感染症学雑誌
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60 巻, 10 号
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  • 和田 光一, 田崎 和之, 下条 文武, 荒川 正昭, 尾崎 京子
    1986 年 60 巻 10 号 p. 1107-1113
    発行日: 1986/10/20
    公開日: 2011/09/07
    ジャーナル フリー
    透析用血管内留置カテーテル使用例における菌血症の発生について検討した.
    1982年から1985年までの4年間において, 血管内に透析用のシングルルーメンカテーテルあるいはダブルルーメンカテーテルを留置した134例を対象に, 血液培養およびカテーテルの培養結果を検討し, 以下の結果をえた.
    1.17例 (12.7%) に菌血症が発症し, 起炎菌は, Staphylococcus aureus6例, Peseudomonas aeruginosa3例, Pseudomonas cepacia 2例, Acinetobacter calcoaceticus 1例, Achromobacter xylosoxidans 1例, Escherichia coli 1例, Morgnella morganii 1例, Enterbacter cloacae 1例, Yeast like fungi 3例であり, 2例は複雑菌感染例であった.これらの症例のうち, 12例では抜去したカテーテルの培養も施され, 9例に同一の菌が分離された.
    2. 血液より分離されたS.aureus 6株のうち5株はメチシリン耐性黄色ブドウ球菌 (MRSA) であり, コアグラーゼ型別は全てII型であった.
    3. 血液培養で菌は検出されなかったがカテーテルの培養で菌が検出された症例は4例あり, 分離菌はStaphlococcus epidermidis 4株, S.aureus 1株, Enterococcus faecalis 1株, Yeast like fungi 1株であった.
    4. 菌血症が発症するまでのカテーテル留置日数の平均は19.59±13.80日で, 菌血症を発症しなかった群の10.69±9.39日より有意に長かった.
    透析用血管留置カテーテルは, カテーテル内に血液を吸引するため, 内部で凝血をおこしやすく, さらにカテーテルが多孔性であるため, カテーテル内で凝血塊が発生しても, すぐには詰まらず気がつくのが遅れ, そのまま使用されることも多い.凝血塊が発生した時死腔域も広く, カテーテル内の凝血塊がfocusとなって, 菌血症が発症しやすいものと考えられる.
  • 塚本 定三, 大津 啓二, 木下 喜雄
    1986 年 60 巻 10 号 p. 1114-1118
    発行日: 1986/10/20
    公開日: 2011/09/07
    ジャーナル フリー
    毒素原性大腸菌食中毒患者から採取した血清240検体について, 原因菌菌体, LTおよびCFAに対する抗体価の推移を経日的に調べた.原因菌菌体およびLTに対する抗体価を幾何学的平均でみると, 発症から徐々に上昇していき, 発症21~30日目に最高の値となり, 以後は減少していった.原因菌菌体に対する抗体価はLTに対する抗体価に比較して上昇が著明である点を除くと, 両者の経日的パターンはよく似ていた.CFAに対する抗体については, 発症1~5日目の患者および健康者のほとんどが保有していなかったが, 発症31~40日目の患者の約60%が陽性であった.また, 原因菌菌体に対する抗体価とLTに対する抗体価の両者の間には相関関係がみられたが, 原因菌菌体とCFA, LTとCFAのおのおのに対する抗体価の間には相関関係は認められなかった.
  • 塚本 定三, 大津 啓二, 木下 喜雄, 大中 隆史, 本田 武司, 三輪谷 俊夫
    1986 年 60 巻 10 号 p. 1119-1124
    発行日: 1986/10/20
    公開日: 2011/09/07
    ジャーナル フリー
    1983年に大阪府下で発生した毒素原性大腸菌による食中毒は3事例あった.そのうちの一つは, 原因となった仕出し弁当を製造した際の調理に用いた水 (井戸水) から原因菌を検出した.そのため, 調理用使用水の中の菌が食品に付着, そこで, 増殖したものと考えられた.これら3事例の食中毒の原因菌はすべてO6H16で, LTおよびSTを産生した.
    そこで, ELISA法を用いて患者ふん便から直接LTの検出を試み, その結果を発症から経日的に比較してみた.LTの検出頻度は発症初期ほど高く, 発症から4日目まではふん便22件中18件 (81.8%) からLTが検出できたのに対し, 5日目から9日目までは27件中7件 (25.9%), 11日目および12日目では16件中2件 (12.5%) と減少した.また, 検出した最高のLT量は40ng/gで, それは発症から4日目までのふん便2件にみられた.今回報告したELISA法によるふん便中のエントロトキシンを検出する方法は, 患者ふん便から菌を分離する以前に, LT産生の毒素原性大腸菌の感染を迅速に診断できる点において, 特に発症初期の患者に対しては非常に有効な方法であると思われた.
  • 原 耕平, 斎藤 厚, 広田 正毅, 山口 恵三, 重野 芳輝, 河野 茂, 藤田 紀代, 古賀 宏延, 道津 安正
    1986 年 60 巻 10 号 p. 1125-1132
    発行日: 1986/10/20
    公開日: 2011/09/07
    ジャーナル フリー
    弱毒菌感染の背景因子を追求するため, 大腸菌, クレブシエラ, 緑膿菌, セラチア, アシネトバクターの5菌種を用い, 対象臓器を肺に絞って感染実験を行った.体重20g前後のdd系マウスを用い, 上記5株をほぼ108台の菌量でマウスに噴霧感染させ, その肺内菌数を算定した.健常マウスでの感染では, 当初104~5台で存在していた肺内菌数が48~72時間後にはクリアランスされたのに対し, エンドキサン処理マウスでは, 肺内菌数がこれよりやや延長するものもみられた.そこでさらに, 同株のエンドキサン処理を行って, ABPC, GM, CFS, CEZの4種の抗生剤を投与して環境内に放置し, 経過をみたところ, 対照群では1匹の発症しかみられなかったのに, CFS投与では1匹, CEZ投与では2匹, ABPC投与群では4匹と, ペニシリン系やセフエム系投与群では却って対照群より高頻度の発症がみられた.これらの病態をさらに追求するため, 緑膿菌とセラチアに限って, さらに詳しく実験を行ったが, ほぼ同様の菌の推移がみられ, これは病理学的所見によっても裏付けられた.
    これらの成績から, 弱毒菌の感染には, 生体側の免疫能, 感染し易い菌の種類, 抗生物質の使用の有無という3つの大きな要因が関与するものと思われた.
  • 尾花 芳樹, 西野 武志, 谷野 輝雄
    1986 年 60 巻 10 号 p. 1133-1139
    発行日: 1986/10/20
    公開日: 2011/09/07
    ジャーナル フリー
    メチシリン耐性Staphylococcus aureus (MRSA) の菌力について, マウスを用いてメチシリン感受性S.aureus (MSSA) の場合と比較検討した.
    MRSAとMSSAの諸性状について検討を行ったが薬物感受性の相違との相関性は認められなかったが, MRSAの増殖度はMSSAより低いことが分った.
    マウスに対する菌力について検討したところ, MRSAおよびMSSAいずれも全般的に菌力は弱いものであった.このためシクロフォスファミド処理マウスを用いて腹腔内感染系で検討したところ, MRSAの菌力は明らかにMSSAよりも弱いことが認められた.
    以上の結果よりMRSAのマウスに対する菌力はMSSAよりも弱く, この要因の一つとしてMRSAの増殖度の低さが考えられた.
  • 坂内 久一, 宮沢 博, 芦原 義守
    1986 年 60 巻 10 号 p. 1140-1146
    発行日: 1986/10/20
    公開日: 2011/09/07
    ジャーナル フリー
    Chlamydia trachomatis (C.trachomatis) に対する各種抗生物質 (薬剤) の増殖抑制効果, 致死効果および併用効果を調べた.測定には, 24穴プレートに培養したHeLa229細胞, 試験株として標準株 (3種) と分離株 (7種), 封入体の染色に間接免疫ペルオキシダーゼ (IP) 法を用いた.その結果, 各薬剤の最小発育阻止濃度 (MIC) は, 従来のギムザやヨード染色での成績と基本的には一致する成績が得られた.
    最小致死濃度 (MLC) はMICの4~8倍高い濃度であった.しかし, 既に形成した封入体内の感染性粒子を完全に不活化するためには, doxycycline (DOXY) ではMLCの50倍以上の薬剤濃度と52時間以上の処理が必要であることがわかった.
    併用効果はDOXY-erythromycin (EM), EM-chloramphenicol (CP), CP-DOXY, ampicillin (ABPC)-DOXY, ABPC-EM, ABPC-CPについて調べた.その結果, これらの薬剤は互いに独立してC.trachomatisの増殖に影響を及ぼすことが明らかになった.これは, 淋菌とC.trachomatisの同時感染患者の治療にABPC-DOXY, ABPC-EMなどの併用が効果的である可能性を示すものと考えられる.
    24穴プレートの培養系に直接IP法を施すことにより, 薬剤効果の測定操作は簡便になり, 封入体の検出も容易であった.従って, 本法は, 抗生剤の試験管内活性の測定にきわめて有用な方法であると思われる.
  • 古川 良幸, 瀬川 豊, 増田 勝紀, 高橋 正人, 大塚 明夫, 平井 勝也, 高橋 宣胖, 青木 照明, 長尾 房大, 嶋田 甚五郎, ...
    1986 年 60 巻 10 号 p. 1147-1153
    発行日: 1986/10/20
    公開日: 2011/09/07
    ジャーナル フリー
    Methicillin耐性黄色ブドウ球菌 (MRSA) で, かつtoxic shock syndrome toxin 1 (TSST-1) を産生するS.aureus感染によるToxic Shock Syndrome (TSS) を同一外科病棟内の胃切除術術後患者に相次いで3例を経験した.2例は死亡し, 1例はminocycline (MINO) 投与にて治癒せしめた.起因菌は, いずれもphage type3群 (1 RTD: non typable, 100 RTD: 45/54/77/94) の同一S.aureusであり, 院内感染症の疑いが強く示唆された.
  • 岸本 明比古, 大原 弘隆, 河辺 昌信, 藤岡 俊久, 三好 義光, 遠山 一太, 林 嘉光, 加藤 政仁, 武内 俊彦
    1986 年 60 巻 10 号 p. 1154-1159
    発行日: 1986/10/20
    公開日: 2011/09/07
    ジャーナル フリー
    マイコプラズマ抗体とオウム病抗体の同時上昇を示した肺炎の1例を経験した.症例は17歳の男性で, 発熱, 咳嗽, 喀痰, 咽頭痛, 頭痛を訴え来院.胸部レ線で舌区にほぼ均等な陰影を認めた.MINO投与により自覚症状は改善し, 陰影は約4週間で完全に消失した.経過中に肝機能障害, 脾腫, 皮疹 (滲出性紅斑), 好酸球増加がみられた.皮疹は約1週間で消失したが, 肝機能障害, 脾腫, 好酸球増加は約4週間持続した.マイコプラズマCF価は8倍から1024倍に, オウム病CF価は16倍から128倍に, 寒冷凝集反応は16倍から256倍にそれぞれ上昇し, M.pneumoniaeC.psittaciの重複感染と診断した.肝機能障害, 皮疹はその出現時期やリンパ球刺激試験の結果から薬剤性を否定し, 感染症に伴うものと考えた.両者の抗体価が同時上昇する肺炎例は, 本邦では小児の報告例が多い.
  • 出原 賢治, 渋谷 恒文, 宮永 修, 古藤 洋, 中野 修治, 横田 英介, 大塚 輝久, 仁保 喜之
    1986 年 60 巻 10 号 p. 1160-1164
    発行日: 1986/10/20
    公開日: 2011/09/07
    ジャーナル フリー
    経過中カンジダによる多発性肝膿瘍を併発した急性骨髄性白血病 (AML) の1例を報告する.
    症例は46歳の女性で, 昭和60年3月重度の貧血のため九州大学第一内科に入院した. 入院時, 骨髄細胞数は38×104/mm3で, そのうち91%がペルオキシダーゼ陽性の骨髄芽球が占めていた.末梢血, 骨髄所見よりAML (M1) と診断し, BH-AC, daunorubicin, 6-mercaptopurine, prednisoloneによる寛解導入療法を行ったところ完全寛解となったが白血球減少症とともに抗生物質不応性の発熱が出現した. 発熱出現20日後, 右季肋部痛とともに白血球増多症が出現した. 超音波検査により肝臓内に多発性のいわゆる“bull's eye”病変が認められた. 多発性肝膿瘍はCTスキャンでも認められた. 穿刺液を培養し, Candida albicansが証明された. Amphotericin Bを6ヵ月以上にわたって総量3800mg静脈内投与するとともに, 膿瘍ドレナージを行ったが治癒には至らなかった. 入院8ヵ月後AMLが再発した.
    カンジダ性肝膿瘍において超音波診断と膿瘍穿刺が重要と考えられた. またその治療は困難で, 予防が重要であると考えられた.
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