感染症学雑誌
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62 巻, 3 号
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  • 小花 光夫, 松岡 康夫, 福田 純也, 藤森 一平
    1988 年 62 巻 3 号 p. 187-193
    発行日: 1988/03/20
    公開日: 2011/09/07
    ジャーナル フリー
    糖尿病患者における感染症の予後の変遷を知る目的で, 川崎市立川崎病院における糖尿病剖検例を調査し, その感染症の実態について検討した.対象は1970~1984年までの15年間に当院で剖検し得た糖尿病症例116例 (男性67例, 女性49例) である.剖検時に何らかの感染症がみられた72例を感染群, 残り44例を非感染群とした.感染症の変貌については1970~1974年までの11例 (A群), 1975~1979年までの26例 (B群), 1980~1984年までの79例 (C群) の3群に分けて検討した.
    感染群72例中111件の感染症が存在していたが, 剖検前に発見されていたのは71件 (64.0%) のみで, 残りの40件 (36.0%) は剖検で初めて発見された.腎孟腎炎が最も多く, 気管支肺炎が次いでいた.敗血症は10件 (9.0%) とかなり高率であった.起炎菌としては腎孟腎炎ではE.coli, 気管支肺炎ではP.aeruginosaが最多であった.感染死は14例 (12.1%) であり, 直接死因の第2位を占めていた.感染死の割合を年代別にみるとA群18.2%, B群11.5%, C群11.4%であった.糖尿病の治療, コントロール状況, 罹病期間を感染群, 非感染群で比較したところ5年以上のものが感染群に多かったが, その他には差がなかった.
    化学療法の発展は糖尿病患者における感染症の予後にも変貌を与えている.しかし, 今回の剖検例の検討では感染死の割合は思いのほか減少しておらず, しかも感染症が必ずしも的確に診断されていなかった.
  • 和田 光一, 村松 芳幸, 田崎 和之, 佐藤 健比呂, 荒川 正昭, 尾崎 京子, 高野 操
    1988 年 62 巻 3 号 p. 194-199
    発行日: 1988/03/20
    公開日: 2011/09/07
    ジャーナル フリー
    中国旅行中に咽頭痛, 寒気, 全身倦怠感を自覚した旅行者が帰宅した.その4日後, 混合性結合組織病 (MCTD) のため長期間ステロイド剤を内服中で, 自宅で療養していた妻が高熱, 意識障害, 出血斑, 血圧低下, チアノーゼのため入院した.患者の血液, 髄液よりNeisseria meningitidis B群が検出され, 流行性脳脊髄膜炎と診断されたが, 入院後24時間で典型的なWaterhouse-Friderichsen症候群のため死亡した.
    この感染経路を検討したところ, 夫の鼻腔, 咽頭より大量のN.meningitidisが分離され, 保菌者であることが確認された.さらに3ヵ月後, サルコイドーシスで入院した症例の咽頭より大量のN.meningitidisが分離され, この家人がやはり同一時期, 同一経路で中国旅行をしていることがわかり, これらの感染は輸入感染症の二次感染であると推定された.新潟地区の健常者30名, 2名の保菌者の濃厚接触者21名, 中国旅行を一緒にしたグループ15名, 計66名の鼻腔・咽頭培養では, 保菌者の6歳の男児1名のみからN.meningitidisが検出された.その男児の同級生31名の咽頭培養からは, N.meningitidisは検出されなかった.
    次に, 保菌者3名のうち, 大人2名に対してはOfloxacm (OFLX) 600mg, 小児1名にはCefixime (CFIX) 100mgを使用したところ, 24時間後には除菌された.保菌者の濃厚接触者9人は, OFLX300mgを予防的に内服し, その後感染は認められなかった.
    近年, 本邦の流行性脳脊髄膜炎, Waterhouse-Friderichsen症候群の報告では, 感染経路, 予防的化学療法について検討されたものはなく, また保菌者をOFLX, CFIXで除菌した症例は初めてである.
  • 山下 照夫, 栄 賢司, 石原 佑弌, 井上 裕正, 磯村 思无
    1988 年 62 巻 3 号 p. 200-205
    発行日: 1988/03/20
    公開日: 2011/09/07
    ジャーナル フリー
    塩素によるウイルス不活化とシアヌル酸の影響を緩衝液とプール水を用いて調べた.遊離塩素0.5mg/lを加えた緩衝液での各ウイルスの99.9%不活化達成時間は, ポリオウイルス1型 (P1) で0.8分, コクサッキーウイルスA24型 (EH24) で0.5分, エンテロウイルス70型 (EV70) で0.12分, アデノウイルス3型 (Ad.3) で0.14分であるのに対し, ここにシアヌル酸30mg/lが加わるとP1で5.6分, EH24で14.4分, EV70で2.5分, Ad.3で2.1分といずれも長くなった.
    実際のプール水を用いて遊離塩素濃度1.0mg/l以上でP1の不活化を行なったところ, トリクロロイソシアヌル酸を使用していた9件のプール水では, 20秒後のウイルス生存率は0.78~19.44%で, 90秒後でも8件の水でウイルス生存を認め, 全ての水でウイルスが検出されなくなるのに3分以上の反応時間を要した.一方, 次亜塩素酸ナトリウムを使用していた10件のプール水では, 20秒後に2件の水で0.01%のウイルス生存を認めたのみで, 40秒後には全ての水でウイルスは検出されなかった.プール水に安定剤としてシアヌル酸を用いる場合, 許容範囲内でなるべく高い塩素濃度を維持する必要がある.
  • 第1報過去7年間の薬剤感受性成績と抗菌剤の使用量の検討
    山崎 悦子, 水岡 慶二, 増田 剛太, 小林 頼子, 中江 太治
    1988 年 62 巻 3 号 p. 206-216
    発行日: 1988/03/20
    公開日: 2011/09/07
    ジャーナル フリー
    東京都立駒込病院における過去7年間 (1979年4月より1986年3月まで) の臨床分離菌 (28菌種, 42,940株) の薬剤感受性成績と薬剤使用量を検討し, 次の結論を得た.
    1.過半数の被検薬剤に対する感性率が50%以下であった多剤耐性菌は, Serratia sp., Proteus uulgaris, Proteus rettgen Pseudomonas aeruginosa, pseudomonas putida, Xanthomonas maltophiliaおよびFlauobacterium sp.の7菌種であった.
    2.過半数の被検薬剤に耐性化した菌種はStophylococcus aureus, Enterococcus sp., Salmonella sp., Enterobacter sp.およびP.aeruginosaの5菌種であった.
    3.薬剤の使用量は1981年と1982年にやや増加したが, ほぼ横這いであった.経口用抗菌剤では, cephems (CEPs) が首位を占め, quinolones, penicillins (PCs), macrolides (MLs), tetracyclines (TCs) の順であったが, 注射用抗菌剤では, 首位はCEPsつづいてPCs, aminoglycosides (AGs) の順であった.
    4.耐性菌の増加は, その薬剤の使用量の増加と相関する傾向が認められた.一方, ブドウ糖非発酵菌の多剤耐性については, 自然耐性が原因の一つと考えられた.
    これらの結果より臨床材料からの分離頻度も高く, 多剤に耐性化傾向がみられ, 現在および今後, 特に細菌感染症の課題となるであろう菌種はS.aureus, Enterobacter sp.およびP.aeruginosaと考える.
  • 小川 正俊, 宇治 達哉, 宮崎 修一, 五島 瑳智子
    1988 年 62 巻 3 号 p. 217-225
    発行日: 1988/03/20
    公開日: 2011/09/07
    ジャーナル フリー
    E.faecalisの溶血株および非溶血株とE.coli, K.pneumoniae, P.aeruginosaのマウス混合感染における菌力を検討した結果, E.faecalisの溶血株は非溶血株にくらべ他菌種との混合感染において感染菌力が強いことが認められた.
    またE.faecalisE.coliとの混合感染において, マウスの血中菌数は単独感染時に比べ長時間持続した.
    E.faecalisの溶血株による混合感染増強効果は, マウス好中球の貪食殺菌作用阻害が主因であることが立証された.
  • Limulus Amoebocyte Lysate Assayによるグラム陰性細菌尿の迅速検出法の検討
    成田 崇裕, 菅原 和行, 山口 恵三, 臼井 敏明
    1988 年 62 巻 3 号 p. 226-234
    発行日: 1988/03/20
    公開日: 2011/09/07
    ジャーナル フリー
    グラム陰性細菌尿の迅速診断に, 主に敗血症におけるエンドトキシンの検出に用いられているリムルステスト (Limulus amoebocyte lysateassay; LAL assay) を応用した.方法は, 近年実用化された発色合成基質を用いた比色定量法を採用し, 迅速にしかも多検体を同時に処理できることを目的に, マイクロプレートを用いた微量法にで試みた.
    LAL assayには100倍希釈した尿をサンプルとして用い, 37℃, 30分間の加温後, 比色定量によって判定を行った.
    被検尿229例のうち, 定量培養で105CFU/ml以上の菌量でグラム陰性菌が検出された32例中, LALassayで陽性を示したものは31例 (96.9%) であった.また, 104CFU/ml以上, 105CFU/ml未満の菌量のものは, 8例中6例 (75.0%), 104CFU/ml未満の例では, 11例中4例 (36.4%) が陽性であった.一方, グラム陰性菌以外の細菌, すなわち, グラム陽性球菌および酵母様真菌が培養検出された尿および菌陰性 (培養検出限界以下) 尿については, 全て陰性であった.
    以上の成績より, 尿路感染症において主要な位置を占めるグラム陰性菌の検出に対するLAL assayの応用は, 迅速, 簡便かっ信頼できる方法として, 極めて有用なものと考えられた.
  • 山本 忠雄
    1988 年 62 巻 3 号 p. 235-241
    発行日: 1988/03/20
    公開日: 2011/09/07
    ジャーナル フリー
    日本脳炎流行前期及び流行期におけるブタ血清中の日本脳炎ウイルスELISAIgM抗体価を測定し, HI抗体価と比較した.
    特定飼育ブタ10頭について, 個々に血液を採取し抗体価を測定したところ, 流行前期にはELISAIgM抗体価は103以下で, HI抗体は検出されなかった.HI法によるIgM抗体が現われ始めると, ELISAIgM抗体価は104以上を示した.ELISAIgM抗体は約2週間継続して検出された.その後ELISAIgM抗体価は103前後に低下したが, HI反応は陽性であり, ほとんどIgG抗体であった.
    と畜場ブタについては, 定期的に20頭ずつ検査し, 非流行期及び流行前期のELISAIgM抗体価は103以下であった.流行期に入るとHI法によるIgM抗体は陽性となり, そのほとんどがELISAIgM抗体価104以上を示した.集団としてのELISAIgM抗体の検出される期間は約1ヵ月であった.
    ELISAIgM抗体価2~4×103ではHI法によるIgM抗体は疑陽性又は陽性を示したが, ELISAIgM抗体価3×103をcut off値とし, それ以上を陽性とすると, HI法に対応した成績が得られた.ELISAIgM抗体の検出時期並びに検出期間をもとに, 日本脳炎の流行について考察を加えた.
  • 石原 ともえ, 高橋 智恵子, 岡本 正孝, 秋山 昭一
    1988 年 62 巻 3 号 p. 242-245
    発行日: 1988/03/20
    公開日: 2011/09/07
    ジャーナル フリー
    尿路感染症患者 (膀胱炎・急性腎孟腎炎等) 由来大腸菌332株について, Harberらの方法に準じて, 同一健康女性の尿中剥離上皮細胞を用いて検討した.
    剥離細胞は自然排出尿から採取し, Brain-Heart Infusionで培養した大腸菌と混合した.細胞30個について, その接着菌数を計数して, 1細胞あたりの菌数から接着の有無を調べ, また, 再現性についても検討した.同様に, 一定の菌株を用いて細胞採取時期の違い (季節, 月経周期等) による接着菌数の変動について調べた.
    この結果, 尿中剥離細胞を用いた接着実験は, 再現性がなく, 一定の菌株での繰り返し実験でも変動が激しいため, 信頼性に乏しいことが明らかとなった.細胞提供者の月経周期による接着菌数の周期的変化は認められなかったが, 季節による変動が示唆された.しかし, その因子については不明である.
  • 坂内 久一, 宮沢 博, 芦原 義守
    1988 年 62 巻 3 号 p. 246-252
    発行日: 1988/03/20
    公開日: 2011/09/07
    ジャーナル フリー
    Chlamydia tachomatis (serovar L2) に対する抗生剤 (薬剤) の生体内効果を調べるための動物モデルとしてマウスの有用性を検討した.マウス (ddy, 雌, 6適齢) にL2 (1×107封入体形成単位, 感染価 (IFU)) を経静脈的に接種し, その後24と30時間の2回又は連日一回 (最高14回) 薬剤を経筋肉的に投与した.また, Chlamydia抗体陽性のマウスを用い, IFUに及ぼす薬剤の効果を調べた.薬剤 (一日量) はdoxycycline (DOXY, 3.3mg/kg), ampicillin (ABPC, 50mg/kg) 及びofloxacin (OFLX, 6.6mg/kg) を用いた.L2接種後, 所定の日にひ臓を摘出し, 10%抽出液を作成, その中のL2の形成する封入体数をひ臓当たりのIFUで表わし, 対照群 (PBS投与) のIFUの推移と比較した.
    その結果'どの薬剤も対照群に比べ低いIFUを与えた.しかし, DOXYはわずか2回の投与で封入体の形成を完全に失わせたが, OFLX, ABPCでは調べた13回の連日投与後においても完全な消失はみられなかった.OFLXは, しかし, 一回の投与量を10mg/kgに増量したところ, 11回の投与で封入体の消失がみられた.これらの成績は試験管内効果測定 (MIC) の成績及びヒトでの臨床成績と矛盾しない.抗体の存在するマウスでは対照に比べ低いIFUとなり, 薬剤の効果が増強されることが明らかになった.これらの知見は今後, 提供される薬剤の生体内効果を知る上でマウスを用いた検討が有用であることを示す.
  • HBeAg/anti-HBe系およびtransaminaseに与える影響
    田村 偉久夫, 市村 宏, 伊藤 芳晴, 栗村 統, 栗村 敬
    1988 年 62 巻 3 号 p. 253-258
    発行日: 1988/03/20
    公開日: 2011/09/07
    ジャーナル フリー
    当院で追跡調査中のB型肝炎ウイルス (HBV) キャリアにおける血中デルタ抗体 (anti-HD) を経時的に検索し, デルタウイルス (HDV) 感染とHBeAg/anti-HBe系ならびにtransaminase値の推移との関連について検討した.
    1) 調査中にHBeAgが消失した78例のHBVキャリア中16例 (20.5%) にanti-HDが検出された.これは対照として選んだHBeAg持続陽性の78例中7例 (9.0%) のanti-HD検出率に比べて有意に高率であった.そしてanti-HBe持続陽性例では78例中14例 (17.9%) にanti-HDが検出された.HBeAg消失例でanti-HDの検出された16例中7例にanti-HBeへのseroconversionが認められた.
    2) 追跡期間中にs-GPTの最高値が100IU/l以上を示した例 (s-GPT高度異常値群) は82例中21例 (25.6%) にanti-HDが検出され, s-GPTが常時50IU/l以下であった例 (s-GPT正常値群) の104例中8例 (7.7%) に比べて有意に高率であった.特に, anti-HBe持続陽性例においてs-GPT高度異常値群のanti-HD検出率はs-GPT正常値群に比して有意、に高かった.
    以上の成績より, HDVの感染はHBeAgの消失ならびにanti-HBeへのseroconversionを促進する一つの要因であると同時にanti-HBe陽性のHBVキャリアに肝障害を惹起させることが示唆された.
  • 数野 勇造
    1988 年 62 巻 3 号 p. 259-265
    発行日: 1988/03/20
    公開日: 2011/09/07
    ジャーナル フリー
    The mechanisms of oral vaccination have not been clarified yet. In this study, the mechanisms that prevent infection by oral vaccination with Vivrio cholerae (V. cholerae) were investigated. Mice were orally vaccinated with the whole cells, or IF 30 of V. cholerae. The splenic cells or Peyer's patches (PP) cells of these mice were removed and their in vitro antibacterial activity against V. cholerae was determined. The splenic cells of mice orally vaccinated with the whole cells of V. cholerae showed suppression of the bacterium after 6 administrations, but no suppression after a single administration. The PP cells of mice orally vaccinated with the whole cells of V. cholerae showed suppression, irrespective of the number of times of administration. In the groups of mice orally vaccinated with IF30, suppression of V. cholerae was exhibited by the splenic cells of mice after 4 administrations and by the PP cells of mice after a single administration. The above mentioned suppression of V. cholerae was induced by B cells included in the splenic or PP cells of orally vaccinated mice. None of the humoral antibodies of orally vaccinated mice suppressed V. cholerae. Consequently, it is suggested that infection of V. cholerae is prevented locally in the intestine by the primary effect of oral vaccination and then by the splenic cells that recognize the antigen of V. cholerae through consecutive oral administratons.
  • 渡辺 講一, 高瀬 登美子, 木下 明敏, 石野 徹, 河部 英明, 山住 輝和, 河野 茂, 林 敏明, 山口 恵三, 原 耕平
    1988 年 62 巻 3 号 p. 266-272
    発行日: 1988/03/20
    公開日: 2011/09/07
    ジャーナル フリー
    症例は82歳女性.昭和61年4月末より左膝関節炎のため, 近医にてステロイドホルモンの局注をうけていた.5月20日頃より38℃ 台の発熱が出現するとともに, 左膝関節の発赤腫脹が強くなり5月29日当院に入院.6月1日から呼吸困難, 咳嗽, 膿性痰が出現し, 胸部X線にて多発性の浸潤影を認めたが, 空洞化し陰影は次第に肺膿瘍へと進展した.
    左膝関節部の膿, 血液および喀痰より多剤耐性のStaphylococcus aureusを検出したため, 膝関節ドレナージを行うとともに, minocycline (MINO), cloxacillin (MCIPC) およびfosfomycin (FOM) の併用による強力な化学療法を行ったところ, 軽快治癒した.
    分離したMRSAに対する抗生剤のMIC値は, MINO: 0.25~0.5μg/ml, MCIPC: 0.05~1.0μg/ml, FOM: 2.5~5.0μg/ml, cefazolin (CEZ):>25μg/ml, methicillin (DMPPC): 25μg/mlであった.
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