僧帽弁閉鎖不全症の62歳の女性が1週間の発熱, 肉眼的血尿, 貧血および結膜出血斑のため入院し, 超音波心臓図法の所見から感染性心内膜炎と診断された. この患者の抗生物質投与前に, 2種類の培地の培養瓶各1本を組み合わせて, 5組10本の血液培養瓶のすべてからグラム陰性桿菌を分離し,
Haemophilus aphrophilusと同定した.
患者はbenzylpenicillin (PCG) 1,200万単位/dayの投与で翌日には菌が検出されなくなったが, CRPの高値と僧帽弁疣贅が消失しないため, 分離菌株が感受性を示したampicillin (ABPC) を当初12g/day 3日間, その後6g/dayを4週間投与されて全身状態は軽快し入院55日後に退院した.
患者血液由来菌は全て血液培養瓶の沈澱血球層の上に顆粒状に発育し, 分離した5菌株はX因子およびV因子を要求せず, 通常の好気環境下でドリガルスキー改良培地, ヒツジ血液寒天培地およびチョコレート寒天培地に発育し, 48時間培養ではS型で直径1.0mm程度のコロニーとR型で直径0.5mm程度のコロニーを生じ, 非運動性でオキシダーゼ反応陽性, 硝酸塩を亜酸塩に還元した. Phenol red broth (Difco) およびCystine-trypticase-agar (CTA) medium (BBL) でグルコース, ラクトース, スクロースを発酵して酸を産生したが, マンニトール, キシロースは陰性であった. コロニー性状がS型, R型と異なっても生化学性状はすべて同じであった. これらの性状より,
Haemophilus aphrophilusと同定した. IDテストHN20ラピッド, VITEK
® NHI Identification Cardでは同定できなかった. 感受性の結果は菌株によって相違がみられ, ABPC, セファロスポリン系薬剤には感受性であったが, PCGには9株が感受性 (S) で, 1株が中間 (I) であった.
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