感染症学雑誌
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64 巻, 3 号
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  • 黒岩 豊秋, 小張 一峰, 岩永 正明
    1990 年 64 巻 3 号 p. 257-263
    発行日: 1990/03/20
    公開日: 2011/09/07
    ジャーナル フリー
    生菌性整腸剤の効果に対する作用機序解明並びに実験的評価を目的として, 各種腸管病原菌と酪酸菌MIYAIRI 588株を混合培養し, 経時的に菌数の増減を測定した. 腸管病原菌はいずれも患者由来株を使用し, 37℃ 嫌気培養を行った.
    混合培養において酪酸菌は, コレラ菌・ナグビブリオ・アエロモナス・赤痢菌の発育を強く抑制した. 酪酸菌は主として消化管下部において発芽増殖するので赤痢菌との関連を更に追求し, 次のような結果を得た. (1) 赤痢菌をBHIbrothで嫌気培養すると培養終了時に培地のpHは5.2程度まで下がったが, 菌は順調に発育した. (2) 酪酸菌と混合培養するとpHは5.6程度で留まったが, 赤痢菌の発育は強く抑制された. (3) 酪酸菌24時間培養液はpH5.5前後であり, この上清中で赤痢菌は全く増殖できなかった. (4) この上清をNaOHでpH7.2に調製すると赤痢菌は新鮮培地におけると同様に増殖した. (5) 培養中のpHを6.0以上に維持させるため燐酸緩衝液を加えたBHIbrothでも混合培養によって赤痢菌の増殖は抑制された. この様な結果から, 酪酸菌による赤痢菌の発育抑制は, 培地のpH, 代謝産物など単一の要因によるものではなく, その両者及び酪酸菌そのものの存在が作用しあっているものと考えられた.
  • 木村 朝昭, 大竹 徹, 上羽 昇, 峯川 好一
    1990 年 64 巻 3 号 p. 264-268
    発行日: 1990/03/20
    公開日: 2011/09/07
    ジャーナル フリー
    日本脳炎ウイルス (JEV) 持続感染系のC6/36 (C6/J-121) 細胞を用いた間接蛍光抗体 (IFA) 法による日本脳炎の血清学的迅速診断の有用性について実験動物, 日本脳炎患者およびJEVに自然感染した豚血清等を用いて検討した.
    JEV特異的抗体は3~5時間以内に検出され, 非特異的蛍光は殆ど観察されなかった.
    C6/J-121細胞と抗IgG抗体によって測定したIFA (IF-IgG) 法による抗体検出感度及び血清学的特異性は赤血球凝集抑制 (HI) 試験法とほぼ同等であった. また, 日本脳炎患者 (真性) 血清およびJEV感染豚血清からIgM抗体の検出を試みた。C6/J-121細胞と抗IgM抗体を用いたIFA (IF-IgM) 法は, 予め血清の2-ME処理を必要とする従来のHI法に比較して容易に, また迅速にIgM抗体を検出しうる検査法であると思われた.
  • 後藤 美江子, 奥住 捷子, 後藤 元, 島田 馨
    1990 年 64 巻 3 号 p. 269-273
    発行日: 1990/03/20
    公開日: 2011/09/07
    ジャーナル フリー
    非定型抗酸菌のうち, わが国で最も分離頻度の高いM. aviumcomplexのDNAプロープ法による同定を試みた. DNAプローブはGen-Probe社のM. aviumcomplex同定キヅトを用いた. 本法によるM. avium complexの同定成績は従来法と比較し, 感度: 98.8%, 特異性: 100%, 2法間の一致率: 99.1%と優れており, かつ従来法では困難なM. aviumM. intmcellulaieの区別が可能であった.DNAプローブ法はラジオアイソトープを使用するという不便さを除けば, 手技は簡便であり, かつ迅速性においても優れていた. 本法による同定成績に基き, 東京大学付属病院において, 1970年から1980年の10年間に各種臨床材料より分離されたナイアシンテスト陰性の非定型抗酸菌104株における菌種別分離頻度を検討したところ, M. aviumcomplexを含むRunyonの分類III群の分離菌が81株を占め, そのうち75株迄がM. aviumであった.
  • 特に抗ロタウイルス抗体-の基礎的研究
    牛島 廣治, 大楽 真健, 本間 仁, 向山 淳司, 北村 敬
    1990 年 64 巻 3 号 p. 274-279
    発行日: 1990/03/20
    公開日: 2011/09/07
    ジャーナル フリー
    ウシ初乳のホエーおよび免疫グロブリンを作製し, その性質と抗ウイルス活性を調べた. 初乳中にはIgG, A, Mが存在し, IgGの多くがポリマーを形成していた.
    ウシ, サル, ヒトロタウイルスに対する中和活性は存在するものの, ヒトアデノウイルスに対する中和活性はなかった.
    ロタウイルス胃腸炎の予防, 治療に効果があることが予測された.
  • 岡崎 武二郎, 大橋 誠, 一言 広, 石上 武, 町田 豊平, 小野寺 昭一
    1990 年 64 巻 3 号 p. 280-283
    発行日: 1990/03/20
    公開日: 2011/09/07
    ジャーナル フリー
    1988年に都立台東病院泌尿器科の男子淋菌性尿道炎患者から分離されたPPNG22株について, プラスミドDNAの測定を行った.
    PPNG22株のうち3株 (14%) は3.3メガダルトンのプラスミドを有し, しかも3株全部が同時に24.5メガダルトンの耐性伝達プラスミドをも有する新アフリカ型PPNGであった. また, 22株のうち19株 (86%) は4.4メガダルトンのプラスミドを有するアジア型であり, この19株のうち5株 (26%) は24.5メガダルトンのフプラスミドを有していた.
    新アフリカ型PPNG3症例の感染源は, 1例はフィリピンであったが, 2例は都内のソープランドであり, 新アフリカ型PPNGがすでに国内に定着していることが示唆された.
  • 別所 敞子, 松本 明
    1990 年 64 巻 3 号 p. 284-288
    発行日: 1990/03/20
    公開日: 2011/09/07
    ジャーナル フリー
    Chlamydia trachomatisによる尿路性器感染症を疑われた患者の材料を分離培養法と直接蛍光抗体法 (DFA) によって抗原検索し,その結果を比較した. また抗原陽性者の追跡調査を行った.
    1) 1,086検体を分離培養法とDFA法で調べた結果,両者の間で陽性一致率80%,陰性一致率92%が得られたが,DFAの陽性率が分離培養法に比べやや高かった.
    2) 追跡調査できた抗原陽性男子94人,女子27人のうち,それぞれ31人 (33%), 5人 (19%) が7日~2.5年後の検索で再度抗原陽性であった.
  • 田口 晴彦, 桂 卓也, 山口 博之, 白石 靖盛, 植草 丈幸, 緒方 幸雄
    1990 年 64 巻 3 号 p. 289-294
    発行日: 1990/03/20
    公開日: 2011/09/07
    ジャーナル フリー
    グラム陰性桿菌に存在する60kDaの交差反応性共通蛋白抗原 (Cross-reacting protein antigen: CRPA) に対するモノクローナル抗体およびポリクローナル抗体をゼラチン粒子に感作し,逆受身凝集反応によりCRPAを検体から検出することについて検討を行った. その結果,モノクローナル抗体500μg/mlを感作したゼラチン粒子は, 200ng/mlの精製CRPAと反応し凝集魂が形成された. また, 200μg/mlのポリクローナル抗体を感作したゼラチン粒子は, 25ng/mlの精製CRPAと反応しうる感度を示した.
    更にポリクローナル抗体を感作したゼラチン粒子を用いた逆受身凝集反応により, 14菌種60株の尿路感染症起因菌について,それらの可容性菌体抗原中のCRPAの検出を行った. 検討した菌株のうち,すべてのグラム陰性桿菌からCRPAを検出することができた. しかし,グラム陽性球菌についてはCRPAが検出されなかった. CRPAの検出されたグラム陰性菌において,菌種による凝集価の特異性は認められなかった. 以上の結果から,CRPAに対する抗体を感作したゼラチン粒子を担体とする逆受身凝集反応は,グラム陰性桿菌による細菌尿の早期診断法として,有用である可能性が示唆された.
  • 荒島 康友, 井口 和幸, 久保 信彦, 熊坂 一成, 奥山 清子, 河野 均也, 原田 稔, 島袋 宏明, 斉藤 トモ子, 伊佐 浩紀, ...
    1990 年 64 巻 3 号 p. 295-298
    発行日: 1990/03/20
    公開日: 2011/09/07
    ジャーナル フリー
    Zoonosisとしてのジアルジア症の感染経路に関する基礎資料の1つとするために, イヌ80頭, ネコ16頭について糞便中よりジアルジアのシスト検出を行い, イヌ・ネコのジアルジアの保有率を調査した. また, ヒトのジアルジア症の1例については, 家族3人の家族内感染の調査もあわせて行った.
    イヌ・ネコのジアルジア・シスト保有率は, イヌ80頭中10頭 (12.5%) であったのに対しネコでは全例陰性であった. シストが分離されたイヌ10頭中6頭の購入以前の飼育の場は, 動物の飼育専門家であった. また, 他の2頭は研究施設の飼育犬であった. ヒトジアルジア症の家族については家族内感染は認められなかった.
    イヌ・ネコのジアルジア・シスト保有率が低率であったことから, イヌ・ネコがヒトのジアルジア症の原因となる可能性は低いと思われた. しかし, 我々がこれまでに経験したジアルジア症には海外渡航歴のない症例があったこと, 低率ながらイヌにジアルジア・シストを認めたこと, ペットの飼育の増加傾向等を考慮すると, ヒトのジアルジア症とペットとの関係に注意が必要であると考えられた.
  • 10年間の推移
    堀内 篤, 長谷川 廣文, 正岡 徹, 柴田 弘俊, 木谷 照夫, 田川 進一, 川越 裕也, 平田 充彦, 米沢 毅, 金山 良男, 巽 ...
    1990 年 64 巻 3 号 p. 299-309
    発行日: 1990/03/20
    公開日: 2011/09/07
    ジャーナル フリー
    阪神造血器疾患感染症研究グループで過去10年間に扱った細菌感染症2,119例について検討した. 基礎疾患は白血病が77%を占め, 悪性リンパ腫は11.8%であった. 感染症では敗血症疑いが68.6%, ついで気道感染症, 敗血症の順であった. 気道感染症や尿路感染症は徐々に減少傾向を示した. 起炎菌は532菌株が明らかにされた. グラム陰性菌62.8%, グラム陽性菌36.5%であったが, 最近4年間はグラム陽性菌が優位であった. E. coli, Klebsiella属などは減少傾向を示したが, Pseudomonas属はほとんど変化しなかった.Staphylococcus属, Streptococcus属, Enterococcus属はいずれも増加傾向を示した. とくに第三世代のセフェム系抗生剤が使用されてからこの傾向が強くなった.
    抗生剤は23種が単独投与された. 有効率は50%台が多かった. 有効率と末梢好中球数は密接に関係し, とくに抗腫瘍剤投与後のnadir期から回復する時期に有効率が上昇した. 好中球数が500/μ1以下で治療後も回復しない症例の有効率は45.9%, 100/μ1以下で治療後も回復しない症例のそれは36.0%であった.
  • 細村 泰夫
    1990 年 64 巻 3 号 p. 310-320
    発行日: 1990/03/20
    公開日: 2011/09/07
    ジャーナル フリー
    培養McCoy細胞における生殖器由来Chlamydiat rackomatis (以下C. trackomatis) 株の特異な増殖環の各段階に, minocycline (MINO) 1μg/mlを作用し, 経時的に透過型電子顕微鏡で観察し以下の成績を得た.
    1) McCoy細胞におけるC. tmckomtisの最小発育阻止濃度 (MIC) は, 0.025μg/mlであった.
    2) 接種開始時より接種液にMINOを添加した場合, 遠心接種あるいは静置接種いずれの場合でも, MINOはelementary body (EB) のMcCoy細胞への吸着, 侵入を阻害しなかった. 48時間後 (遠心接種), 侵入したEBの74%が前期intermediate form (IF) に展開し, MINOはEBから前期IFへの展開を阻止しなかった. しかし, reticulate body (RB) の出現や封入体形成は完全に阻害された. 侵入したEBは前期IFに変化する段階で, 細胞壁の重複化や細胞質の融解性変化などの形態異常がみられた.
    3) 遠心接種後12時間で, RBが出現した段階にMINOを作用させた場合, RBから後期IFへの展開は阻止された.
    4) 遠心接種後24時間の封入体では, 1断面あたり後期IFは平均0.64個, EBは平均0.17個生じている. この段階に, さらにMINOを24時間作用させると, コントロールの後期IFの平均10.5個, EB65.6個に対し, MINO作用群では後期IFは平均0.10個, EBは0.67個となった. a) MINOを24時間作用させた場合, 後期IFの有意の減少 (0.64→0.10) と, EBの有意の増加 (0.17→0.67), b) MINOを作用させても後期IFとEBの合計にはほとんど変化がみられないこと (0.64+0.17=0.10+0.67), c) コントロールの後期IF: EBの比 (10.5: 65.6=1: 6.2) に対し, MINO作用群の後期IF: EBの比 (0.10: 0.67=1: 6.7) がほとんど同じであることが, 認められた. b) より, MINOはRBから後期IFへの展開を阻害すると考えられ, a), b) およびc) より, 後期IFからEBへの展開は阻害されないとo考えられた.
    tetracycline系の抗生剤であるMINOは細菌のリボゾームにおけるタンパク合成を阻害することが知られている. このことに基づいて推察すると, 宿主細胞へのEBの吸着, 侵入段階およびEBから前期IFまでの発展段階では, 新タンパク合成を必要としないが, 前期IFからRBおよびRBから後期IFへの展開では新タンパク合成を必要とし, 後期IFからEBへの展開では, 新タンパク合成を必要としないと考えられた.
  • 杉山 正子, 西山 泰暢, 横尾 裕, 稲積 温子, 村井 貞子
    1990 年 64 巻 3 号 p. 321-327
    発行日: 1990/03/20
    公開日: 2011/09/07
    ジャーナル フリー
    B群溶血レンサ球菌 (以下B群溶レン菌) の血清型別は, 本感染症の疫学的研究にとって重要な手段である. しかし近年, 重症感染症から分離されるB群溶レン菌の中に, 従来の型別血清を用いて型別不能 (NT, non typable) の菌株が増加してきた.
    一方,“M9”菌株については, 一部感染症学会等で口頭で報告をしてきた.
    本論文では, B群溶レン菌“M9”菌株の血清学的性状を確認すると共に, 仮称“M9”菌型として型別される菌株の分布について報告し, 新菌型としての“M9”菌型の有用性を示す一助としたい.
    結果は以下の如くである.
    1) 沈降反応及び交差吸収試験により“M9”-菌株は, 既知の1a, 1b, II, III, IV, V, 及びType cand, NT6, Type cand, 7271とは異なる多糖体抗原性を保有していた.
    2)“M9”菌株自体は, 保菌者分離菌株であるが, これと同じ抗原性をもつ“M9”菌型 (仮称) のB群溶レン菌は, 新生児敗血症患児の血液からも分離された.
    3) 1975年以来の患者由来菌株を検討した結果“M9”菌型 (仮称) は1979年に千葉市及び京都市で分離された菌株が最初であり, 必ずしも名古屋市に限られた分布ではなかった.
    4) 本研究の範囲内では“M9”菌型 (仮称) と型別された菌株では蛋白抗原Rを伴うことがあった.
  • 江部 司, 松村 万喜子, 森 健, 高橋 まゆみ, 小原 共雄, 稲垣 正義, 礒沼 弘, 日比谷 一郎, 浜本 恒男, 船山 秀昭, 渡 ...
    1990 年 64 巻 3 号 p. 328-334
    発行日: 1990/03/20
    公開日: 2011/09/07
    ジャーナル フリー
    広節裂頭条虫 (Diphyiobothrium latum) はサクラマス, カラフトマス等を第2中間宿主として人に感染するが, 最近これによる感染症が増加傾向にある.
    今回我々の病院で経験した8例について検討したので報告する. 8例中7例は虫体の排出を認めて来院したもので, 便中に虫卵を8個, 30個, 434個, 検出した例が各1例, 1,000個以上検出した例が2例認められた. また2例はマス寿司を, 1例は解凍しかかったルイベを, 1例は塩ザケを寿司にして摂取した既往があった. そのほか1例は海外出張を繰り返しており, 海外で感染した可能性がある. 4例は感染源は不明であった.
    7例にビチオノールの経口投与を行い, 4例が虫体を排出し, そのうち3例は頭節も確認できた. いずれも再発をみていない.
    食生活が多様化すると共に, 海外渡航時に感染する機会もあり, 今後この種の寄生虫による疾患の増加に注意する必要があると考え報告した.
  • 普久原 浩, 玉城 和則, 中村 浩明, 兼島 洋, 伊良部 勇栄, 下地 克佳, 橘川 桂三, 重野 芳輝, 金城 福則, 斎藤 厚
    1990 年 64 巻 3 号 p. 335-341
    発行日: 1990/03/20
    公開日: 2011/09/07
    ジャーナル フリー
    近年, 診断法の進歩や疾患概念の理解の普及に伴い, 原因疾患の様相が変化している.
    我々は, 1982年11月より1988年11月までの約6年間に琉球大学第1内科に入院した1,596例の中からPetersdorfら (1961) の不明熱の定義を満たす48症例を比較検討した. 原因疾患は感染症52.1%(25例), 結合組織病16.7%(8例), 悪性腫瘍14.6%(7例), その他6.3%(3例), 診断不能10.4%(5例) の5群に分類された.主な疾患は感染症では慢性扁桃炎20%(5例), 無菌性髄膜炎12%(3例), 頚部リンパ節炎12%(3例), 結合組織病では成人Still病37.5%(3例), SLE25%(2例), 悪性腫瘍ではImmunoblastic lymphadenopathy 42.9%(3例), その他は全例Crohn病 (3例) であった. 発熱持続期間は感染症では比較的短期間であり, 悪性腫瘍とCrohn病では長期に亘る傾向がみられた. 結合組織病では一定の傾向はみられなかった. 入院時検査では, 感染症や悪性腫瘍においては異常所見が比較的軽度であったが, 結合組織病では高度であった. 不明熱の原因として近年, 慢性扁桃炎, 成人Still病, Immunoblastic lymphadenopathy, Crohn病の増加が注目される結果であった.
  • 中野 義隆, 栗原 直嗣, 高松 健次
    1990 年 64 巻 3 号 p. 342-349
    発行日: 1990/03/20
    公開日: 2011/09/07
    ジャーナル フリー
    症例は46歳, 男性で湿性咳漱を主訴として昭和63年3月16日当科に入院した. 胸部単純写真や断層写真にて右上葉縦隔側の腫瘤陰影と, その浸潤によると思われる気道の狭窄が見られた. 気管支鏡検査の結果, 下部気管の右側壁から気管分岐部へと周堤状に連続する結節状腫瘤があって, 右主気管支はほとんど閉塞されており, 腫瘤の生検でlow differentiated adenocarcinomaとの診断を得た. 右上葉原発の肺癌が気道に直接浸潤したものと思われた. 原発巣と思われる腫瘤及び気道への浸潤部を中心に, リニアック照射を実施した結果, 著明な改善を得て5月12日退院した.
    ところが7月中旬より痩声が出現し, 8月下旬には顔面の浮腫や強い全身倦怠感が現れるようになった. 9月に入ると呼吸困難も出現, そして同13日には起坐呼吸の状態に陥り, 翌14日再入院した. 胸部CTでは再び気管の著明な狭窄が認められた. 再度リニアック照射を施行して症状は改善したが, 10月15日になって突然38℃ の発熱が出現し, 直ちに血液培養, 経気管吸引法 (TTA) による喀痰培養をおこなった. 培養4日後に血液からグラム陰性桿菌が検出され, fosfomycin, tobramycinを併用投与したが, 10月23日に大喀血をおこして死亡した.
    死亡後, このグラム陰性桿菌は生化学的性状などからCapnocytophaga ochraceaと同定された. なおTTAからは本菌を検出することはできなかった.Capnocytophaga ochraceaをま敗血症の原因菌としては極めて稀であり, ここに報告した.
  • 篠崎 立彦, 荒木 和子, 小林 正明, 目黒 英典, 阿部 敏明
    1990 年 64 巻 3 号 p. 350-351
    発行日: 1990/03/20
    公開日: 2011/09/07
    ジャーナル フリー
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