ペニシリン耐性肺炎球菌による肺炎の感染病態を検討する目的で, 臨床分離ペニシリン感受性菌 (J4株, ペニシリンG (PCG) のMIC0.016μg/ml) と臨床分離ペニシリン耐性菌 (PSTY045株, 同2.0μg/ml) を用い, マウスに実験的肺炎を作製し, 以下の検討を行った.上記各々の菌株を用いた感染治療実験において, コントロールとした未治療群の場合は何れの菌株による肺炎の場合とも4-5日目に全ての動物が死亡したが, PCG治療時のED50値は, J4株感染群で14,800IU/kg, PSTY045で92,600IU/kgと顕著な差がみられた.未治療の場合は何れの菌株の肺炎も, 感染24時間後には肺胞腔内に炎症細胞の浸潤を認め, 感染72時間後には組織学的に大肺葉性肺炎の像を認め典型的な肺炎球菌性肺炎の経過を呈したが, 詳細にみるとJ4株感染群で血管周囲の好中球浸潤がより著明であった.両菌株感染群で血液培養を検討した結果, J4株感染群で感染24時間後に全マウスが陽性を示したのに対し, RSTY 045株感染群では, 4日間の肺炎経過を通しての陽性率は6.7%であった.両株についてPneumolysinの測定を行った結果, J4株191HU/ml, RSTY 045株, 1,622HU/mlと血液培養の結果とは相関が認められなかった.
J4株, RSTY 045株以外の臨床分離株6株でも同様の検討を行い, 感受性菌感染群に血液培養陽性率の高い傾向を認めるものの, Pneumolysisの測定値とマウス死亡率, 血液培養陽性率とに明らかな相関は認められなかった (p>0.05).
以上の成績から, 今回の検討では耐性菌感染群で投与薬剤量に相関する治療効果が認められ, 高用量ペニシリン投与のペニシリン耐性肺炎球菌性肺炎に対する有用性が示唆された.耐性菌 (RSTY 045株) 両感染群で大葉性肺炎の組織学的経過を呈し, 感受性菌 (J4株) では肺動脈周囲の炎症反応が著明であった.それを反映し感受性菌で肺炎に高頻度に敗血症を合併することがモデルで再現された.しかし肺炎球菌のPneumolysin産生が単独で敗血症の発症に関与するのではなく, 他の因子, または複数の要因が敗血症合併に関与することが考えられた
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