった。2症例ともに他院での西洋医学的検査では原因が特定されなかったが,東洋医学的に両症例を気虚発熱と診断し,補中益気湯を主体とした治療により症状の軽快をみた。一般的に気虚発熱は脾気虚による気陥が原因とされている。今回,脾気虚の主症状である食欲不振は症例1には見られたが,症例2の食欲は保たれていた。食欲が保たれる脾気虚の提唱がある一方で,気虚において食欲の有無が脾気虚と肝気虚との鑑別点であるとの報告もあり,症例2においては肝気虚の可能性も示唆された。

調査報告
  • 福嶋 裕造, 福嶋 寛子, 菊本 修, 和田 健太朗, 石田 亮子, 中村 裕二
    原稿種別: 調査報告
    2024 年 75 巻 3 号 p. 233-250
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/12/08
    ジャーナル フリー

    吉益東洞は江戸期に活躍した古方派の漢方医で,日本漢方の原点を作った人物として現在でもその功績について評価されている。また,吉益東洞の長男である吉益南涯も,東洞の医術を継承して更に発展させた人物としてよく知られている。以後もその後裔は医家として活躍してきた。吉益東洞の第5代後裔の吉益四峰が現在の鳥取県倉吉市津原(つわら)の地で医業を営み,その子息の吉益良蔵も同地にて医業を営んだ。今回我々は,吉益医院の建物が現存し,現地には吉益鉄太郎(四峰)・雄太郎・良蔵・為則・輝夫の墓碑があることを確認した。鳥取は,現在も日本において医家として受け継がれる吉益家のルーツの1つであり,吉益東洞を語る上で鳥取県倉吉市津原は重要な地である。今回,鳥取吉益家に関して新資料に基づいて検討したので報告する。

短報
  • 高木 愛理, 邱 士韡, 鈴木 貴世, 石黒 美由希, 山田 優子, 山口 拓洋, 高山 真
    原稿種別: 短報
    2024 年 75 巻 3 号 p. 251-256
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/12/08
    ジャーナル フリー

    2023年6月に開催された第73回日本東洋医学会学術総会,学会特別企画にて,新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のエビデンス構築に関する活動報告「COVID-19学会主導研究により得られた経験と今後の展開」が開催された。本企画の一つとして,東北大学病院臨床試験データセンターにて支援した,軽症・中等症COVID-19患者の急性期症状に対する漢方薬治療効果を検討する観察研究および臨床試験における評価と統計解析について発表した。本稿においては,発表内容より,これらの観察研究および臨床試験にどのように取り組んだのか,研究計画書の作成や項目選択,解析方法について,経験談も交えつつ統計家の観点よりまとめた。

フリーコミュニケーション
  • 辞書編纂委員会(2016.6-2020.6)および漢方医学書籍編纂委員会報告(2020.6-2023.6)
    並木 隆雄, 新井 信, 天野 陽介, 及川 哲郎
    原稿種別: フリーコミュニケーション
    2024 年 75 巻 3 号 p. 257-268
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/12/08
    ジャーナル フリー

    近年,世界保健機構(WHO)の国際疾病分類第11回改訂(ICD-11)に伝統医学の章が入り,また東アジア伝統医学標準化が世界標準化機構(ISO)などで中国を中心として進められている。漢方医学も,海外に対しての発信が重要視されている。このような流れの中で,日本東洋医学会の辞書編纂委員会(2016.6-2020.6)およびその後継の漢方医学書籍編纂委員会(2020.6-2023.6)は ICD-11の伝統医学の章に準拠した『日英対照 漢方用語辞書(基本用語)』(2020年)と『漢方医学大全』(2022年)の発行を行った。後者の発行に際しては本会の『入門漢方医学』,(2002年)や厚生労働省科学研究費補助金事業で作成された『日本伝統医学テキスト』(2012年)という基本の書籍が有用であった。本委員会の次段階は辞書の増補改訂と英訳教科書の発行で,海外に向けて漢方医学をより強力に発信することである。

feedback
Top