人間と環境
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最新号
人間と環境 第47巻第1号通巻124号
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原著
  • 田中 俊徳, 蕭 閎偉
    2021 年 47 巻 1 号 p. 2-15
    発行日: 2021/02/10
    公開日: 2021/08/10
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    本研究は,日本の国立公園における登山道の適正利用に関する課題を踏まえ,台湾の玉山国立公園にある玉山登山道を対象とした利用ルールの実態解明と実施構造に関する分析を行った。台湾の国立公園制度を対象としたのは,日本と同様の指定要件(地域制)を採用しているため,比較参照の価値が高いためである。研究手法として,文献調査や統計解析に加え,台湾の国立公園を所管する内政部営建署国立公園組に対する聞取り調査,玉山国立公園管理処に対する複数回に及ぶ質問票調査,玉山登山の許可申請から実際の登山を通じた参与観察を用いた。

    調査から次の点が明らかとなった。第一に,玉山では1日200人(主要ルート116人)を上限とした入域許可制を採用しており,外国人と台湾人に対して異なる2つの許可申請手法を用意している。外国人の場合,登山予定日の4カ月前から35日前まで「先着順」(24人/日)による許可申請が可能であり,台湾人(先着に漏れた外国人を含む)は,登山予定日の2カ月前から30日前までの申請による「抽選制」(92人/日)が用いられている。申請は,中国語に加え,英語と日本語で実施されており,許可業務のために5名の職員が雇用され,人件費で約1,360万円,オンライン申請のためのウェブサイトの維持管理費に年間約550万円,計約1,900万円/年が費やされている。申請料や事前講習にかかる費用は無料で,すべて公費で賄われており,受益者負担と許可業務の民間委託を前提としている日本の国立公園と異なることが明らかとなった。

    次に,山林や登山道の規制/緩和にかかる関連法規及び利害関係者について同定を行った結果,林務局や警政署等の中央省庁はもとより,台中市や台南県など幅広い地方自治体が包含されることが明らかとなった。これは日本と同様,地域制国立公園の特徴である。一方,日本で顕在化している省庁間の政策矛盾は確認されず,省庁間調整が円滑に行われていることが明らかとなった。モニタリングについては,国立公園管理処に加え,国立公園警察隊,パークボランティアが協力して巡視活動等を行っており,許可申請関係だけでも処分数が年平均で約30.75件と,日本と比して極めて大きいことが明らかとなった。

    最後に,登山道の利用ルールと実施構造の分析から導かれる台湾の国立公園の特徴として,低い取引費用と豊富な行政資源が判明し,先行研究で指摘されている「高い取引費用と脆弱な行政資源」を特徴とする日本の国立公園との顕著な差が明らかとなった。

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