感染症学雑誌
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60 巻, 6 号
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  • 岩田 敏, 横田 隆夫, 楠本 裕, 城 裕之, 佐藤 吉壮, 秋田 博伸, 南里 清一郎, 老川 忠雄, 石川 和夫, 熊谷 昇, 山下 ...
    1986 年 60 巻 6 号 p. 549-573
    発行日: 1986/06/20
    公開日: 2011/09/07
    ジャーナル フリー
    新しい経口用cephem系抗生剤であるcefixime (CFIX) の小児腸内細菌叢に及ぼす影響につき検討した.対象は, 感染症の治療又は心疾患の感染予防の目的で本剤を投与された小児10例で, 男児, 女児各5名, 年齢は7ヵ月~11歳, 体重は5.8~43.5kgであった.これらの小児に対し, CFIX細粒1回3mg/kgを1日2回経口投与し, 原則として投与前, 投与開始後3~7日目, 投与中止後3~7日目の糞便を採取し, 糞便1g中に含まれる各種細菌の同定及び菌数計算を行った.同時に糞便中の薬剤濃度, β-lactamase活性も測定した.CFIX投与中の腸内細菌叢の変動は症例によりぼらつきが認められたが, 概ね以下の3群に分類された.即ち, 好気性菌, 嫌気性菌共に大きな変動の認められない群 (A群), E.coli, Klebsiella等のEnterobacteriaceaeのみが減少する群 (B群), 好気性菌, 嫌気性菌の夫々の優勢菌種であるEnterobacteriaceae, Bifidobacterium, Eubacterium, Bacteroides等が著明に減少する群 (C群) の3群である.Enterococcusは何れの群においても不変もしくは増加する傾向が認められた.糞便中β-lactamase活性が陰性を示した症例では, 糞便内にCFIXが検出される頻度が高く, 菌叢の変動も大きい傾向が認められた.従ってCFIX投与中の腸内細菌叢の変動には, 菌叢構成菌の本剤に対する感受性の差異と糞便中β-lactamase活性の高低の2点が重要な意味を持つと考えられる.CFIXが誘因と思われる下痢は3例に認められ, 腸内細菌叢の抑制やC.difficileとの関連が疑われた.
  • 梶岡 実雄, 伊藤 淳, 高田 満
    1986 年 60 巻 6 号 p. 574-578
    発行日: 1986/06/20
    公開日: 2011/09/07
    ジャーナル フリー
    1982年~1984年に採取したヒト健康者血清800件について補体結合 (CF) 試験によりcampylobacter jejuni (C.jejuni) に対する抗体保有状況の調査を実施した.
    健康成人の抗体保有率は, 茨城地区3.6%, 東京地区48.0%, 大阪地区21.3%と調査地区間に抗体保有率に差を認めた.
    抗体陽性者のうち抗体価20倍以下を示した者は, 茨城地区100%, 東京地区98.6%, 大阪地区72.1%で, 健康成人におけるCF抗体価はほとんどが20倍以下であった.
    東京地区住民における年齢階層別抗体保有率は, 0~10歳で22.2~24.5%, 11~20歳で35.5~42.0%, 21~40歳で54.0~59.4%, 41歳以上で32.0~55.6%の保有率を示した.
    C.jejuniは, 我国において広範囲に浸淫している可能性が示唆される成績であった.
  • 小森 宗敬
    1986 年 60 巻 6 号 p. 579-591
    発行日: 1986/06/20
    公開日: 2011/09/07
    ジャーナル フリー
    新種のヒト由来マイコプラズマであるMycoplasma genitaliumG37株を用いて, 細菌学的, 血清学的ならびにハムスター肺および気管を用いての病原性を検討した.
    細菌学的性状は, 病原性と関連するいくつかの性状を併せもっていた.血清学的には, M.pneumoniaeと共通抗原を有して交叉反応を認め, M.pneumoniae肺炎患者血清を用いた検討でも明らかな相関が認められた.また両菌株間の血清学的同定法として, 発育阻止試験や代謝阻止試験が有用であると思われた.
    ハムスターを用いた肺感染実験では, M.pneumoniaeとほぼ同等の病理学的変化をみとめ, 病原性を有すと思われる所見が得られた.また肺や気管より菌が分離されたことから, このM.genitaliumは呼吸気道においても増殖を繰り返し, 病変を惹起しているものと考えられた.気管の器官培養系を用いた感染実験では, M.pneumoniaeには劣るものの, 病原性を有すと思われる所見が得られた.
    以上の成績より, M.genitaliumはヒトの呼吸器系にも感染症を惹起する可能性が示唆され, 今後臨床面での菌の分離や, 病原性の検討が必要であることを考えさせた.
  • 第1報起炎菌について
    藤井 良知, 平岩 幹男, 野中 千鶴, 小林 裕
    1986 年 60 巻 6 号 p. 592-601
    発行日: 1986/06/20
    公開日: 2011/09/07
    ジャーナル フリー
    小林らの1966年から16年間の小児細菌性髄膜炎と比較し本邦に於ける1979年以降6年間の小児細菌性髄膜炎の現況を把握する目的で同じ施設107についてアンケート調査を行った.1,246名の症例を集計出来たが入院患者に対する比率は年次的に1984年の0.31%まで緩かな減少傾向を続けており, また地域差も見られた.新生児期24.8%と最も頻度が高く以降漸減するが4歳未満までに総数の84.7%が含まれ, この年齢別累積頻度は小林の報告と殆ど一致する.男女比は平均1.62: 1であった.起炎菌は3ヵ月未満の新生児・乳児ではE.coliとGBSが集積し, 3ヵ月以降ではS.pneimoniaeH.influenzaeが集積してこの4菌種で菌判明例の70.1%を占め, 第5位のSmmsは各年齢に分散した.結核菌14, 真菌3, 嫌気性菌5などを除きグラム陽性菌と同陰性菌の比は1: 1.2であり少数宛ながら極めて多様なグラム陰性桿菌が検出された.髄膜炎菌22, リステリアは18件検出された.
    複数菌検出例は10例に認められた.起炎菌不明例は279例で年次的に3ヵ月未満群で菌判明率が梢高くなる傾向が見られた.
  • 第2報高齢者における黄色ブドウ球菌敗血症93例の臨床的検討
    岡 慎一, 浦山 京子, 稲松 孝思, 島田 馨
    1986 年 60 巻 6 号 p. 602-607
    発行日: 1986/06/20
    公開日: 2011/09/07
    ジャーナル フリー
    1973年から1984年の間に, 東京都養育院付属病院で経験された老年者における黄色ブドウ球菌 (黄色ブ菌) 敗血症93例について, 臨床的検討を行なった.
    同期間における黄色ブ菌敗血症は, 全敗血症の11%を占めた.血液より黄色ブ菌単独検出例80例, 複数菌検出例13例であった.基礎疾患は, 悪性腫瘍が37.6%, 脳血管障害が20.4%を占めた.主要原発巣は, 尿路21例, 静脈内留置カテーテル17例であった.静脈内留置カテーテル由来の黄色ブ菌敗血症のうち, 鼠径部より挿入した例の発症までの平均日数は6日で, 他の部位に比して短かった.黄色ブ菌単独菌敗血症80例中22例にshock併発をみた.
    黄色ブ菌敗血症発症後1ヵ月以内の死亡率は47.3%であった.原発巣別の死亡率では, 呼吸器由来が60.0%と高い死亡率を示した.各種要因の有無と死亡率の関係をみると, 悪性腫瘍患者, DIC, shock併発例での死亡率が, それぞれ68.6%, 88.9%, 86.7%と有意に高かった.悪性腫瘍もなく, DIC, shockを併発しない場合の死亡率は, 約16%であった.メチシリン耐性 (MIC≧25μg/ml) 黄色ブ菌敗血症と, メチシリン感受性黄色ブ菌敗血症の死亡率の間には推計学的有意差を認めなかった.
  • 細菌学的検討
    千田 俊雄, 中谷 林太郎, 辻 正周, 清水 長世, 増田 剛太, 瀬尾 威久, 相楽 裕子, 松原 義雄
    1986 年 60 巻 6 号 p. 608-615
    発行日: 1986/06/20
    公開日: 2011/09/07
    ジャーナル フリー
    薬剤関連出血性腸炎患者より得られた急性期血便11例すべてからK.oxytocaが検出され, その平均菌数 (対数) は7.1/gであった.それに対し, 回復期有形便からは7例中5例, 平均菌数5.5/g検出された.
    C. difficileは, 急性期および回復期のどの検体からも検出されなかったが, 急性期血便の2例からC.difficle毒素が検出された.しかし, この2症例は臨床像から抗生物質による急性出血性腸炎と診断された.また, 急性期と回復期の腸内菌叢を比較すると, 急性期は回復期に比べて総菌数の著減と構成菌群の単純化および量的減少が認められ, とくに偏性嫌気性菌群の顕著な減少ないしは消失傾向が認められた.
  • 心臓脈管系に対する薬理作用
    飯島 肇, 村田 久雄
    1986 年 60 巻 6 号 p. 616-623
    発行日: 1986/06/20
    公開日: 2011/09/07
    ジャーナル フリー
    C.albicansの菌体をアルカリ処理で抽出して得た粗多糖体のラット心臓-脈管系に対する作用を薬理学的に検討した.Langendorff法による摘出心で, 心拍数は一過性減少後, 持続性増加の二相性変化が, 左心室内圧及び冠流量は増加が, それぞれ用量依存的にみられた.このことからカンジダ粗多糖体には強心作用や冠拡張, 徐脈作用があることが認められた.また, 大動脈のspiral標本では, わずかであるが用量依存的な収縮作用がみられ, フェニレフリンによる収縮標本では濃度依存的な弛緩がみられた.このことからカンジダ粗多糖体は動脈血管を収縮し, またフェニレフリンに対し抑制効果のあることが認められた.しかし, 同物質で感作されたラットでは, 摘出心で左心室内圧の減少, 冠流量の減少など心作用の低下及び冠収縮現象がみられた. このことから, 感作動物では, 免疫反応により遊離されるある種の化学物質, 即ち, autacoidsの影響が考えられた. これらカンジダ粗多糖体のラット心臓-脈管系に対する直接的, 間接的かつ複雑な作用は, 一般に抵抗性の減じた続発性深部カンジダ症でしぼしばみられる死亡例の致死的機転を心臓-脈管系の側面から解明する上で, 重要な知見と考える.
  • 角井 徹, 中野 博, 大西 喜夫, 金本 康生, 西尾 隆昌
    1986 年 60 巻 6 号 p. 624-626
    発行日: 1986/06/20
    公開日: 2011/09/07
    ジャーナル フリー
    サルモネラが尿路感染症の原因となるのはまれなことといわれている.著者等は腎移植患者に発生した, Salmonella typhimuriumが起炎菌と思われる慢性細菌性前立腺炎の1例を経験し, nalidixic acidによる治療が奏効したので報告する.
  • 鵜木 哲秀, 中村 功, 国広 誠子
    1986 年 60 巻 6 号 p. 627-631
    発行日: 1986/06/20
    公開日: 2011/09/07
    ジャーナル フリー
    Alcaligenes dentrificans subspecies xylosoxidans (A.xylosoxidans) による敗血症の1例を報告する.患者は73歳の男, 基礎疾患として大動脈弁閉鎖不全症と高血圧を有し, 心不全で入院.中心静脈カテーテル挿入4日後より弛張熱と強度の炎症反応が出現.カテーテル先端と血液培養の両者からA.xylosoxidansが純培養状に分離された.この頃よりpiperacillinによると思われる急性腎不全を, つづいて偽膜性大腸炎を併発した.A.xylosoxidans敗血症に対してminocycline 100mg/dayを用い, 腎不に対しては腹膜潅流を行い, 偽膜性大腸炎に対してはvancomycin 1.0g/dayを使用し, 第5病週に軽快退院せしめ得た.
    1971年, 藪内らにより分離・命名された、A.xylosoxidansによる敗血症の報告はまれで, compromizedhostへの院内感染例が多い.A.xylosoxidansは今日繁用されている多くの抗生剤に耐性で, 日和見感染や院内感染の病原菌の一員として臨床上注意を要すると思われる.
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