本学附属病院中央検査部細菌検査室において, 1984年1月から1986年4月までの2年4ヵ月間に, 入院患者の血液培養より分離された
S.aureusを対象として, 薬剤感受性, ファージ型, コアグラーゼ型, TSST-1産生能の検索を行った.加えて菌が検出された患者の背景因子や治療抗菌薬について多変量解析を試みた.
1.検索期間中に検出された
S.amusは81株で, その中57株 (70.4%) がメチシリン耐性菌 (MRSA) であった.
2.このMRSAの中, 55株 (96.5%) がアミノ配糖体薬 (AGs) に耐性を示した.3′-燐酸転移酵素 (3′-APH) 産生能を除外すると, 当院における以前の調査では, AGs耐性のMRSAは, 6′-アセチル転移酵素と2′′-燐酸転移酵素のbifunctionalな酵素 (6′-AAC+2′′-APH) を産生する菌 (GMr-MRSA) と4′, 4 ′′-アデニリル転移酵素 (4′, 4′′-AAD) を産生する菌 (TOBr-MRSA) とに大別されていた.今回, 新たに両酵素を産生する菌 (GMr+TOBr-MRSA) が8株見出された.
3.GMr+TOBr-MRSAのファージ型, コアグラーゼ型, トキシン型は, GMr-MRSAのそれらと同様の株 (3株) と, TOBちMRSAと類似している株 (5株) とに分類された.このことから, hospital strain化しつつあるMRSAは次第に変異しつつあることが示唆された.
4.MRSAが検出された患者は, 1) 高齢であることに加えて, 何等かの意味で免疫不全状態にある脳疾患や悪性腫瘍, 心疾患, あるいは糖尿病等に罹患している患者, 2) 先天性免疫不全症や低出生体重児等highriskな状態にある小児, 3) 年齢を問わず (しかし実際は20歳台が多い) 多発性外傷や広範な熱傷における患者, の3群に大別することができた.菌が検出される時期は, 1) と2) では入院後積極的に抗菌薬の投与が行われた1週間以降の患者が多く, 3) は入院短期間の患者が多かった.
5.MRSAの検出例では, 前治療薬として第2, 第3世代セフェム系薬が使用されている例が有意に高いことが, 林の数量化理論第II類による解析で示された.
6.GMr-MRSAは内科系病棟に入院している患者, TOBr-MRSAは外科系病棟に入院している患者からそれぞれ多く検出されていた.その理由としては, 内科系病棟では前治療薬として比較的単独使用例が多いのに対し, 外科系病棟では併用例の多いことが関与していると考えられた.
7.MRSA感染症にはいずれも多くの抗菌薬が治療薬として併用されていた.数量化理論による解析は, 部分的には有用と考えられる薬剤もいくつか認められた.しかしながら, 積極的に最も有用であると断定し得る抗菌薬は見出されなかった.上記の成績から, MRSAによる感染症は, 一度発症すると極めて難治であることが明らかにされた.
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