抗菌薬の開発は20世紀の医学に革命をもたらし,多くの感染症を治療可能としたが,その使用拡大と並行して薬剤耐性(antimicrobial resistance:AMR)が出現・拡大してきた.本稿では,日本におけるAMRの歴史的変遷を,抗菌薬開発の黎明期から21世紀の公衆衛生課題に至るまで概説した.サルファ剤やペニシリン導入直後から耐性菌が報告され,1950年代~1960年代にはR因子の発見など,日本発の重要な科学的貢献がなされた.その後,methicillin-resistant Staphylococcus aureusやextended spectrum β-lactamase産生菌,カルバペネマーゼ産生菌など耐性機序は高度化・多様化し,院内感染対策や抗菌薬適正使用の重要性が強く認識されるようになった.2000年代以降は,多剤耐性グラム陰性菌の拡大,市中および地域レベルでの伝播,さらに動物・環境を含むワンヘルスの視点が不可欠な課題となっている.国際的な危機意識の高まりを受け,日本でもAMR対策アクションプランが策定され一定の成果を上げているが,耐性菌による疾病負荷は依然として大きい.AMRはサイレントパンデミックとも称され,医療の持続可能性を脅かす公衆衛生上の重要課題であり,今後も分野横断的かつ継続的な取り組みが求められる.
重症マラリアは生命の危険をはらむことから,主に注射薬を用いた迅速な臨床対応が求められる.長い間マラリア治療の中心はキノリン系抗マラリア薬であり,重症マラリアに対してもキニーネ,キナクリン,クロロキンなどの注射薬が使われた.なかでもキニーネの使用は最も古く,薬剤耐性の進行が緩やかであることから,比較的最近まで使われた.クロロキンも開発当時期待されたが,キニーネより早く耐性が進行し,ほとんど使われなくなった.複合葉酸代謝拮抗薬の注射薬の効果は限定的であった.1977年に中国のマラリア対策プロジェクトの成果としてアーテミシニンの開発が発表されたが,まもなくその誘導体が開発された.それらは流行国で使われ始め,キニーネとの大規模ランダム化比較試験により致死率は有意に低く,安全性でも優れていることが示された.ただし非流行国(多くは先進国)では,中国製アーテスネートがGMP非準拠であることによる警戒感もあった.しかしそれらの国々でも,未承認薬使用制度などを用いて徐々に使われ始め,重症マラリアに対する効果はキニーネより優れており,安全性についても,遅発性溶血性貧血を別にすればキニーネより優れているとされ,第一選択薬の地位を確保した.今後,アーテミシニン系薬に対する耐性獲得を防ぐことが大変重要となる.また重症マラリア治療薬の推移を辿ることは,未承認薬使用の問題について示唆を与えるものであった.
2019年12月中国で発生したCOVID-19は世界中に拡散し,その後日本国内でも多数の感染者と死亡者が報告された.海外ではロックダウンが行われたが,国内では不要不急の外出,帰省,旅行の自粛要請と入国制限がおこなわれた.不要不急の外出の自粛は有効だったとの報告があるが,宿泊を伴う移動の自粛と入国制限が有効だったかは不明である.
今回我々は都道府県ごとの人口10万人あたりのCOVID-19新規陽性者数と宿泊施設を利用した日本人または外国人延べ宿泊者数との相関関係を調べる生態学的研究を行った.その結果新規陽性者数は日本人延べ宿泊者数と有意な正の相関関係を認めなかったが,外国人延べ宿泊者数と有意な正の相関関係を認めた.しかしながら,外国人延べ宿泊者数が特に多かった都道府県を除外すると有意な正の相関関係を認めなかった.宿泊施設以外の延べ宿白者数が無視出来る程少なく,殆ど全ての日本人宿泊者を日本国内居住者であり且つ殆ど全ての外国人宿泊者を海外からの旅行者であったと仮定すると,宿泊を伴う移動の自粛は不要であった可能性があり,外国人の入国制限は必要且つ有効な対策だった可能性があると考えられる.
COVID-19の脅威は小さくなっているが将来のパンデミックのためこれまで行われてきたCOVID-19対策を評価することは必要である.
From April 2024 to September 2025, a 114-bed regional hospital without a full-time infectious diseases (ID) physician received monthly on-site or online support from a young ID physician. The interventions by the ID physician included monitoring of sanitizing alcohol usage, establishment of infection control committees and manuals, review of surveillance results and feedback, and introduction of contact precautions. Following the interventions, the usage of sanitizing alcohol increased by 2.7-fold as compared with that in the previous year, reflecting improved compliance with hand hygiene practices. Infection control infrastructure, staff education, and regular reviews of the results of surveillance were successfully established and sustained. Consistent with these, the isolation rate of MRSA decreased from 7.2% to 3.4%. Thus, monthly support received from a young ID physician effectively enhanced the infection control level and potentially reduced the isolation rates of antimicrobial-resistant pathogens at the hospital, suggesting use of such support as a feasible and effective model for small- to medium-sized regional hospitals with limited infection control resources.