感染症学雑誌
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60 巻, 9 号
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  • 池田 文昭, 小林 寅哲, 西田 実, 五島 瑳智子, 手塚 孝一, 草野 朱美, 森 節子, 金沢 美奈子
    1986 年 60 巻 9 号 p. 1003-1009
    発行日: 1986/09/20
    公開日: 2011/09/07
    ジャーナル フリー
    臨床分離のPseudomonas aeruginosaのうち, 当教室で保存されている1968年に分離された182株, 1984年に分離された202株の中, 大部分の菌株はampicillinに対し高度耐性であった.しかし, 1984年度分離株のうちampicillinのMICが0.78ないし1.56μg/mlを示す2株 (T-25, SSP) が見出され, これらの菌株はampicillinのみならず他のペニシリン系薬剤や第3世代セフェム剤にも高度感性であった.T-25株はcefoxitinまたはampicillinによるβ-lactamase誘導産生は少なかった.またT-25株およびSSP株ではDr. Richmondより入手したP.aeruginosa No.1771の外膜透過性変異株と同様EDTAの添加によりampicillinの顕著なMICの低下は認められず, ampicillinの透過性の良好な菌株であると考えられる.
  • 耐熱抗原による基礎的検討
    藤田 紀代
    1986 年 60 巻 9 号 p. 1010-1021
    発行日: 1986/09/20
    公開日: 2011/09/07
    ジャーナル フリー
    院内感染症あるいは未期感染症としてみられる肺炎の起炎菌の迅速診断あるいは剖検肺組織内の迅速診断を目的として, 起炎菌としての頻度の高い大腸菌, 肺炎桿菌および緑膿菌各々10株を用い, その培養炉液から得た耐熱抗原で家兎を免疫することにより抗血清を作成した.
    特異性を高めるため各々の抗原 (菌株) により吸収操作を加え, 蛍光抗体間接法を用いた免疫染色法により, まず作成された抗血清の感度と特異性を検討した.
    臨床材料由来の120株 (3菌種それぞれ40株) のうち, 大腸菌が抗大腸菌血清とのみ反応するいわゆる正診断率は50%(20株) であったが, 抗肺炎桿菌血清に反応するもの3株 (7.5%), 抗緑膿菌血清に反応するものはみられず, いわゆる誤診断率は7.5%を示した.また, すべての抗血清に反応するものおよびいずれの抗血清にも反応しないものがそれぞれ6株 (15%), 11株 (42.5%) 存在し, いわゆる診断不能率は42.5%であった.抗肺炎桿菌血清および抗緑膿菌血清では, それぞれ正診断率47.5%, 67.5%, 誤診断率0%, 0%および診断不能率52.5%, 32.5%の成績が得られ, 3種の抗血清中抗緑膿菌血清が最もすぐれた診断用血清であった.今回作成した抗血清は主として菌体多糖体分画に対する抗体であったため, 感度および特異性の面で直ちに臨床に応用できる程すぐれたものではなかったが, 培養結果が判明するまでの補助的早期診断用血清として一応の評価が得られると思われた。
  • 第3報野鼡のRickettsia tsutsugamushiおよび抗体保有の年内変化と患者発生状況
    粕谷 志郎, 日置 敦巳, 伊藤 亮, 大友 弘士, 野田 伸司, 渡辺 実, 山田 不二造, 岩佐 光啓
    1986 年 60 巻 9 号 p. 1022-1026
    発行日: 1986/09/20
    公開日: 2011/09/07
    ジャーナル フリー
    1984年4月より1985年3月の1年間に, 岐阜県可児市の可児川から坂祝町の木曽川流域にて生け捕りにできた野鼡91匹に関して, その恙虫病リケッチア (Rt) および抗Rt抗体保有率を調査し, 季節変動を明らかにした.
    抗Rt抗体の陽性率は, 1月, 3月に100%(それぞれ2/2, 5/5) となり, 9月, 10月に0%(それぞれ0/7, 0/3) となる1峰性の年内変動を示した. Rtの陽性率も同様のパターンとなり, 12月に最高62.5%(5/8), 9月に0%(0/7) であった.
    過去4年間の岐阜県における患者発生 (137人) を月別に集計すると, 同様11月から12月に集中的 (91.2%) に見られた. 一方, 6月にも小ピーク (7人) が認められるが, その他の月にはほとんど患者発生がなかった.
  • 山口 恵三, 古賀 宏延, 河野 茂, 重野 芳輝, 鈴山 洋司, 広田 正毅, 斉藤 厚, 原 耕平, 尼崎 辰彦, 岩永 整磨, 奥野 ...
    1986 年 60 巻 9 号 p. 1027-1035
    発行日: 1986/09/20
    公開日: 2011/09/07
    ジャーナル フリー
    近年, 輸入感染症としてのマラリア患者が増加の傾向にあり, 日常の診療の場でこのような患者に遭遇する機会も稀ではなくなってきた. しかし実際の治療に際して, わが国においては抗マラリア薬の入手が極めて困難な状況にある.
    私達はこれらのことを背景に, 一般の医療機関においても入手が比較的容易で, 且つマラリアの流行地ですでにマラリア原虫に対する有効性が確認されているSMX/TMP (ST合剤) を用い, 5例のマラリア患者に対する治療を試みた. ST合剤の総投与量は4~36錠で, 1~6日間の短期投与とした.
    マラリア患者の内訳は, P. falciparumに因るもの3例, P. vivaxに因るものが2例であり, parasitemiaの程度は3.2×103~6.7×105/μLであった. 本剤の投与開始後4日目には, 5例中4例において症状の著明な改善と末梢血からの原虫の消失を認め, 外来で経過を観察した残りの1例においても1週間後の来院時には原虫はすでに陰性化していた. また, とくに問題となるような副作用や検査値異常はみられなかった.
    以上の成績から, ST合剤の抗マラリア薬としての臨床的有用性に対して, より高い評価与えるべきものと考えられた.
  • 特に5歳以下についての検討
    阿部 好正, 中村 幸義, 宗玄 俊一, 渡辺 言夫, 兵頭 行夫
    1986 年 60 巻 9 号 p. 1036-1039
    発行日: 1986/09/20
    公開日: 2011/09/07
    ジャーナル フリー
    溶連菌の産生する菌体外酵素の1つであるdeoxyribonuclease-BはA群溶連菌に特異的であり, これに対するantideoxyribonuclease-B (ADN. B) の測定は臨床上有意義であることが知られるようになってきた. しかし本邦での小児 (特に5歳以下の年齢層) の検討は殆どされていない. われわれは今まで行われてきたADN-B測定よりも更に低力価を検索し, 小児のADN-B正常値を求めた.
    結果は, 80パーセンタイル値を正常上限とした場合, 2歳以下10倍以下, 3~5歳60倍, 6~10歳160倍, 1~15歳320倍であった (J. Rottaの年齢区分による).
    また, ペアー血清からADN-Bの変動を追求する場合には, 低稀釈の測定が必要なことがわかった.
  • 草地 信也
    1986 年 60 巻 9 号 p. 1040-1047
    発行日: 1986/09/20
    公開日: 2011/09/07
    ジャーナル フリー
    肺における良性, 悪性新生物およびその他の疾患に合併する肺感染症の発症機序を探求する目的で, 家兎の肺右上葉に気管支ファイパースコープを用いて選択的に菌液を注入することにより限局性肺感染実験モデルを作製した.この実験系を正常家兎のほか, 限局性気道障害家兎, 白血球減少家兎 (nitrogenmustard処理), および後者の2種の処置を併用した家兎についても作製し, 下記の成績を得た.
    K. pneummiaeS. aureusをそれぞれ正常家兎では発症しない感染菌量5.0×108CFU/rabbitとし, 上記方法により右上葉に注入するとK. pneumiae感染では, 限局性気管障害においてのみ感染像が認められた.また, S. aums接種群では白血球減少群にのみ感染から発症に発展することが観察された.
    実験的白血球減少と気道障害の両処置を併用した群におけるK. pneummiae感染では, 菌注入部位である右上葉はもちろん, 感染による炎症は他葉にまで及び同時に心血からも生菌が検出され, 感染が限局性肺炎から敗血症へ拡大することが確かめられた.
    本実験により, K. pneumoniaeによる肺感染は気道障害の存在する部位で発症しやすいこと, また抗悪性腫瘍剤投与などにより白血球減少状態が加わると他の肺葉への感染拡大が容易となり, さらに菌血症を惹起して全身感染となり易いことが観察された.
  • 馬場 昌範, 茂田 士郎
    1986 年 60 巻 9 号 p. 1048-1051
    発行日: 1986/09/20
    公開日: 2011/09/07
    ジャーナル フリー
    グリチルリチン (GL) はin vitroにおいて, 水痘-帯状疱疹ウイルス (VZV) の増殖を抑制する. 即ち, ヒト胎児線維芽細胞 (HEF) にcell-freeVZVを感染させ, その後すぐに種々の濃度のGLを加えて, 数日後に出現するフォーカスの数をかぞえると, ウイルスの増殖抑制がみられ, その50%抑制濃度は平均0.55mg/mlであった. GLはこの濃度においてはHEFに細胞毒性を示さなかった. GLはまた非感染細胞に予め前処理をしても, 僅かながらウイルス抑制効果を示した.
    GLとウイルスを試験管内反応させると, 30分後にはGLの濃度が2mg/mlでは99%以上の, また0.08mg/mlの低濃度でも僅かながら, VZVの不活化作用を有することがわかった.
  • 小林 宏行, 河合 伸, 斎藤 玲, 矢島 敢, 富沢 磨須美, 中山 一朗, 石川 清文, 田村 昌士, 伊藤 隆司, 武内 健一, 根本 ...
    1986 年 60 巻 9 号 p. 1052-1077
    発行日: 1986/09/20
    公開日: 2011/09/07
    ジャーナル フリー
    慢性気道感染症に対するT-2588の有効性, 安全性および有用性を検討する目的でCafaclor (CCL) を対照薬とする二重盲検比較試験を実施した. T-2588は1日600mg (1回200mg, 1日3回), CCLは1日750mg (1回250mg, 1日3回), 原則として14日間経口投与し, 以下の結果を得た.
    1) 慢性気道感染症 (主として慢性気管支炎, 気管支拡張症の感染時) に対する小委員会判定による臨床効果は, T-2588群が有意に高い成績が得られた.
    2) 主治医判定による臨床効果は, 小委員会判定と同様T-2588群に有意に高い成績が得られた.
    3) 細菌学的効果はT-2588群の消失率が有意に高く, 特にH. influenzaeにおいて有意差が認められた.
    4) 症状・所見及び臨床検査値の改善度は, 咳嗽, 咳痰量・性状, 胸部ラ音, ESRにおいてT-2588群が有意に優れていた.
    5) 副作用の発現率およびその種類において, 薬剤群間に有意差を認めなかったが, 臨床検査値異常の発現率ではT-2588群が高く, 有意差がみられ, その主な原因は好酸球増多であった.
    6) 臨床的有用性は, 小委員会判定においてT-2588群が有意に優れていた.
    7) 主治医判定による有用性でも小委員会判定と同様T-2588群に有意に高い有用率がみられた.
    8) 以上の結果よりT-2588600mg/日投与はCCL750mg/日投与に比し慢性気道感染症に対し, 臨床的有用性が有意に高い薬剤であることが確認された.
  • 小林 宏行, 河合 伸, 斎藤 玲, 矢島 敢, 富沢 磨須美, 中山 一朗, 石川 清文, 田村 昌士, 伊藤 隆司, 武内 健一, 根本 ...
    1986 年 60 巻 9 号 p. 1078-1106
    発行日: 1986/09/20
    公開日: 2011/09/07
    ジャーナル フリー
    T-2588の細菌性肺炎に対する有効性, 安全性および有用性をBacampicillin hydrochloride (以下BAPCと略す) を対照薬剤とし, 二重音検法により比較検討した.
    T-2588は1日600mg (1回200mg, 1日3回), BAPCは1日1,000mg (1回250mg, 1日4回) を原則として14日間経口投与し, 以下の結果を得た.
    1) 小委員会判定による臨床効果は肺炎群ではT-2588群90.7%, BAPC群91.8%の有効率で, 両薬剤投与群間に有意差は認められなかった. 主治医判定においても同様に有意差は認められなかった.
    2) 細菌学的効果に関しては, 両薬剤の除菌率に有意差は認められなかった.
    3) 症状・所見および臨床検査値の改善度については両薬剤投与群間に有意差は認められなかった.
    4) 副作用の発現率はT-2588群5.2%, BAPC群6.8%で, 両薬剤の投与群間に有意差は認められなかった. 臨床検査値の変動についても同様, 有意差は認められなかった.
    5) 小委員会および主治医判定における有用性に関しても両薬剤投与群間に有意差は認められなかった.
    以上, T-25881日600mgの細菌性肺炎に対する有効性は, BAPC1日1,000mgの有効性と比較して有意差は認められず, 安全性に関しても両薬剤間に有意差が認められなかったことから, T-2588はBAPC同様に, 細菌性肺炎の治療に有用性の高い薬剤であると考えられる.
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