本稿は、音楽を創造する過程で「自己・他者・環境についての意識=覚識」が喚起され、高められ、拡大するような活動として創出した「家族ラップ」の構造について考察することを目的としたものである。
まず、音楽療法家のBoxill, E.H.(1985)の「覚識の連続体」について確認した上で、ウィリアムズ症候群の家族支援の技法として開発した家族ラップから典型的な3例を取り上げ、その特徴について概観した。
若者文化であるラップをイメージした活動形態が内発的動機づけとなり、創造過程においては、家族による〈かたり〉が促進された。家族で〈かたる〉行為と、声を出して〈うたう〉〈となえる〉行為との往還により、3作品ともアイデンティティに関わる新たな気づきが生まれていった。坂部の言語行為の諸相に基づき、〈かたる〉〈うたう〉〈となえる〉行為の関係を検討した結果、作品における気づきは、「歌う」行為ではなく「チャンティング=詠唱する」行為だからこそ引き出されたことが示唆された。
従前の研究の対象は、主として重度の発達障害児・者であり、音楽によって「内部領域=身体の気づき」や「外部領域=対象や環境の気づき」を喚起することは可能であったが、本研究では、象徴言語の発達に依存し、愛着対象との関わりが絶対的とされる「中間領域の気づき=思考、想像、判断など」に焦点を当てた活動を開発し、その記述を共有することを可能にした。また、言語発達に関連する第7染色体の微細欠失を起因とするウィリアムズ症候群の支援技法としての有用性も確認することができた。
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