われわれは国内感染したエルトール型コレラ菌感染の症例を経験し, その環境汚染調査を行ったので, その結果について報告する. 患者は宝塚市在住の56歳男性で農業を営んでいる. 家族歴には特記すべき事項なく, 本人ならびに家族を含め親交のあった人々には渡航歴はない. 現病歴としては1981年9月1日昼食に冷凍食品 (輸入冷凍エビを含む) を摂取し2日夜中より口区吐, 下痢, 心窩部痛, 腓腹筋落痛のため某病院に入院, 虫垂炎と診断され手術を受けた. しかし, 症状は軽減せず乏尿となり, 精査により疑似コレラ患者として隔離, 検便の結果真性コレラと判明した. 血液は濃縮, 赤血球, 白血球とも増加, 下痢便は米のとぎ汁様に白濁して無臭, 固形物はわずかで1日排便量は数
lに達した. 静脈内輸液およびホスタサイクリン, ペントシリンを投与し第8病日頃より全身状態は改善され第21病日に隔離を解除した. 入院時コレラ菌の産生する何らかの毒素によって心臓 (心室性期外収縮), 肝臓, 腎臓障害が現われたが全身状態が改善されるにつれ軽快した. なお9人が同一物を摂取しもう1人が発病しているが, 他病院に入院したので詳細は不明である. 一方, 分離コレラ菌の性状および患者居住周辺の環境調査の結果, 武庫川本流および関連河川から
V. cholerae non-01いわゆるNAGビブリオを検出した. K (カッパー) ファージ産生の有無を指示菌である
V. cholerae-01 H218Sm
r株を用いて検討した結果, 河川分離株の一部にK (カッパー) ファージの産生株が認められた.
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